第十六回 竹と旅する

竹はどこにでも生えています。山や川の近く、公園などの緑地はもちろん、畑の脇、宅地の斜面、アスファルトの裂け目など、至るところに。竹を使ったものづくりの歴史は、そうした身近のタケやササを素材とし、長所を生かしながら用途に即した形をつくる、そこからはじまったと言えるでしょう。

やがて経験が蓄積すると、中でも加工しやすく入手しやすい素材を選択するようになり、かつ素材を守り育てて使うサイクルが出来、そして産業となり伝統になる。幾つかの産地で作られたそれらのものは流通の発達とともに都市部へ移動し、そこで使われる。こうしたものの流れがあります。現在ではその産地が国外にも広がっているのは、どの分野でも同じですね。

さて、私は生まれ育った東京で制作をしています。ここもかつては竹材の産地であったと思いますが、いまは違いますし、自然素材でもの作りをする場所ではなくなりつつあります。材料を遠い場所から手に入れねばならない無理をしている面がありますが、同時に反面では利点にもなり得ます。地元では手に入らないからこそ、逆に全国の材料を好きなように選択出来る、そのことです。

北海道から九州まで、さまざまな産地の竹材が私の手元へやってきます。そして私の作ったものが、今度は全国各地へあるいは海のむこうへ。私自身はいたって出不精、滅多に旅行もしませんが、竹を通じて旅することができるというわけです。

竹は地産地消の土着の面もありますが、籠を背負っての行商、あるいは籠や竹材自体の行商、旅しつつ籠を作った人々、そうした移動を伴う面も歴史的に見逃せません。そして今、この歴史を踏まえて私自身も移動をしつつあります。

 

自分が竹を携えて

自分が竹を携えて

写真のようなケースを携え、求めに応じた出先で即席のお店を作ってしまう、そんな試みです。自分の店や公開出来るアトリエをもっていない自分ですが、決まった場所がないからこそどこへでも出掛けられる。そうした旅する竹工家としての活動も、いまや誰もやらないからこそ私がやるべき温故知新な挑戦のひとつです。

 

 

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