左官の美-土壁・土間-

左官の美-土壁・土間-

塗り壁が木造住宅に寿命と美を与え、住む人の品位を感じさせる奈良の民家。

左官の美-土壁・土間-

文・写真=小林澄夫

東京オリンピック(1964年)以前の木造住宅には、まだ工務店が誕生する以前の大工、左官、鳶、屋根屋といった伝統に培われて来た職人の手で建てられた民家風の手仕事が生んだ形や美があった。

木造住宅の外壁には、板張りのほか、左官の塗り壁では、縁側の雨戸の上部の軒下の壁の土中塗りの上に漆喰や大津が塗られ、白い漆喰のほか大津は地場の壁土の色が石灰の白に薄められているが、特色のある色で塗られ、また玄関まわりの壁は黒の大津壁が塗られ、大津通しの鏝跡の縞模様など独特の風情があっていいものである。また、腰を板張りにしたものでは、その板張りと大津壁の取り合いのチリの部分に漆喰で水切りを取り、塗り壁を長持ちさせる工夫など職人の細工にも見どころがある。

内部の左官の塗り壁は、木舞土壁の上に土中塗り、そして、床の間などに聚楽を塗るか天然の砂壁を塗った。聚楽も砂壁もそのデザインというのではなく、その仕上げの肌や色合いをめでるもので、あとは真壁の柱のチリがすっきり通っているかいないかに職人の手をみるだけである。そのほかの内部の壁に繊維壁があって、葛壁とか絹壁など天然の繊維屑をフノリやニカワといった天然の糊で座敷や床の間に塗られた。また内部の廊下壁には浅葱大津やねずみ漆喰が塗られた。

土間は、玄関土間と縁側の下の犬走りの土間で、いまのモルタルの土間と違って地場の土を石灰と苦汁でたたきしめた土間は見た目にもやさしく歩行感も自然で熱を吸収し、しかも室内の湿度調整をしてくれていた。

土にあれ、石灰にあれ、セメントにあれ、東京オリンピック以前のまだ石油の樹脂を使用することなく水と自然の素材を混ぜ合わせ鏝で塗られていた塗り壁は、古くなるにつれて旨くなったり、酸っぱくなったりする生きものと同じ自然な生きものであった。

土壁(木造住宅の外壁)

年を経た蓑壁。(常滑)

土壁(木造住宅の内壁)

土壁(木造住宅の内壁)

土間床

モルタルと自然石で意匠され た軒下の土間。(常滑)

小林澄夫 こばやし すみお
1943年、静岡県生まれ。40年以上にわたり左官専門誌の編集者として活躍し、全国に残る伝統的な土壁と、現代の左官仕事の豊かさを紹介し続けてきた。著作に『左官礼讃』、『左官礼讃II 泥と風景』(ともに石風社刊)。『チルチンびと別冊34号左官と建築』、『左官読本』1〜10 (風土社刊)では編集長を務めた。

チルチンびと B66掲載

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