向島百花園・佐原洋子さんと火鉢を囲む
火箸で炭の塩梅をみるその所作ひとつに、火鉢を傍らに育った年月がにじみ出る。
「これは子どもの頃から使っている火鉢なの」と愛おしげに語るのは、生粋の江戸っ子、向島百花園の佐原洋子さん。
今日は江戸研究家の菊地ひと美さんたちをお招きし、粋なひと時を愉しむ趣向。
「冬は、やっぱりこれじゃなきゃ」と、手炙りの上でぷっくり膨れた餅に、頬もほころぶ。
冬の暮らしの風物詩ともいえる火鉢は、数多くの文学や舞台にも登場する。とりわけ江戸の花ともいえる歌舞伎には、鉄火な鳶の一家や、遊女の恋の鞘当てなど、数多くの場面に趣を添える小道具であった。
人が増えたら、手炙りよりは長火鉢。
鉄瓶が音を立てる頃には、隣の小鍋もいい頃合いに。
お茶もいいけれど、小鍋ときたらやっぱり熱燗。
ほのかに漂う炭火の香りに、鍋や酒の香りも入り混じれば、よそ行きだった
場の雰囲気もおのずとほぐれ、冬の日差しを浴びながら、気の置けない酒宴の始まり。
江戸長火鉢とも言われる関東火鉢。関西の長火鉢と異なり、炉のまわりに酒器や茶道具をのせる縁がない。代わりに炉の脇に湯のみなどを置く「猫板」を設けるのが特徴。名称の由来は、暖かいところが好きな猫がよく居着くことから。(長火鉢撮影協力/㈲アンティーク山本商店)
「味見は年寄りの役目なのよ」と長火鉢の前で采配をふるう佐原さん。
「よく熾きた炭に灰をかぶせた火鉢を枕元に置いておくと、一晩中暖かいの」と佐原さん。
暖をとるのはもちろん、小腹が減ればちょっと何かを炙ったり、火鉢は冬の暮らしを支えてくれる、すぐれた日本の生活道具。
じんわりと赤らむ炭火があれば、肌身も気持ちも暖まる。
佐原さん愛用の炭取り2種。左はカンピョウの実をくり抜いたもの。右は江戸千家の師範である佐原さんが、茶道の稽古でも使っている。
向島百花園
骨董商・佐原鞠塢により文政期に開園した、現代に唯一残る江戸時代の花園。1月の春の七草、七福神巡り、夏の大輪朝顔展、虫ききの会、秋の月見の会など四季の催しが楽しめる。
場所/東京都墨田区東向島3-18-3 開園時間/9:00〜17:00(年末年始は休園) 問い合わせ/向島百花園サービスセンター ☎03-3611-8705
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