第三十七回 竹パルプの紙と未来

 

 

竹で絵を描くことについて、前回前々回と記しました。なにかを描き、記すには紙が必要です。その紙についても、最近は竹のパルプを使用した紙が開発されており、私も自分の仕事の一部においてそれらの使用を試しています。

竹の繊維を用いて手漉きの和紙や竹筆をつくるといったことは、主に手工芸レベルでこれまでも行われてきましたが、規模を発展して工業、製紙業として竹のパルプを用いた紙が登場し、性能・価格とも実用レベルに到達してきたことに注目しており、今年から自分の制作品の台紙や展示の案内状への導入を試みています。
 
左:菓子切の台紙(モノクロ) 右:展示の案内状(カラー)

いずれも、竹パルプを使用した紙に印刷されています。竹の利用がとくにエコロジカルな視点から、建築やインテリアほか各方面で見直されていることは総じて望ましい傾向ですが、理念以前にまず品質が求められることは申すまでもありません。これは紙に限らず、ものづくり全般に言えることで、私自身の仕事を含め、理念と質が両立しなくは、理想も長続きしないと考えられます。

菓子切の台紙は、以前に使用していた紙と比べて同等以上の使い心地であり、価格も許容できる範囲内で調達できました。いまのところ問題はありませんので、今後も使用するつもりでいます。展示の案内状は今回はじめて試しました。かなり細かなパターンを印刷したので少々心配でしたが、カラー面、モノクロ面とも問題なく仕上がっており、紙の自然な色味がパターンと調和しています。印刷技術の向上も後押しになっていることでしょう。

モウソウチクやマダケなど、人の手で移植され増やされてきた大型の竹が、時代と生活の変化によって人から見放されたために増殖し、環境のバランスを崩している事例が問題となっています。適切な量の竹を消費する産業がなければその問題を解決するのは難しく、手作りの「工芸」と同時に「工業」の分野で新たな価値が生みだされることには期待を持っています。そうした経済・産業面での関わりが、問題の解決と持続には不可欠ですが、それが行き過ぎたりまたは不足したりのアンバランスに陥ることなく、適切な状態を維持するためには、経済だけでない文化的な視点や支えも同時に必要です。竹と人とがうまく付き合える歴史を作れるかどうか、私は最も近い場所から関わりそして見つづけます。

 

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