「夏涼しい家のつくり方」住宅事例

『チルチンびと』124号の特集は、「夏涼しい家のつくり方」。
夏の暮らしを、もっと快適に、もっと自然に。今号では「UA値」といった数値的性能にとどまらず、実際の住まい手が感じる「体感値」に注目しながら、夏を健やかに過ごせる家づくりのヒントを探ります。
冒頭では、建築家・堀部安嗣さんによる「菰野の家」を紹介。開口部からの光と風、深い軒やテラスなど、自然と調和する設計の美しさと快適性を伝えます。また、寒冷地・新潟に建つ荒木邸では、地域の気候に即した素材と工夫が生きる、土地に根ざした家づくりを紹介。
そのほか、太陽と風を最大限に活かす中村邸、雨水や緑を活用した栗原邸、北庭に開いた未来工房の家など、住まい手の暮らしから導き出された知恵と技術が光る事例を多数掲載。
「気候風土適応住宅」では、土壁+付加断熱、太陽熱活用、通風設計といった伝統と現代技術の融合により、夏も冬も快適に過ごせる家を特集。共用空間を持つ長屋形式のコーポラティブハウス「里山長屋」も、自然と共生する新しい住まいのかたちとして紹介しています。
実測データに基づいた温熱環境の検証記事や、暮らしの中の「涼」にまつわる文化・人・道具の紹介も充実。これからの住まいに求められる「心地よさ」とは何かを、改めて問い直す一冊です。
性能と情緒性
三重県三重郡 菰野の家 設計=堀部安嗣/堀部安嗣建築設計事務所
三重県菰野町の自然豊かな地に建てられた「菰野の家」は、建築家・堀部安嗣さんが手がけた、開放性と断熱性を高い次元で両立させた住まいです。東側の木立に向けて大きく開いた開口部と深い軒、そして屋根に包まれた半屋外空間が、光と風を柔らかく取り込みながら室内と外との境界を緩やかにつなぎます。外気の影響を最小限に抑える断熱性能を持ちつつ、自然とともにある暮らしの心地よさを実現。素材には木や漆喰などの自然素材を用い、視覚的にも触覚的にも落ち着いた空間を形成しています。

- 木立を切り取る開口と、光と風が通う設計
- 自然のゆらぎを感じる、静かでおおらかな空間
- 深い軒とテラスがつくる、季節とつながる暮らし
- 自然素材に包まれた、呼吸するような室内環境
- 断熱と開放が調和する、涼やかで品のある佇まい
寒冷地の気候風土に調和する家
新潟県新潟市 荒木邸 基本計画=荒木陽介+伊藤誠康(atelier Iʼs)実施設計=ノモトホームズ 竹村泰彦
寒冷地特有の気候風土に寄り添いながら、快適な室内環境と自然とのつながりを両立させた住まいです。大屋根の下に多彩な居場所を内包し、断熱性能の高い外皮と可変透湿気密シートの採用により、冬の寒さと夏の湿気の両方に対応。家の中心には緩やかに区切られた空間が広がり、居場所ごとの温熱環境の違いも楽しめます。さらに地元の杉材や左官壁を使うことで、素材のやわらかさと地域性を空間に表現しています。

- 新潟の木と左官壁がつくる、湿潤な風土に寄り添う住まい
- 用水路の景色とつながる、眺望を楽しむパノラマ設計
- 居場所が散りばめられた、開放感と包容力ある間取り
- 簾戸や障子が調える、光と風と共に暮らす四季の工夫
- 可変透湿気密シートで叶える、断熱と結露対策の両立
25年前の高気密・高断熱住宅に住む
千葉県船橋市 横山・中村邸 設計=中村聖子
千葉県船橋市の高台に建つ「横山・中村邸」は、2000年に竣工した高気密・高断熱のオール電化住宅です。設計は建築家・中村聖子さん自身が担当し、自然エネルギーを最大限に活用した実験的な住まいです。太陽光発電の導入や、水の蓄熱体「アクアレイヤー」による輻射暖房、通風や日射遮蔽に配慮した開口部の設計など、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせる工夫が随所に。南北に風が通り抜け、緑のカーテンやよしず、防草シートが夏の日差しを和らげます。構造はRC造の地階の上に木造2階を重ね、土間や囲炉裏などの空間も取り入れた多層的な構成。快適性と省エネルギーを両立させた住まいです。

- 断熱と通風を両立した、体感優先の実験住宅
- 太陽と風を活かす、エアコンに頼らない設計
- 緑のカーテンとよしずで夏の日射を遮蔽
- アクアレイヤーがもたらす輻射冷暖房の心地よさ
- 高低差ある敷地を活かした、変化ある立体構成
雨水と緑化塀でクーリング
東京都世田谷区 江戸スタイルの家 設計=光設計 栗原 守
住宅街に建つ「江戸スタイルの家」は、建築家・栗原守さんが自らの設計理念を体現すべく建てたモデルハウスです。敷地はわずか27坪の変形三角形。限られた空間を活かす工夫として、小上がりの畳リビングや障子・引戸を採用し、狭さを感じさせない空間構成が施されています。特徴的なのは、雨水と緑を活用した独自のクーリングシステム。雨水は屋根や緑化塀に流されて気化冷却を促し、夏の室温を快適に保ち、また、雨水はトイレの流水にも活用され、断水時の備えとしても有効です。自然素材を多用し、季節の移ろいを感じながら、持続可能で愉しみのある暮らしを実現しています。

