土壁(木造住宅の内壁)
土壁(木造住宅の内壁)
文・写真=小林澄夫
木舞土壁-土塗り-
柱梁の軸組み構造の木造住宅から柱や梁が消えたのは、オリンピック以前のプレハブ工法からツーバイ工法などをアメリカから導入するようになってからである。いまの壁はすべて石膏ボード貼りつけの大壁になって、柱と柱の間の真壁はなくなってしまった。真壁は、木舞土壁に塗り壁で仕上げられた。
まず、木舞土壁の荒壁の上に中塗りが塗られ、中塗り仕舞をそのまま仕上げで終わるのも素っ気ないので、その中塗りの中塗りスサを切り返して少し短くしたスサを入れたものを中塗り切り返しといった。
土壁の本格的な仕上げに聚楽壁がある。土壁が美的対象として初めて塗られたのは千利休の草庵の茶室からだが、それより茶室だけでなく座敷や床の間に聚楽仕上げが塗られるようになった。聚楽壁は、篩いでふるったみじんスサを色土とこまかいふるい砂で練った材料をかたいはがねの鏝でナデ仕上げたもので、乾燥すると品のいいちりめん肌を帯び、その天然の土の色とともに塗られた壁は美的対象として鑑賞することができる。
また、木舞土壁は仕上げが聚楽にあれ、砂壁にあれ、繊維壁にあれ、土壁はその柱の半分ほどの塗り厚を持っていて防火性能や吸湿性能を持っていて、夏涼しく冬暖かい壁でもある。
(東京で解体中の昭和の木造住宅)
木舞土壁-漆喰-
木造建築の漆喰はおもに風雨除けのために外壁に塗られ、内部ではその白が明るすぎて陰翳を好む私達にあわないので漆喰白壁はあまりみられない。
ただ、土壁にはない強度があるので廊下など壁にねずみ漆喰が塗られた。ねずみ漆喰のことを関東では浅葱漆喰ともいい、品のいい薄墨色の灰色の漆喰が好まれたのである。あとは床の間などに朱を差したあけぼの漆喰など薄桃色の漆喰などが塗られることもあった。また、便所や風呂場の脱衣室などの壁に漆喰の磨きが塗られることもあった。
木舞土壁-大津-
大津は雨風や湿気に弱い土壁の補強のために土に石灰を混ぜて土中塗りの上に塗られた仕上げ壁である。色は漆喰のように松煙墨による黒や弁柄による赤、そして白土を使用した白があるが、青い浅葱土を使用した浅葱大津壁がその品のよいおとなしい色味が好まれて木造住宅の内外壁によく塗られた。大津壁は漆喰のようにかたい表情はなく、ナデモノの仕上げの見た目にやわらかい壁肌に特徴がある。大津は、白土にあれ、浅葱土にあれ、天然の土の色がそのままあらわれるもので、自然の色土の風味を鑑賞する楽しみがある。
また、色のほかに大津通しといって黒の大津壁で大津返し鏝という仕上げの鏝を通した鏝尻の跡をうっすら残した仕上げがある。木造住宅の玄関袖の壁などにふつうの大津壁にはみられない沈んだ景色を与えている。
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