第四十三回 竹籠を手にする法

数年前までやや玄人好みの存在だった竹籠が、いまや新品から古物まで、店舗やネット上のそこかしこに溢れています。サイズや形状、価格や品質の選択肢も増え、お求めには便利な環境となりました。一方、扱い方のよく分からぬまま手から手へ渡った品が、ふさわしくない用い方で損なわれるケースも起こるかも知れません。今回は籠を「手にする」方法について。

まず実用的な話をいたしますと、籠を手で持つには「両手で扱う」のが安定感があり安全な方法です。形状にもよりますが、籠の側面から底に近いところを両手の平で水を掬うように持てばまず安心。なにも漆器や陶磁器ではあるまいし籠なんて気楽に扱いたい、とのお考えもあるかも知れません。しかし籠は割れたり欠けたりしにくい半面、漆や釉薬のような堅牢な被膜はなく、強い負荷を繰り返し掛けると、形が歪んだり、歪みから負荷が偏って、より大きな破損へつながることもあります。底を両手で持てば、籠や中身の重量を使い手の体で受け止めることができ、籠への負担がずっと減ります。
 
籠の持ち方

「手」のついている籠もあります。たとえば手提げ・かごバッグと呼ばれる籠の「手」ならば、持ち手として作られているはずです。ところが茶道具や竹工芸の作品としての籠、たとえば菓子器(盛器)や籠花入(花籠)の「手」は原則的に持ってはいけないところです。この場合の「手」は、菓子や花を引き立てるのが役目、空間を切取る縁どりのようなもので、いわば装飾の一種です。とくに籠花入はオトシに水と花が入るとかなりの重量となり、手を提げ持つのは危険です。大型の籠花入の場合にはそもそも手が着脱式になっていることからも、それが持ち手ではないことが分かります。

こうした扱いの基本は、茶道具店や美術商など専門店を通じての取引や、お茶やお花の稽古のなかでは自然と身につくことだと思いますが、そうした前提は成立しにくくなりました。それでも入手するという意味での「手にする」ことについて、たとえば現代の日用品においても、信頼のおけるお店から購入されることで、販売者の見識や手入れの知恵、お店と作者との信頼関係を背景にした販売後のサポートなど、目に見えない価値の一端も「手にする」ことができるかもしれません。これは籠に限らない話ですね。

いずれにしましても、より安全な扱い方を知っていれば、気軽に扱いうる品、繊細に扱うべき品、どちらの場合でも問題がありません。また作り手としても、作り方から扱い方まで、自分の方法が最良と思い込まず自問しつづけることが大事だと考えています。こうして書いてみると、なにかを「手にする」には、絶えず「気にする」ことが、もっとも大切なのかも知れません。
 

 

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