薪ストーブの暖房力を科学する

薪ストーブの暖房力を科学する

薪ストーブの暖房力を科学する

薪ストーブ1台で家中が暖かくなる。
そう聞いて新築の家に導入してみたけれど……
思うように暖かくならない。
そんな声を耳にすることがあります。
どうして暖まらないのか。
どうしたら薪ストーブの暖房能力をフルに発揮できるのか。
ここでは、薪ストーブの暖房力を科学的に分析しながら、
薪ストーブの熱を無駄なく活用する家づくりを考えてみましょう。

イラスト=鈴木 聡(TRON/OFFice)

 

薪ストーブ1台で家中が暖まる条件

薪ストーブ1台で家中が暖まる条件

A 断熱をしっかり
次世代省エネ基準(平成11年基準)以上の断熱レベルが望ましい。外気によって壁が冷えると、放射により体温が奪われることになる。

B 昇気流を受け流す
ストーブの真上に吹き抜けを設けると2階の天井ばかりに暖気が溜まりがち。吹き抜けの位置を少しずらして、天井で熱を受け流すことも有効。

C 炉壁に蓄熱させて再放射
火が消えても本体に蓄熱された熱は輻射熱として室内に放射される。炉壁や炉台を石やレンガなど蓄熱性の高い素材にすれば同様の効果が得られる。

D 暖気を逃さないように
窓から熱が逃げないよう気密性の高いサッシが基本。ペアガラスやガス入りなどの窓に、木製、樹脂製など断熱性の高い窓枠を組み合わせたい。

E 基礎も外気に触れさせない
基礎に用いられるコンクリートは熱を蓄えやすい素材。冷えを防ぐためにも、直接外気に触れないようレンガや石でブロックしたい。

①熱の三つの伝わり方

熱の伝わり方には輻射、対流、伝導の三つがあります。温度の異なる二つの物体の間を熱が熱線によって移動するのが〝輻射(放射とも呼ぶ)〞。空気などの流動体が熱を受けると密度が小さくなり上昇しますが、その繰り返しで生まれるのが〝対流〞。熱が金属などの個体内部を移動するのが〝伝導〞です。

②ほかの暖房機器との比較

薪ストーブは本体が200℃を超える高温になり、主に輻射と対流により部屋を暖めます。エアコンやファンヒーターより立ち上がりは遅い反面、長時間持続して人や建物にじんわり熱を伝えるのが得意。室内空気を取り込み煙突から排気するため、換気装置としても機能します。またアレルギーの原因物質となる埃や塵を、気流で巻き上げることもありません。

薪ストーブ・エアコン

床暖房・石油ファンヒーター

薪ストーブ
主に輻射と対流で人や建物、室内を暖める。本体温度が非常に高くなり比較的強い自然対流が起きる。

エアコン
本体でつくられた熱で暖めた空気を電動ファンで強制対流。室内を短時間で暖めることが可能。

床暖房
床全体を暖めることで床に触れる人体に熱を伝導。また床からの輻射と緩やかな対流も起きる。

石油ファンヒーター
エアコン同様本体内で暖めた空気を電動ファンで強制対流させる。

③家全体の空気の流れを考える

薪ストーブ1台で家を暖めようとする場合、薪ストーブで暖められた空気がうまく対流するように、その通り道を考えた部屋の配置と断面構成が必要です。

基本となるのは薪ストーブの設置場所です。薪ストーブの輻射熱と対流の効果、そして家族団らんの場所をよく考えましょう。2階建てなら基本的に1階に配置します。1階は広々としたLDKとし、多少の仕切りがあっても空気はオープンにつながるようにします。壁で完全に仕切ると輻射熱も対流も得られません。どうしても仕切る場合は、別途補助暖房が必要です。

薪ストーブの上部または近くに吹き抜けを設け、対流を生かしたい2階の寝室や子ども室などは、その近くに配置します。

重要なことは、ストーブで暖められた空気が上がる道(吹き抜け)と、暖められた空気に押され2階の空気(低温)が徐々に下りる道(階段室など)を別に考えること。この循環で家中を暖めることができるのです。

