第三回「住まいのまわりの竹」

植物と土で出来た茅葺きの民家と背後の竹林

植物と土で出来た茅葺きの民家と背後の竹林

前回、竹林と人の暮らしには深い関係があると書きました。今回は具体的に日本人の住まいを例に人と竹の関わりを見てみましょう。

かつての日本人の住まいは、木や竹、茅や藁といった草、繊維質の紙、そして土で作られていました。これらはみな自然素材、つまり自然の中から採集することの出来る素材で、逆に言えばいつでも補修に使えるように生活圏内にそれらを採集出来る場所を確保することが大事になります。暮らしのそばに配された竹林は、食用、防風などに役立ちつつ、必要に応じて建築資材ともなる有用な資源でした。

これらはほんの一例で、他にも雨樋や井戸に蓋をする簀子などの水回り、梯子や畑作の支柱、あるいは壁自体が竹で出来ていることもあります。竹は湿気や虫害に対して弱い面がありますが、こういった民家では絶えず囲炉裏に火が入っており、そこから出る煙が屋内を燻し、竹や屋根を守ってくれます。

分厚い屋根を支えるのも、上から押さえるのも竹の役目です

分厚い屋根を支えるのも、上から押さえるのも竹の役目です

竹の稈と枝を利用した竹垣。孟宗竹が使われています

竹の稈と枝を利用した竹垣。孟宗竹が使われています

竹製の撥ね釣瓶(はねつるべ)。井戸の水を汲み上げます

竹製の撥ね釣瓶(はねつるべ)。井戸の水を汲み上げます

小舞と呼ばれる土壁の骨組みも竹。丸竹や割竹で

小舞と呼ばれる土壁の骨組みも竹。丸竹や割竹で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏でも家の中心には火が絶えない

夏でも家の中心には火が絶えない

囲炉裏の火で200年前後も燻された天井や屋根の竹材は、煤竹(すすだけ)とよばれる暗褐色の深い艶をもった硬質の材に変じます。煤竹は茶杓等のお茶道具や建築の内装材などに珍重される、現在ではたいへん貴重な素材です。長い歳月を経た深みもさることながら、それほどの長期間、建物を支え、その後も工芸品や建築材料として長く使われる寿命の長さは、驚異と言ってよいのではないでしょうか。

囲炉裏の上は煙がもうもう。この煙が煤竹を作ります

囲炉裏の上は煙がもうもう。この煙が煤竹を作ります

現在、残念ながら日本の住宅の寿命は世界的にみてかなり短命な部類に入っていますが、一見粗末な竹という素材が、現代の建築資材を遥かに上回る寿命を持ち、少し前までの日本人はそういった自然素材の特性を最大限に引き出す知恵を持っていました。この自然の力と人の知恵がもういちど必要とされるときはやがて来るでしょう。かつて住まいを支えた竹を、新しいかたちで住まいに参加させること、それは私の夢の一つでもあります。

 

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