第二十二回 花と竹工芸、それが生む空間

数ある竹の仕事の中でも竹工芸と呼ばれる領域を、私は制作の軸としています。竹工芸の定義は難しいですが、広く竹細工として認識される、日用のかごや笊とは異なる、「ハレ」に近い場で用いられた竹籠と仮定しておきます。かつて座敷に設えられた花籠がその一例でしょうか。

「かつて」と書いたように、住まいから座敷という場がなくなり、そうした場で来客をもてなす必要もなくなった現在では、以前のような竹工芸のあり方は居場所を失いつつあります。その中で竹工芸の新しい居場所を作り手として用意したいという話は第十九回に記しました。と同時に、座敷の消えた住まいにおいても、伝統的記号をまとった工芸としての竹籠を設えることで、現在の暮らしの中に歴史を継続していくことにも挑戦しています。

 

(上左)花と竹籠、そして場が引き立つよう(上右)こちらは和室の設えを意識した花籠(下左)変則的意匠でテーブルを飾る(下右)茶籠としての小筐は、時と場を移動する籠

一つ目の花籠は前回のコラムにも登場したもので、花を入れて前回と対比させました。花が入って、花と籠、場が引き立つよう、そして使うことで育つように意識した籠です。二つ目は伝統的な空間に溶け込むように。三つ目は変則的意匠で造形の面白さを重視していますが、意外に花が似合うものです。洋室のテーブルの上に。四つ目の小筐は、いかにも伝統的な竹工芸という趣ですが、伝統的に見えて実は逸脱的な技法と意匠で、もし昔の人が新作を作ったらというタイムトラベル的感覚で作りました。明治から昭和初期の竹工芸の作品を見ると、守旧というよりも実際はかなり逸脱的です。

 

竹工芸で設えた空間

日本の伝統的な空間を充たすために存在した竹工芸ですが、現代のモダンな空間にもやり方次第でマッチするもの。現代の日本に居場所を失った一方で、実は西洋で日本の竹工芸の人気が高まっていることが、その証左です。グローバル時代、支えて下さるお客様の国籍は問いませんが、出来れば日本でも居場所を見つけたいという願いがあります。その実現の為には誰よりも作り手、つまり私自身が力を尽くさねばなりません。いつかその日が来るように、そしてその先もつづくよう。

※今回の写真は、数少ない日本国内の支え手の一つである、東京日本橋のギャラリー花筥さんで三月に開催した初田徹の個展から。写真は、来場者のお一人である平田景子さんがご好意で撮影・提供して下さいました(最後の一点のみ初田撮影)。この場を借りて、お二方そしてご来場下さった皆様に御礼を申し上げます。

 

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