宇宙をかたちに 陶芸家 ダグラス・ブラックの作品世界

宇宙をかたちに 陶芸家 ダグラス・ブラックの作品世界

宇宙をかたちに
陶芸家 ダグラス・ブラックの作品世界

陶芸家としてだけでなく、
インスタレーションなどでも
国内外で活躍するダグラス・ブラックさん。
彼自身の作品のような、
個性あふれるセルフビルドの自宅兼工房を訪ねた。

栃木県芳賀郡茂木町 写真=畑 拓 文=栗原夏林

自然と人に恵まれて
気づけばこの町は
第二のふるさと

焼き物の里として全国的に知られる栃木県の笠間と益子。そのどちらからもアクセスのよい茂木町の、ゆるやかな那珂川の流れを望む高台に、ダグラス・ブラックさんのアトリエ兼自宅は建つ。

この地に腰を据え、30年ほど経つというダグラスさん。「日本の陶芸に出会ったのは1987年。当時僕は、大学で吹きガラスを学んでいました」とダグラスさん。授業の一環として招かれた日本の陶芸家の姿に衝撃を受け、1990年に本格的に陶芸を学ぶため来日。茂木の陶芸家へ師事した。そんな折、友人から古民家の空き家を紹介され、居ついてしまったという。

「実は茂木に移った1992年頃には、一度アメリカへ戻るつもりでした。だけどその頃、遊星社(現・starnet)の馬場浩史さんと出会い、陶芸のほかに、舞台美術をやることに。縁がつながり陶芸もいろいろなお店で扱ってもらうようになり、楽しくて、そのまま、気づいたら30年経っていた」と、照れ臭そうに笑う。「ここのひとたちは皆とても親切。異邦人の僕なのに、嫌なドラマに出会っていない」という言葉の通り、おおらかで心やさしい土地の人びともまた、彼をこの地に留める要因になったのだろう。

セルフビルドでつくり上げた
どこにいても緑を感じる住まい

セルフビルドの自宅は、1992年頃から徐々につくり始めた。「最初は仕事場だけのつもりで、窯と畑だけでした。泊まりで作業できるようベッドルームから始めて、ほとんど自分で」(ダグラスさん)。その後も増改築を重ね、未完成の部分を減らしてきたものの、現在も家づくりは道半ばだという。

客をまず迎えるパブリック・リビングを抜け、リビング・ダイニングへ。広々としたデッキが隣接し、気持ちのよい日差しが降り注ぐ。

いちばん古いという寝室の、「大きな窓は、閉店予定のスーパーからもらって来たガラスに合わせてつくった」ものだそう。安く購入した材や、廃材に合わせてつくられた空間からは、芸術家らしい独創性が垣間見える。「最近は、はじめの頃につくった寝室やデッキの修復に忙しくなりました。なかなか終わらないね」と笑う。

ステイホーム期間中に建設を進めたという真新しいギャラリーは、完成間近。高台の、さらに屋上につくられた一室からは、周囲の山々と那珂川が一望できる。抜群の景色を背景に、作品たちが所狭しと並ぶ。「いずれは、作品を見に来てくれる方たちを招きたいんです」と奥さんはギャラリーを見上げ、微笑む。

自然に近いこの場所だから
生まれる作品がある

ダグラスさんの工房は、建物北側の広々とした土敷きの空間だ。ろくろ台や作業台の前には開口が並び、緑が眩しく映る。棚には、さまざまなかたちの制作途中の陶器が。「ろくろも好きですが、手びねりが特に好き」というダグラスさんの作品は、固定概念に囚われない独創的な形や色柄が魅力だ。

代表作でもある、濡れたようなつやをもつ青い斑点が特徴的な、黒い陶器についてうかがった。「これは灰釉です。近年、薪ストーブを使い、樹種を絞って灰を集め、実験しているんですが、この青は山桜の灰を利用したもの。宇宙や星みたいでしょう?」(ダグラスさん)。上絵や金彩を合わせ、宇宙を思わせる印象を後押しする。

つくり手としてのルーツをうかがうと、「僕の名付け親(ゴッドファーザー)はネイティブ・アメリカンのダグ( Doug Coffin)。彼の影響は少なくない」とダグラスさん。

アーティストとして活躍するゴッドファーザーのダグは、ダグラスさんの父親の親友で、昔馴染みだ。くわえてダグラスさんの生まれ故郷のローレンスは歴史的にもネイティブ・アメリカンとの縁が深い。そのためダグラスさんは、幼い頃から彼らの伝承や物語に触れて育った。その多くが、自然や宇宙と密接にかかわるものだ。「特別に学んだつもりはありません。だけど、魂に刻まれている」(ダグラスさん)。

だからこそ自身の制作について、「宇宙や自然の存在はとても大きい」とダグラスさんは言葉をつなぐ。表現のため、制作方法が時々で変化することも、彼にとっては自然なこと。自宅やギャラリーに飾られた作品たちも、陶芸を中核に据えながら、ガラス、木工、アイアンワーク、油彩など、作品によっ
て演出方法は軽やかに変化する。

中でも、もとは益子のアートイベント「土祭ひじさい」のために制作したという「Under One Sky」は象徴的な一作。92センチの自作の正方形キャンバスを4等分し、4色に塗り分け、中央に青いガラス玉が光る。「これはすべて自然の土の色。赤、白、黒、黄それぞれは人種。みんなが同じ空を見て一つになれるよう、思いを込めました」(ダグラスさん)。宇宙や自然に感謝し、調和や平和を求めるその姿は、一貫して彼のテーマのように思われる。

これまでも、世界中でワークショップに参加し、さまざまな土地の文化や芸術を吸収し、自身の作品世界に昇華してきたダグラス・ブラックさん。「まるでダグの作品みたいな家でしょ?」と奥さんが笑うこの場所で、その世界の一端に触れた気がした。

douglas black
1967年 カンザス州ローレンス市生まれ
1990年 オハイオ州コロンバス芸術大学卒業
     同年、陶芸を学ぶため来日
1992年 茂木町に築窯
2021年7月 アメリカ、サンタフェのELLSWORTHギャラリーにて、
Doug Coffinと二人展『D1&D2:RE-CONNECTION』を開催
Studio bRIVERb
TEL:0285-62-0294
HP:https://www.douglasblackart.com/
instagram:@b_river_b

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