暖気が家中を循環するプラン

暖気が家中を循環するプラン
1階に薪ストーブを配置し、吹き抜けと階段室を別々に設けることで、空気の上がる道と下りる道を確保。薪ストーブで暖められた軽い空気が吹き抜けから上昇、2階の空気(低温で重い)が階段室から少しずつ1階に押し下げられ、その空気も薪ストーブで暖められて上昇……この繰り返しで家全体が暖められていく。

④住まいの断熱の重要性

一般的な規模の2階建て住宅で、薪ストーブの熱を家中にまんべんなく循環させるためには、間仕切りの少ないオープンな間取りと、空気が上がる道・空気が下りる道を別々に確保することがポイントでした。

確かに、このようなプランにすれば、薪ストーブで暖められた空気を家中に循環させることが可能です。しかし、それには重要な前提条件があります。それが、建物の断熱性能です(気密性能についても隙間風が入らない程度のものは最低限必要です)。

同様のプランであっても、断熱性能が低い家では、薪ストーブの熱を家中にうまく循環させることができません。そればかりか、室内に温度ムラが生じることになります(図A・B)。では、どの程度の断熱性能が必要かというと、最低でも平成11年に定められた「次世代省エネルギー基準」以上の性能を確保するようにしたいものです。

図A 薪ストーブのよい暖房イメージ

図A 薪ストーブのよい暖房イメージ
屋根・外壁・基礎・開口部がしっかり断熱された家(次世代省エネ基準以上の断熱レベル)で、空気の上がる道と空気の下りる道が確保され、オープンなつくりの室内であれば、薪ストーブ1台で家中を暖めることができる。

 

図B 薪ストーブのよくない暖房イメージ

図B 薪ストーブのよくない暖房イメージ
家の断熱性能が不十分だと、薪ストーブで暖められた空気がうまく循環せず、室温にムラが生じる。2階の室温は上がるのに、1階の室温は低いままのため、薪ストーブ付近にいる人は、輻射熱を受ける面だけが熱く、不快に感じる。

 

薪ストーブは輻射と対流により室内を暖めることは第2項で触れましたが、輻射熱が届く距離にも限界があり、ストーブに近いところでないと暖かさを感じることができません(図C・D)。また、室温の低い部屋で薪ストーブにあたると、輻射熱で体の前面だけが熱くなり不快な状態になります(図E)。対流についても、断熱性能が低い家では思うように対流が生まれず、家の中がまったく暖まらなかったり、室温にムラが生じることになります(図F)。

 

薪ストーブの輻射熱量実験のセットとサーモグラフィー

図C 薪ストーブの輻射熱量実験のセットとサーモグラフィー
薪ストーブから1m おきに設置した板をサーモグラフィーで測定。輻射熱の量は距離の2乗に反比例し、ストーブから離れると暖かさは実感できないことがわかった。(写真提供/東京大学前真之研究室)

 

薪ストーブの輻射熱量のイメージ

図D 薪ストーブの輻射熱量のイメージ

 

寒い室内で輻射熱が人体に与える影響

図E 寒い室内で輻射熱が人体に与える影響
気温の低い部屋で薪ストーブにあたると、薪ストーブからの輻射熱は空気を暖めることなく人体前面に熱線を飛ばす。前面は暑いくらいでも背中は寒いまま。この温度差は不快感を生み、循環器に負担も。

 

断熱性の低い家の温度分布

図F 寒い室内で輻射熱が人体に与える影響
左/平屋の例。薪ストーブ周辺と天井は高温なのに対し、床付近の温度が低い。
右/吹き抜け直下に薪ストーブを設置した例。ストーブ背面に開口部があり、薪ストーブが孤軍奮闘しているのに、家全体は暖まっていない。
(写真提供/東京大学前真之研究室)

⑤吹き抜けと設置位置

薪ストーブは大きな熱量を室内に投入することができるため、平均的な規模の住宅なら、家全体を暖めるには十分な熱量を持ち得ます。しかし、薪ストーブは位置を移動することができないため、吹き抜けの位置や空間構成が重要になります。

