第六話 虫の音に耳をすませば

深閑とした夜長、虫の音を聴きながらひとり物思いに耽る。これぞ晩秋の贅沢なひと時・・・しかし今回の話は、同じ虫でも竹の虫。大事な竹材を喰い荒らす憎い奴どもの話です。

竹はツルツルした堅固な表皮に覆われておりますが、その下に厚さ数ミリから十数ミリの肉質部があります。ここには水分を上げる維管束や成長に必要な養分が蓄えられており、それを狙って奴らはやってきます。

虫害を受けた竹の内側

虫害を受けた竹の内側

これはごく初期の状態、節の近くに幾つかの穴が。食べたのは体長数ミリの白い芋虫で、小さな奴らながら食欲は旺盛、放っておくとボロボロにされます。竹を食べる虫としては、チビタケナガシンクイムシ・ヒラタキクイムシ・ベニカミキリ・タケトラカミキリ等が知られます。
では、いかにして奴らを素早く発見するか。まず分りやすいのは、貯蔵してある竹の足下に細かな竹の粉が積もっているのを見つけた時。その時、付近の竹が喰われているのは間違いなく、たいていは節の近く、表皮に小さな穴の空いている竹を見つけることができます。わかり難いのは目に見える兆候のない時で、表皮に穴がないのに内側は食べられているという場合です。しかし、それでも私の目を欺くことはできないのであります。正確に言えば耳は欺けない。そう、音がするのです。奴らの食事する音が。夜の静寂をやぶり、きわめて小さな音ながら、コツコツと竹を齧る音が私の耳には聞こえる。 両手のひらを耳に当て、象のように、中腰でゆっくりと竹の近くを行きつ戻りつするうちに目星がつきます。次は目指すあたりの竹の束を他所へ移し再び耳をすます。やはり音がする。間違いない。さてここからは、こいつの出番です。

聴診器先生、登場

聴診器先生、登場

わざわざ聴診器で竹の虫を探すのは、多分私くらいのものだと思いますが、これで一本ずつ音を探れば、まず間違いなく奴らの居場所を特定出来ます。いわば、私の最終兵器。あとは患部を開いて状態を調べ、必要に応じて竹を処分します。これで一件落着、退院おめでとうございます。困った虫害をあえて面白がってしまうというのも、孤独な稼業を続けるには必要な知恵かも知れません。

秋深き 隣は何を する人ぞ ――怪しげな三十男が聴診器片手に虫の音を聴いているとは、我が隣人も想像だにいたしますまい。

 

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