第四回 竹籠と時間

「こまかい編み目ですねえ。編むのにどれくらいの時間が掛かるのですか?」

竹籠をご覧になった方からよく訊かれるご質問です。竹籠が編まれて出来ていること、編むのには時間が掛かりそうだということまでは、皆さんご存知のようです。しかし私が面白いと思うのはどうやら多くの方が、編む前の材料(この細長い竹の切片をヒゴと呼びます)については毛糸のようにどこからか購入しているのだと思っていて、編む前の段階にまでは想像が及ばないらしい。そのことです。かくいう私自身も、竹工芸をはじめるまではそのことについて全然考えもしませんでした。

竹籠づくりの第一歩は竹を割ることです。まずは鉈(なた)で文字通り一刀両断に。そこから順に細かく割っていきます。割るだけではお箸の原型のような角材しか出来ませんので、同時に厚みをへらすべく、剥ぐ作業を行います。

鉈の刃を竹に食い込ませる

鉈の刃を竹に食い込ませる

手前に向って割りすすめる

手前に向って割りすすめる

細く、薄くするのも鉈で

細く、薄くするのも鉈で

 

ご覧のように、鉈一本でもだいたいの寸法にヒゴの加工をすることが出来ます。古い民具など見ると、おそらく鉈一本で作られたであろう籠が多くありますし、そういったプリミティブな籠には独特の竹らしい魅力がありますが、今回はそこには深く触れませんので話を戻します。

鉈一本であらく加工したヒゴを目標の寸法に細かく調整していきます。まずは幅から。木製の台に二本の小刀を打ち、ヒゴの両側をいっぺんに削ります。刃の角度や切れ具合で調子が微妙に変わってくるので、そのあたりの調整がコツを要するところ。そして、面取り(あえて面取りをしない場合もあり)。小さな加工ですが、籠の表情に大きな影響を与えます。

簡単そうに見えて初心のうちは苦労した難所です

簡単そうに見えて初心のうちは苦労した難所です

V字に小刀を組んで面取り

V字に小刀を組んで面取り

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでやると、かなり材料らしいものが出来てきます。あとは厚みを揃える作業へ。厚みが揃っていないと編んだ時にヒゴに掛かる力が均等にならず、面になった時の仕上がりに影響します(あえて不揃いにする場合もありますが)。画像では銑(せん)とよばれる専用の台と刃物を使っていますが、小刀で削る場合もあります。

厚みは目に見えにくいですが重要なポイント

厚みは目に見えにくいですが重要なポイント

こうした工程をへて、ようやく材料になります。

一本一本に込められた思いと時間

一本一本に込められた思いと時間

今回ご紹介した方法は、籠を編む前の基本的な加工で、これをベースに様々な応用がありますし、基本についても別法があります。いずれにしてもヒゴづくりの工程には多くの時間が費やされ、それを習得するにも、編み上げて籠にするまでにも膨大な時間を要します。ですから「この籠を編むのにどれくらいの時間が掛かりますか」という問いには、「私がこれまで竹工芸に費やした時間のすべてが込められています」と、力強くお答えしたいところですが、ついつい笑顔で「10時間くらいです」と、あたりまえな返答をしてしまう気弱な私であります。

 

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