“しくみ”で解く茶室

“しくみ”で解く茶室
茶室は茶の湯専用の部屋。
茶人たちがまず気を配ったのは、茶道をスムーズに行える間取りではないだろうか。
だとすると、設計者は平面構成のポイントを押さえれば、
施主に対してプランと使用時のイメージの両方を提案できるようになると言えそうだ。
本記事では、竹内亨著『“しくみ”で解く茶室』より、
茶室の平面設計の基礎知識を紹介する。
写真=酒谷 薫、畑 拓
四畳半のすすめ
茶室に使われる5種類の畳を1枚ずつ用いた四畳半は、茶室に関する情報の宝庫。まずは取り入れたい「永遠のスタンダード」だ。
性能完備
おすすめの第一理由は、台子や棚物を使えますから、茶事はもちろんのこと稽古にも都合がよろしい。小間に近い雰囲気も備えています。ただし、初心者専用というわけではありません。千利休は狭さの極限(一畳大目)に達していますが、60歳頃までは師匠の四畳半を規範としています。しかも、生涯にわたって四畳半を手放そうとはしませんでした。
最初に持つ茶室なら、もしくは一席に絞るのであれば、永遠のスタンダードを推奨します。
茶室の機能・畳の役割
四畳半には5種類の畳が使われています。これが茶室に使う畳のすべてです。畳の名称と役割はぜひ、覚えてください。あと一つ、通畳がありますが、これは通路を埋める副次的存在です。
広間になれば畳の数は増えますが、どんなに広くなっても、踏込畳、亭主畳、炉畳は各々1枚です。増えるのは貴人畳、客畳、それに通畳です。小間では1枚の畳が複数の機能を兼帯します。たとえば二畳茶室とは、貴人畳と客畳を兼ねる客側一畳と、踏込畳と亭主畳、それに炉畳を兼ねる亭主側一畳を組み合わせたものです。
四畳半の思想
茶室の歴史は四畳半から始まりました。
風流将軍として日本史に名を残した、足利幕府八代将軍義政が、銀閣寺の東求堂につくり込んだ同仁斎は、中世の茶の湯が偲ばれる四畳半です。
現代の四畳半のルーツは、利休の師匠にあたる武野紹鴎に求めることができます。堺の茶人は皆、紹鴎の四畳半を手本にしました。もちろん、利休もです。
茶の湯と直接関係はありませんが、鎌倉期の随筆の傑作として知られる、鴨長明の『方丈記』にも四畳半が登場します。長明は四畳半のことを方丈と呼んでいます。方丈の歴史は1〜2世紀にインドで成立した仏典にさかのぼることができます。
かつて多くの茶人が仏教、特に禅僧と交流を持っていましたから、茶室が禅と関連があっても不思議ではありません。禅宗が重視する唯摩経の方丈が、四畳半の原型となった可能性があります。そうであれば、茶室のデザイン・コンセプトを考える上で、四畳半は避けて通れない茶室です。これが、四畳半をすすめる第二の理由です。
ヒントの宝庫
四畳半は万能茶室なのだから、見方を変えれば、茶室は畳の名称が示す5種類の機能を持っていることになります。つまり、茶室であるためには、この5種類の機能さえ満足すればいいわけです。
この限りでは、和室と洋室を問いません。イタリア風でもバンガロー風でも何でもいいのです。事実、茶室をワラ屋と表現した茶人もいました。とはいえ、四畳半はただの陋屋ではありません。新たな茶室を考案する上でも、四畳半はヒントの宝庫と言えましょう。
『“しくみ”で解く茶室』
竹内 亨/著 2,074円(税込) 風土社
茶室の第一印象は戸を開けた瞬間に決まる……。茶人たちは茶事の最高のご馳走として、茶室の中にさまざまな「景色」を用意してきた。建築設計と茶道に精通した著者が、茶室建築に詰め込まれたもてなしの知恵を読み解き、設計のヒントとして解説する。第1章「空間の“しくみ”」、第2章「形態の“しくみ”」、第3章「平面の“しくみ”」、第4章「機能の“しくみ”」。
竹内亨(たけうち・とおる)
1946年山形県生まれ。東北工業大学工学部建築学科卒業。文化学院建築科、同研究科で建築設計とデザインの教育に30年間携わる。モノ研究室/一級建築士事務所を主宰した。号・格庵。

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