第四十四回 Artとしての竹工芸も

オーストラリアへ出かけてきました。目的はメルボルンのヴィクトリア国立美術館(National Gallery of Victoria 以下 NGV)を訪ね、日本の竹工芸のコレクション約30点が並ぶ展覧会『Bamboo;Tradition in contemporary form』を鑑賞すること。そこには私の籠も含まれており、十月末のトークイベントのタイミングに合わせて渡航しました。

今回の展示をはじめ、近年は英語圏を中心に竹工芸の評価が高まっています。ここで話題にする竹工芸とは、主に日用品として用いられる竹の道具や籠とは性質を異にするもので、煎茶や抹茶の茶道具などの細密な工芸技術から派生し、美術としての鑑賞に耐えうる器物として明治から戦前にかけて国内外で人気を博した竹籠と、その歴史を踏まえた現代の制作とでも申しましょうか。現代においては賞玩の中心が英語圏に移りつつあり、土壌が変わったことで文脈が変わり、制作のあり方も変化している、その流れを実際に目で見ることができるのが、今回の展覧会です。
 
(左)NGV外観(右)造形的作品を背景に討議

トークイベントにおいては、NGVデザイン担当キュレーターを司会に、過去の伝統的歴史的文脈に加えてコンピューターや数学、建築学といった視点から、工科大学の教官とNGV日本美術担当キュレーターによる討議が行われました。イベントテーマや展覧会タイトルとその内容からは、現代を支点に過去と未来の双方向の時間を見つめながら、ArtあるいはDesignの文脈で鑑賞し応用しようという、竹工芸との新たな接し方が見て取れます。

もともと日本の竹工芸は、何らかの用途を帯びた形で造形され、用いる場で賞玩する、茶の湯の道具の役割に似た性質を持っていました。日本以外の地域にも受け手の土壌が広がったことで、より鑑賞の比重が増し、それに応じた造形の変化と、必要な技術の発生が促される、いわば外からの要請による新しい風が流れ込んでいます。
 
(左)伝統的な花籠の牡丹籠(右)初田徹 作『千筋盛器』

さて、新たな流れについてのざっとした話をしましたが、ふだんの暮らしで用いる生活のための籠、Artとして迎えられる籠、それぞれ魅力と役割のあるもので、どちらが良いとか要不要を問うものではないとおもいます。私自身の制作においても、日用の箸や菓子切を削ることもあれば、茶の湯で用いる茶杓や籠をつくることもあり、時には用途を定めない形をつくることもあります。北半球と南半球があり海があり森があって豊かな地球環境となるように、多様な竹の仕事が受け入れられる土壌があること、それがありつづけることを願いながら、実は新しいものよりも古の歴史やらロマンやらを求めがちな私の視線を未来へとのばします。(NGVでの展覧会は2017年1月29日までの予定)

 

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