morimori

続・小さな畑のある本

続・小さな畑のある本

『チルチンびと』89号「特集・小さな畑のある家」にちなんで、ビブリオ・バトルか、読書会か。続きです。


……
Sさん。みんな、文学的、哲学的ですから、ボクは、モロ植物で。『植物はすごい ー 七不思議篇 ー 知ってびっくり、緑の秘密』(田中  修・中公新書)。一例をあげますね。トウモロコシの毛は、何か ?
〈一本のトウモロコシの果実を買ってくると、ヒゲのような細く長い毛がいっぱいついています。「このフサフサの毛は、いったい何だろう」と、“ふしぎ”に思われます。あの毛を先から基部へたどっていくと、一粒の実があります。あの一本一本の毛の下に一粒の実ができるのです。〉
このほか、なぜゴーヤの“緑のカーテン”は涼しいのか?  トマトは、野菜か果実か?  など、チエがつきました。
Eさん。『 a day in  the life 』(安西水丸・風土社)。安西さんは、幼いとき南房総の家で母親と暮らしていた。その地、母親への郷愁が独特ですね。「わが家にはテニスコートほどの菜園があった」の章から。
〈母と一緒に落花生の茎を引っぱると、土の中からぼろぼろと実が出てくる。それを水洗いしてよく茹でてもらった。秋口には運動会もあって、どの家でも昼の弁当の時間には茹でた落花生を食べていた。運動会は大嫌いだったが、お昼に食べた茹でた落花生の思い出は母の思い出に繋がって胸苦しい。〉
そうか、もう秋だなと、みな、想う。それぞれの秋を想う。
……


『チルチンびと』89号 好評発売中です!

 


小さな畑のある本

小さな畑のある本

『チルチンびと』89号  「特集・小さな畑のある家」にちなんで、ビブリオ・バトルか、読書会か


……
Aさん。「ええ、またか、と言われるでしょうが『父・こんなこと』(幸田  文・新潮文庫)。露伴から、暮らしのすべてについて教えられたのは、ご存知の通りですが、その幸田さんの文章。
〈畠もやらされた。およそ道具は皆素人向きな物では満足できなかった人であったから、鋤鍬は百姓なみの大きい重いものであった。〉と書くのです。さらに、〈「百姓の道具は力学的になかなかうまくできてる」などと、父は着流しの庭下駄で私の労働を見ながらその辺をゆらりゆらりと歩く。〉とも、書いています。やがて、豆を蒔き、菊をつくり…… その折々の描写が好きですね。
Eさん。やっぱり、人生の達人は違うんですよ、なにをやっても。『寺田寅彦 随筆集 第一巻』(小宮豊隆編・岩波文庫)のなかの「芝刈り」の章を読んでもね、そう思う。例えば ……。
青白い刃が垂直に平行して密生した芝の針葉の影に動くたびにザックザックと気持ちのいい音と手ごたえがした。葉は根もとを切られてもやはり隣どうしもたれ合って密生したままに直立している。その底をくぐって進んで行く鋏の律動につれてムクムクと動いていた。〉
そしてね、芝生を刈りながら、いろんなことを考える。自分は植木屋の賃銀を奪っているのではないか、とかね。観察が、いいんです。
……


『チルチンびと』89号は、9月10日発売です。お楽しみに。

 


私、ドーナツの味方です

ドーナツ

 

ドーナツの売れ行きが落ちている、という。コンビニでも、ひと頃の勢いがないらしい。糖分があり、脂分があり、からだにいかがなものかというのが、不人気の理由の一つらしい。そんなぁ。私は、ドーナツの味方である。どなたか、他にいないか。『なんたってドーナツ』(ちくま文庫)を読んだ。41人の方が、ドーナツへのアツイ想いを書いている。そのなかに、おや、西淑さんがいた。西さんは、この「広場」のトップを飾るイラストを描いたひとである。まるでそのイラストのような味の文体で、「わたしのドーナツ」を書いている。


……
ドーナツには、コーヒー。
コーヒーが飲めるようになってからは、ずっとそう思っている。
コーヒーを飲みたくてか、
ドーナツを食べたくてか、
たばこの煙でくもった、うす暗い喫茶店に向かう。
……


そして、なんと “ 西流レモンドーナツのつくりかた ” を、4 ページにわたって披露している。ドーナツの輪、です。

 


田中角栄論

『旦那の意見』(山口瞳・中公文庫)

 

田中角栄についての本が、ベストセラーの上位を占めている。書店でも『天才』(石原慎太郎・幻冬舎)、『田中角栄 100 の言葉』(宝島社)などが、目立つ。『天才』という角栄の生涯を書いた本の帯には、「 90 万部突破」とあった。それなら、ぜひこれも、読んでいただきたいと思うのが、『旦那の意見』(山口瞳・中公文庫)に収められている「下駄と背広・私小説的田中角栄論」だ。山口さんは、その文章のはじめのほうで、こんなふうに書いている。

〈私が敗戦の報を聞いたのは、八月十五日、鳥取の山中の小学校の教室(それが兵舎だった)のなかだったが、私が直観的に得たものは、これからどういう世の中になるかということはわからないが、今後は「才あって徳なき」人たちの世界になるだろうということだった。 ……  しかし、まあいいや。「どうせ生き永らえるに値しない」世の中になるのである。〉

まもなく、その八月十五日がやってくる。

 


金子國義さんの世界

 「金子國義 生誕 80年記念」展

 