- 雨水と緑の力で夏の涼を生む暮らしの知恵
- 小さな敷地でも広がりを感じる開放設計
- 自然素材が呼吸する、優しい和の空間
- 屋根散水と緑化塀で室内に冷気を取り込む
- 災害時にも備える、循環型エコシステム
北側の庭に向けて開いた家
福岡県 K邸 設計・施工=㈱未来工房
福岡県に建つK邸は、北側に庭を配し、南側に建物を配置するという逆転の発想で設計された住まいです。北向きに大きく開くことで、夏の日射を抑えながらも、やさしい光を室内に取り入れる快適な環境を実現。自然素材にこだわった設計で、構造材には燻煙熱処理を施した熊本県産の球磨杉を、床材には福岡県産の八女杉を使用し、内外装には漆喰や珪藻土などを採用しています。トリプルガラスの窓や厚い断熱材、天窓による通風など、高断熱・高気密の性能と設計的工夫により、一年を通じて心地よい温熱環境を確保。ペットと小さな子どもが安心して過ごせる、遊び心と実用性を兼ね備えた暮らしやすい住まいです。

- 北庭に開いた設計が生む、やさしい光と涼しさ
- 深い軒と吹き抜けがつなぐ、室内と自然の一体感
- 無垢材と漆喰に包まれた、五感に響く自然素材の家
- 人とペットにやさしい、断熱性能に優れた住環境
- 家族の暮らしに寄り添う、小さく豊かな住まいの工夫
気候風土適応住宅 ①
「気候変動と住宅づくり」S邸の室温実測から考える
埼玉県 S邸 設計=丹呉明恭
断熱・通風・遮蔽といった受動的手法を組み合わせ、夏を快適に過ごす工夫を凝らした住まいです。南側に深い庇と通風用の大開口を備え、日射遮蔽と通風の両立を図る一方で、屋根断熱や高性能サッシによる熱損失の抑制にも配慮。実際に真夏・真冬の室温を実測し、冷房に依存しない快適性が数値でも確認されています。建物は回遊動線を持ち、家族の暮らしに寄り添う柔軟な間取り。冷暖房の負荷を最小限に抑えながら、自然の力と共存する設計思想は、気候変動時代における住まいの一つの理想形を示しています。

- 屋根断熱と軒の工夫で夏も涼しい木の住まい
- 高温多湿に応える、通風と遮蔽の設計思想
- 実測データに基づく、気候順応型の家づくり
- 断熱・通気・方位計画が生む温熱バランス
- 機械に頼らず快適をつくる、受動的な設計手法
気候風土適応住宅 ②
断熱工法で夏涼しく冬暖かい土壁の家
岐阜県 本田邸 設計・施工=㈲亀津建築
岐阜県に建つ本田邸は、土壁と付加断熱工法を組み合わせた、夏涼しく冬暖かい気候風土適応住宅です。自然素材への強いこだわりから、国産の無垢材や漆喰、土壁を採用。竣工から14年が経った今も、「木の香りがする」と訪れる人が驚くほど、経年美を保ち、快適さが持続。エアコン1台で真夏を過ごせるほどの断熱性能と、湿度の安定した心地よさは、自然素材と設計の力によるもの。仕切りを最小限にした空間構成により、風や熱が住まい全体をめぐり、家族の気配もつながります。時を経て深みを増す住まいは、子どもたちの成長とともに暮らしに豊かさをもたらしています。

- 土壁×付加断熱で実現する快適な夏と冬
- 無垢材と自然素材が包む、清々しい室内空間
- 大屋根と吹き抜けが生む、おおらかな暮らし
- 14年経っても変わらない、木の香りと住み心地
- 子どもの成長に寄り添う、柔軟な間取りの工夫
気候風土適応住宅 ③
緑に開いたコーポラティブハウス
神奈川県相模原市 里山長屋 設計・監理=山田貴宏/ビオフォルム環境デザイン室
「里山長屋」は、建築家・山田貴宏さんが設計し、ご自身も暮らしている4世帯のコーポラティブハウスです。土壁や無垢材、自然由来の断熱材を使用し、伝統構法とパーマカルチャーの思想を組み合わせることで、自然と調和した住まいを実現しています。屋根には地元の植生が根付き、テラスは菜園や鶏小屋へとつながって、日々の暮らしが自然と交わっていきます。夏は夜間の風を取り入れ、土壁がひんやりと空気を冷やし、冬は太陽の熱を蓄えて暖かさを保ちます。高性能の数値を追うのではなく、自然の力を活かした工夫により、一年を通じて快適に暮らすことができる住まいです。

- 土壁と太陽熱を活かすパッシブ設計
- 暮らしと自然が溶け合う長屋住まい
- 庭・菜園・鶏と共に育つ循環型の暮らし
- 共用空間が生む、人と人のゆるやかなつながり
- 住まい手が手を動かし育てる働く家
6月11日(水)発売

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