第三十回 竹のはかりごとは密なるを

手入れのなされた明るい竹林で、節の長いスラリとした竹が並ぶ姿は美しいものです。そうした景色からは、竹=真っ直ぐ=直線のイメージが浮かびますが、竹のものづくりにおいては曲線を感じることがむしろ多いです。まず竹は自然に生み出されたものである以上、真っ直ぐに見えても微妙な曲線を描いており、特に節の部分では複雑に変化します。そうした竹を割って作られた竹ひごから編まれる竹籠は大なり小なり曲線の輪郭を描きますし、竹ひご一本一本の断面も蒲鉾のような丸みを帯びています。同じように植物を材としても、例えば木工の指物などに比べると直線らしい直線がなく、しなやかでありつつも籐細工とは違って堅い、それが竹の工芸(とくに籠において)の特徴です。

ですから、シビアに器物の寸法を追求するというよりは、曲線の包容力を生かす性質が大きく、たとえ四角い籠であっても角は基本的に丸みを帯びています。また、平面に見える密な編み目であっても、よく見れば上下にうねる線の集合です。ただし、出来上がりが大らかであったとしても、その制作過程では寸法が重要になります。

 
はかりごとの道具

竹籠を作るには、まず下絵を描いてイメージを固め、そこから実物を反映した縮尺で図面を描き、原寸大の図面や場合によっては簡単な模型を作成します。図面を描くには時間が掛かりますが、それを元にして制作に用いる材料の寸法や数を決め、必要な竹の種類や寸法、数を割り出すことが出来ます。実際の制作においては、計画したことを実現できるように、竹ひごの一本ずつがきちんと揃うように計測せねばなりません。そして、最終的には事前の計画や道具による計測だけでなく、実物として破綻なく完成するように自らの手や目という感覚をもって整えることになります。

ここまでは、実際につくる過程での「はかる」ですが、さらに大事なのはそれがどのように使われるのかを想像すること。手にする方の暮らしや気持ちを「おもんぱかる」ことかも知れません。言うは易く行うは難し。手や目、頭の働きを密にめぐらしながら、人の暮らしを柔らかく包むようなものづくりを目指して、今年も精進いたします。
 

 

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