東京大学・前真之研究室では、一般的な規模の2階建ての高断熱住宅を元に、吹き抜けの位置や大きさなどにより、各部屋の室温がどのように変化するかケーススタディを行いました。

薪ストーブの設置例としてよく見かけるのが、薪ストーブの真上に吹き抜けを設けるパターンです。ところが、実験によると明らかに2階より2階が暖まることがわかりました。これに対して、吹き抜けを薪ストーブの真上ではなく、離して設けた場合、1階も2階もバランスよく暖まるという結果でした。

暖かい空気をいったん天井で受け止めることで、1階にも空気の対流が生まれ、温度を上げることができたと考えられます。

 

高断熱・2階建て・吹き抜け大、 薪ストーブは天井直下に配置

吹き抜けは薪ストーブのある食堂ではなく、隣接する居間に設けられている。この2室は温度が上がりやすく、3時間で5~6℃上昇した。吹き抜け横の2階居室1は小窓と薪ストーブの煙突があり、時間差は生じるが室温は上昇しやすい。階段室に面した2階居室2は温度は上がるが、他室と比べて暖まりにくい。(Q値=1.14)

1階・2階ともバランスよく暖まる

 

高断熱・2階建て・吹き抜け大、 薪ストーブは吹き抜け直下に配置

薪ストーブは居間に設けられた大きな吹き抜け直下に設置されている。暖められた空気が吹き抜けから2階に上がると、2階吹き抜けまわりは6℃上昇するが、1階居間の室温は3.5℃しか上がらない。1階居室はセンサー位置が高かったため、居間より2℃高く計測されている。(Q値=2.21、実験協力=㈱日本ファイヤーライフ)

1階より2階のほうが暖まる

 

⑥薪ストーブの熱を無駄にしない工夫

薪ストーブの「対流」に大きく影響するのが、建物の断熱性や気密性、あるいは間取りであるなら、「輻射」に影響するのは、薪ストーブの周囲に使用する素材の蓄熱です。

薪ストーブの熱を無駄にしないためには、炉台や炉壁にはできるだけ蓄熱性の高い素材(石やレンガ、コンクリートなど)を用いること。そもそも、炉壁や炉台は熱容量の高い防火用部材を用いることになるので、容易に輻射のポテンシャルを高めることができるはずです。コンクリートはもちろん、昔ながらの三和土で仕上げた土間も、とても有効な蓄熱体になってくれるでしょう。

蓄熱とは輻射のタイムラグをつくり出すことです。薪ストーブが消えてからも、炉台や炉壁に蓄えられた熱が室内をゆっくりと暖め続けてくれるのです。

蓄熱体は大きければ大きいほど、分厚ければ分厚いほど、蓄熱する力も強くなります。ただし、蓄熱性が高いということは、冷たさも蓄えてしまうということ。冬場に長期間家を空けた場合など、いったん冷え切ってしまうと暖まるまでに時間がかかることになります。

 

薪ストーブの配置と輻射の範囲

薪ストーブの配置と輻射の範囲
薪ストーブは部屋の中央に配置するのが最も理想的だが、日本の住宅事情ではあまり一般的ではない。壁の中央に配置すれば180 度、コーナーなら90 度の輻射範囲となるが、居住空間とのバランスからどれが正解とは言えない。

 

床の構造例

設置場所の基礎コンクリートを立ち上げ、石を敷く方法

1. 設置場所の基礎コンクリートを立ち上げ、石を敷く方法

土間の上に石を敷き、薪ストーブを設置する方法

2. 土間の上に石を敷き、薪ストーブを設置する方法

炉壁や炉台に使われる主な素材の蓄熱性と特徴

炉壁や炉台に使われる主な素材の蓄熱性と特徴

 

基礎部分の断熱

外の冷気を シャットアウトする

炉壁や炉台は蓄熱性の高い素材で分厚く大きくつくることで 輻射のポテンシャルを高めることができる。

炉壁や炉台は蓄熱性の高い素材で分厚く大きくつくることで輻射のポテンシャルを高めることができる。

 

チルチンびと 薪ストーブ年鑑 2017掲載

 

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