「金子國義 生誕 80年記念」展へ行く。たくさんの作品を見ていると、金子さんの色校正をチェックするときの声が聞こえてくる。「ぼくの赤は、血の色なんです」「このグリーンは、ビリヤードの台の色で」

会場で販売されている『金子國義スタイルブック』(編著・金子修、岡部光。アートダイバー刊)で、金子さんの多彩な言葉にふれることができる。たとえば………

〈目でスケッチしなさい。〉
〈1 ミリのこだわりが  世界を変える。1 ミリが見えない人は、何も見ていないも同じ。〉
〈人間はキュートに生きないとね。〉


…………
「金子國義生誕 80 年記念」展は、恵比寿・シス書店で。8月 21日 まで。

 


世界遺産の恍惚と不安

国立西洋美術館

 

「国立西洋美術館  世界遺産へ」「やった  台東区歓声」という見出しが新聞に踊った。アメ横に行ったら、あちこちに「祝  世界文化遺産登録」のポスター。夏休み、見物客の人出と混乱も、心配されているという。富岡製絲場の場合、登録される前の年の4倍、130万人以上の人が訪れたという。

『ル・コルビジュエを見る』(中公新書・越後島研一)に、こうある。
〈…… ロンシャン教会堂についてのインタビューで、無神論者であることを指摘された彼は、「私は信仰の奇跡を経験したことはありません。しかし、言語にできない空間の奇跡はしばしば経験しています」と答えてもいる。……〉

 


サヨナラ 永六輔さん

大晩年

 

若い頃は、死ぬのは怖い、寂しいことだと思っていました。『大往生』を書いた頃も、最期が近づくと怖くなるかな、と思っていました。でも、実際にその時が近づくと、不思議なことにちっとも怖くありません。親しい人が亡くなっていくごとに、皆さんが先に行っているというだけの話なんだ、後から行けばいいんだ、と感じるようになったのです。
……
永さんは、『大晩年』(中央公論新社)の中で、こう書いている。
少し前、お目にかかったとき、お願いして、永さんの乗った車椅子を押させてもらった。短く、きれいに刈った頭が、すぐ近くに見えた。車椅子は、思ったより軽かった。

 

 


山上たつひこ 原画展

山上たつひこ  原画展

「山上たつひこ  原画展」へ行った。会場の壁面を飾る、たくさんの がきデカたちが、迎えてくれる。それらを楽しんだあと、『文藝別冊  山上たつひこ』(河出書房新社)を求め、五軒さきの十一房珈琲店で、読む。ロンゲスト・インタビュー(訊き手・澤田康彦『暮しの手帖』編集長)が、漫画家生活 50年 のウラとオモテを語って、オモシロイ。たとえば ……。

「笑いが山菜だとしたら、ギャグは人の手が加わった野菜。大阪の土壌はよほどその栽培に適しているんでしょう」
「こまわりや逆向春助は私の理想像です。特に逆向春助。生まれ変わってあんなふうに生きてみたい」
「『少年マガジン』で描くのは銀座でフランス料理店を開く感じ。『少年チャンピオン』で描くのは町内でタコ焼きを売る感じでした」


………
「山上たつひこ 原画展」は、7月12日まで。銀座、スパンアートギャラリー(03-5524-3060)で。

 


ホットケーキのコカ・コーラがけと領収書

村上春樹とイラストレーター   ・  佐々木マキ / 大橋歩 / 和田誠 / 安西水丸

 

西武新宿線、上井草駅で降りる。「ちひろ美術館」へ行くのである。「村上春樹とイラストレーター ・ 佐々木マキ / 大橋歩 / 和田誠 / 安西水丸」(~8月7日)へ行くのである。
いくつもの作品とイラストレーションの響宴を見て、カフェへ。
「ホットケーキのコカ・コーラがけ」を注文。いただきます。ホットケーキに、コカの部分が吸収されたような、コーラ漬けの甘く冷たいケーキをスプーンで食べる。美味しいかって ?  うーん。風の歌に訊け。
700円 + 税 = 756円。近ごろ話題の領収書を、添えておきます。もちろん、自分のお金で払いましたよ。


……
ちなみに、この “ 広場 ” のギャラリーでも、安西水丸『a  day  in  the  life』展を開催中。コチラから、お入りください。入場無料。

 


続・人の集まる家のメニュー

山口瞳家

 

『チルチンびと』88号 ― 特集・人の集まる家にしたかった ― のタイトルから、かつての山口瞳家(つまり、変奇館)の新年会を思い出した。100人も元日の客のある家のご馳走は、こうなる。山口瞳さんは、『男性自身』に書いている。

〈正月の料理というものは、大皿に盛っておけば、なんとなく足りてしまうものである。もっとも、マグロのトロのところとタコは夕方に売り切れてしまった。私が本日の目玉商品だといって推奨したせいもあるけれど、うまいものは皆がよく知っている。キントンは深夜になくなった。

そして、この宴の盛りあがりについても、山口さんは、やはり、エッセイで、こう書く。

〈近くに住む人で、元日でも夜中にマラソンをする人がいるが、その人の話によると、私の家に近づくと、家自体が一箇の巨大な楽器のように思われたという。〉

人が集まるということは、楽しさを奏でるということだろう。


……
『チルチンびと』88号、特集・人の集まる家にしたかった ー は、 6月11日発売です。
また、“ チルチンびと広場 ” 連載 「変奇館、その後 (山口正介)」は、コチラからごらんいただけます。