薪ストーブのある家の理想の断熱とは?

薪ストーブのある家の理想の断熱とは

Q 薪ストーブのある家の理想の断熱とは?

A 土壁+外断熱はいかがでしょう。

文・黒木勝一 (㈶建材試験センター中央試験所長)

放射熱を生かす壁

薪ストーブの暖房の特徴は、放射熱が主体の暖房ということである。高効率の薪ストーブの燃焼効率は80%くらいであり、発熱量の約20%は外気に逃げてしまう。残りの発熱量のうち20〜30%はストーブのまわりの対流により室内に熱移動し、残りは放射熱であろうと予想される。放射熱はゆっくり室内を暖める。エアコンのように強制的に室内空気を循環させて室温を上げるというようなことをしない。このような暖房方式では、暖かさを一定に保ち、かつ省エネになる工夫が必要である。そこで、放射暖房による最適な断熱化を考えてみる。

まず、暖かさを一定に保つには、建物内に熱容量があるとよい。また、熱容量のある室内の室温は、最初は暖まりにくいがいったん暖まれば冷めにくいという特徴をもつ。熱容量の大きい建築材料には、コンクリートや石材、土がある。古くから木造建築の壁は土壁であった。木造住宅にあってはこの伝統の土壁を生かし、蓄熱することが最適である。

ただし、室内を暖房する熱を外に逃がしてはいけない。土壁だけでは熱損失が大きいので、断熱が必要だ。薪ストーブの放熱をいったん蓄え、熱損失も防ぐ。そう考えると、壁の内側で蓄熱、外側で断熱という形が望ましいということになる。いわゆる外断熱工法だ。土壁という日本人独特の美意識を取り入れ、薪ストーブで暖を採る。これこそ究極の自然志向ではないか。

土壁断熱工法の壁の拡大イメージ

土壁+外断熱

実は、土壁に外断熱という組み合わせは工法的にみて簡単にはいかない。調べてみると、地場の伝統を生かしつつ新技術を取り入れ、調和を図る先駆的な人たちにより土壁断熱工法というものがいくつか開発されている。しかし、それらは必ずしももろ手を挙げて賛同できるものではない。そこで、自然派志向の土壁断熱を考えてみる。

提案としては、図1のように、通常の土壁の外側にセルロースファイバーを施工する断熱工法である。軸組の柱は、長期耐久性のある住宅ということで4寸(120ミリ)角とする。外断熱は、柱に60ミリの角材を付加し、その空隙にセルロースファイバーを吹き込むというものである。土壁の厚さは80ミリ。そうすると断熱層の厚さは約90ミリとなるので断熱性としては、次世代省エネ基準における五つの地域
区分のうち、3地域の省エネ基準を満たすことになる。

そして、断熱層の外側には15ミリ程度の通気層を、さらにその外側には外装材ということになるが、外装材は和風であることを考えると窯業系サイディングというわけにはいかないであろう。このあたりのディテールはいろいろ考えられるが、詳細については今回は割愛する。また、通気層を設けない場合でも、内部結露対策が可能な仕様も考えられる。なお、壁と基礎の取り合い部分における断熱層の連続性を考えた場合、基礎も外断熱とすべきである。

土壁外断熱工法

この土壁断熱工法の特徴、利点は次のようなものとなる。

1 蓄熱性

蓄熱性があれば室温低下を抑えられる。就寝前に暖房を切ったとしても、通常朝の室温が15℃を下回らないならば、寒さのストレスを感じず起床できる。

室温変動を抑えるためには、室の熱損失係数Kと室内の熱容量Cの比(これを室温変動率δという)を小さくすることである。ちなみに、22.5畳の大きさの室を想定し、薪ストーブを消した場合の室温の低下を計算すると図2のようになり、蓄熱性がある場合とない場合では温度低下が大きく変わることが分かる。蓄熱性があると20℃の室温が15℃に低下するまで6時間くらいかかるが蓄熱性がないと2時間程度である。また、図3および図4に蓄熱性のある壁(建物内の間仕切り壁も含む)をもつ住宅とそうでない一般断熱の住宅の自然室温のシミュレーション結果を示しているが、夏と冬の両季節で、蓄熱性のある住宅は室温変動が小さいことがわかる。

室温の比較

2 防露性

湿気は自由に移動できるようにすることが望ましい。結露させないためには透湿性の少ないものを室内側に配置し、順次多いものを外側にすればよい。逆に熱抵抗の大きいものを外側から内側に配置すると完璧である。土壁断熱工法をみると、土壁を内側に、セルロースファイバーを外側にというのは、透湿性は少ない順であり熱抵抗は外側から大きい順になっているので理に叶っている。こうすれば特に室内側に防湿フィルムを貼る必要はない。逆に湿気を止めてしまうフィルムは、土壁やセルロースファイバーの持つ吸放湿性を殺すことになる。

なお、通気層のない場合は外装側の材料の透湿性による影響がでてくるので適切な選定を考えないといけない。

3 調湿性

土壁は粘土主体の土なので大きな湿気容量を持つ材料でもある。湿気容量は平衡含水率(材料中に含むことができる湿気の最大量)で表すことができるが、図5に示すように相対湿度に比例して直線的に変化する。

石膏ボードと比較して容積含水は約10倍以上である。実際は、土壁の厚さは80ミリあり、石膏ボードは12.5ミリであるから含水量の差は、さらに6.4倍になる。したがって、相対湿度の高い夏に吸湿した水分は冬乾燥する時期に放湿して、暖房時の過乾燥を和らげる働きをする。また、夏の暑い時には、土壁の
水分の蒸発潜熱により壁の表面温度を低く保ち、放射熱が少なくなるので居住者に体感的な涼しさを与える。

平衡含水率の比較

4 環境影響

土壁もセルロースファイバーも天然由来の材料である。このため廃棄段階では環境負荷がきわめて小さい、環境にやさしい材料と言えよう。また、室内空気を汚染するホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)のような化学物質の放散もない。むしろ、土壁には化学物質の吸着作用がある。なお、外装側の材料選定には気を付けなければならない。

その他、土壁は乾燥収縮により隙間が生じやすいと言われるため、壁全体の気密性について配慮する必要がある。通気層がある場合は、透湿防水シートで気密性を確保することができる。

薪ストーブのある家の断熱ということで、特に放射暖房を生かすために熱容量のある土壁を取り入れた断熱を提案したが、基本的には土壁のある在来軸組構法に付加断熱ということになる。しかし、多くの利点があるもののディテールについてまだまだ検討の余地があるので、今後に期待したい。

チルチンびと 78号掲載

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