第二十六回 七つ道具としての火

竹の仕事における「七つ道具」を選ぶとしたら、私の場合「火」は外せません。細かな加工には各種の刃物が欠かせぬこと、申すまでもありませんが、火の力もまた同じように重要なものと私は考えています。

植物として生えている状態、また伐ってすぐの緑色の竹が「青竹」。青竹でもモノ作りはもちろんできます。その青竹をしばらく陰干しして水分を減らしたのち、熱を加えて不要な成分を抜く「油抜き」という工程を経て、今度は太陽光に晒し、肌色になった竹が「白竹」で、青竹よりも平均的に長持ちする堅牢な材となり、青竹ではできない用途にも用いることが可能になります。また、草葺きの屋根を何世代にも渡って支えつづけて褐色になった「煤竹」は、屋根の下の暮らしで生じる火と煙そして時間の積み重ねで生まれる、たいへん美しい竹材です。それらが生まれるのは火の力あってこそ。

また、竹は真っ直ぐなようで実はそれほど真っ直ぐではないので、それを矯正する「矯め」という加工がされる場合もあります。ここでも火の力を用いることで竹を一瞬やわらかくし、微妙な歪みを矯正することが出来ます。このように、本格的な加工以前の段階でも、竹の可能性を広げることができる、そうした力が火にはあることが分ります。

炎の色

ここから先、籠を編むための竹ヒゴに加工する場面では主に刃物を使用しますが、籠づくりの工程でも火が役に立つ場面はたびたびあります。例えば、竹籠を編んで四角い縁を付ける際、縁の四隅を成形するには火の熱を用い、これを「火曲げ」と言います。あるいは分厚く仕上げた竹ひごを熱で曲げ、編むのではなく特殊な形状の籠に組むといった技術もあります。

火の力を借りた造形と光

籠のほかでは、たとえば茶杓。抹茶を掬うための湾曲した櫂先を作るには、火の熱を用いることが欠かせません。キリがないので、例を挙げるのはおしまいにしますが、火は今も昔もとても重要な道具で、揺らぎのある扱いの難しい道具ながら、人類にとって最古の道具の一つでもあり、これから先も使い続けるであろうことから、七つ道具の一つとして取り上げてみました。火の歴史、そして歴史の火を絶やさぬよう、絶えぬことを願って。

 

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