第三十二回 縦横か斜めか

編み目の話をつづけましょう。竹籠の編み方には大きく分けて縦横と斜め、ふたつの方法があります。平面の場合であれば縦横も斜めも同じことですが、立体になると二つの特徴が見えてきます。前回の「六つ目」の場合には斜めの線と縦横の線が共存する編み方でしたが、今回は「ござ目」と「網代」を例に、「縦横」と「斜め」を分けて見てみます。
 
ござ目の籠

地面と垂直に一定の間隔で立ち上げた竹ヒゴと、それに直交しながら竹ヒゴを一段ずつ地面と平行に隙間なく編むのが、ござ目編みです。「縦横」と書くよりも「経緯」と書くほうがふさわしい方法で、文字通り「ござ」のような編み目になります。縦(垂直)方向のヒゴはそのまま「タテ」、横(水平)方向のヒゴを「ヌキ(緯)」「マワシ」などと呼びます。ござ目の場合、タテは最初に底を編んだ材料で、一方のヌキ=マワシは長い竹ヒゴを継ぎ足しながら必要なところまで編み上げます。材料に無駄が少なく、修繕も比較的行い易いので、制作面・実用面ともに手堅い手法です。釣った魚を入れる魚籠や、八百屋さんの店先の釣り銭を入れる笊など、屋外で使われていた民具には、ござ目の系統の籠が多いのはそのためでしょう。その延長でざっくりした花籠の編まれることもあり、素朴なところに味わいがあります。

 
網代の籠

網代の籠は、立体に立ち上げてからは斜めの編み目が規則的に続きます。左右から斜めに伸びる竹ヒゴを互いに編んでゆくので、「ヌキ」に相当するヒゴがありません。原則的には最初に底を編んだ竹ヒゴで最後まで編んでゆきます。斜めのヒゴは垂直に対して45度前後の角度を持っていますので、同じ深さにするにはござ目のタテよりも長いヒゴが必要になります。

網代編みでは、ござ目よりも竹ヒゴを薄く仕上げ、かつ本数も多く、ヒゴを斜めに使うために長さが必要だったりと、手間の面ではやや不利な方法ですが、緻密でありつつ軽量な籠に仕上がるのは大きな利点です。出来上がりは端正な印象になり、編み目で文様を描き出すこともできるので、文庫のようなやや凝った日用品や、美術工芸の諸道具など、主に室内の籠に使われます。

以上はあくまで原則ですが、このように竹籠の形や用途と、それを作るための手法には互いに関連があります。原則に則って手堅く仕上げるもよし、あえて原則を外して挑戦するもよし、編み目の凹凸を手がかりに、作り手それぞれが竹籠の壁面を登ります。
 

 

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