木の家で楽しむ 緑のカーテンのデザイン術

緑のカーテンのデザイン術

木の家で楽しむ
緑のカーテンのデザイン術

夏の強い日差しを遮り、暮らしを快適にしてくれる
緑のカーテン。その恩恵にあずかるには、
とにかくしっかりと葉を茂らせることです。
ここでは緑のカーテンづくりの達人の助言をもとに、
カーテンづくりの基本的な知識や、
上手に育てるコツ、そして栽培のワンポイントテクニックなどを紹介します。

協力=菊本るり子(板橋区立高島第五小学校教諭) イラスト=鈴木 聡(TRON/OFFice)

はじめに

近年、都会のマンションのベランダや民家の軒先に、色鮮やかな花やたわわな実を付けたつる性植物でできた「緑のカーテン」を見かけることが多くなりました。緑のカーテンはその見た目の涼やかさとともに、日射を遮るエコなカーテンとして注目されています。特に昨年の震災後は、省電力の観点からも注目が集まっています。

緑のカーテンには日射カット・蒸発冷却による気温の上昇抑制効果、空気の浄化作用、精神的ストレスの軽減など、ポジティブな効果があります。また、そこから収穫できる果実や野菜、目にも楽しい花など副次的な楽しみもあるでしょう。でも、最も大切なのは「夏の間中、隙間なく葉を茂らせ、しっかりと日差しを遮ることができるように育てること」と、緑のカーテンの第一人者、菊本るり子さんは言います。せっかく緑のカーテンづくりにチャレンジしても、その効果を実感できなかったり、失敗した思い出だけが残ると、毎年挑戦しようとする気持ちが失われるのが残念だからだそうです。どんな植物でもちゃんとした緑のカーテンができるわけではありません。花や実などが期待できても、中には最大の目的である日射を遮るという役目が十分に果たせないものもあります。

ここではまず、しっかりと茂らせることを目標に、初心者でも比較的育てやすいゴーヤを例に栽培のポイントを紹介します。植物の特性などに注意しながら緑のカーテンをつくる楽しみを広げてください。


栽培の流れ

準備(4〜5月)
種を蒔く
種から育てる場合、プランターや育苗ポットで発芽させる必要があります。また、一部の種は、蒔く前に水でふやかしたり、傷をつけなければいけないものもあります。

ネットや支持材を設置
植え付ける
摘心する
誘引する
肥料を追加する

花や実がつき始めたタイミングで肥料を追加することで、土壌の栄養を補ってあげるとよいでしょう。授粉させる実のなる植物の場合、確実に実をつけるよう、人工授粉するとよいでしょう。

授粉させる
実のなる植物の場合、確実に実をつけるよう、人工授粉するとよいでしょう。
収穫する

片付けする(10〜11月)


壁面緑化と緑のカーテン

緑のカーテンは、いわゆる「壁面緑化」の手法の一つです。壁面緑化とはつる性植物の特性を利用し、建物の垂直面を植物で覆うこと。一方、屋上や屋根を緑で覆うことは「屋上緑化」と呼ばれています。

壁面緑化をするにはいくつかの手法があり、それに適した特性を持つ植物を選ぶ必要があります。

左イラストのように、その手法は大きく分けて四つ。 壁面を直接上らせる。 壁面に支持材をつけて上らせる。 屋上から垂らす。 プランターを使う、といったタイプがあります。

壁面緑化を住宅で行う場合、最も注意しなければならないのは住宅本体を傷めないことだと建築家の大野正博さん。「植物の力はすごいからね、壁の隙間に入り込むこともある。特に木の外壁だと、湿気がこもらないよう風が通る隙間をつくらないと壁が腐ることも」。緑のカーテンは窓面に対してつくるものなので、壁面緑化のように直接壁に影響はありませんが、想定以上に育って壁にダメージを与えることがないよう、ツタ類など気根を出して壁に吸い付くものは避けるべきでしょう。

『緑の屋根、緑の壁』(建築ジャーナル)を参考に作成

Step.1 カーテンのタイプを決めよう

まず住宅にあわせて支持材の取り付け方を考えましょう。

カーテンのタイプ

軒に物干し竿をかけるフックがあれば、イラスト③のように横材を渡して吊り下げる方法が簡単です。そういったものがない場合は、②のように縦材を使って壁に立てかけるようにするのがよいでしょう。マンションなどのベランダの場合は、①のように物干し用の突っ張り棒を使ってネットを張るのが手軽です。ゴーヤの場合は、実がなるとかなり重くなりますから、ぐらぐらしないようにしっかり設置しましょう。

支持材の取り付けでの注意点は、「ネットはたるまないようにぴんと張ること」と菊本さん。「つかまるところが頼りないと、人間は怖くて登れないでしょう。植物も同じですよ」

その一方、植物が育ってくると、強い風が吹いたときに風を多くはらみ、植物がちぎれたり、支持材が倒れる可能性もあり危険です。そういう場合にカーテンを取り外せるように工夫しておくことも大切。③の吊り下げ型ならば上部の横材が取り外せるように、②立てかけなら寝かすことができるようにしておくことも忘れないでください。

そして、もう一つのポイントは、植物の根元が日陰になるように植えることです。直射日光で土の温度が上がったり、水分が蒸発したりして育ちが悪くなります。右のイラストではプランターをネットの奥に設置しています。

そして、より涼しく感じられるようにするには、「緑のカーテンと窓の間をできるだけ離して、広い空間をつくること」(菊本さん)。涼しさの仕組みは日射遮蔽と蒸発冷却。室内への熱伝導をできるだけ防ぎ、植物の力で涼しく感じる空間を大きくするのがよいでしょう。

Step.2 必要なものを揃えよう

設置方法をイメージできたら、準備を始めましょう。緑のカーテンづくりに必要なものは基本的に苗、プランター、土と肥料、支持材です。

近年は緑のカーテン専用の支持材や土なども市販されていますが、農業用のものでも問題はありません。初めての人は、園芸店などで相談して揃えるとよいでしょう。

大きく育てるためには、しっかり根も伸びていることが重要になります。
たくさんの水分も必要になるので、なるべく多く土が入る、
深くて大きめのプランターがおすすめです。

支持材

軽くて取り扱いやすいのはアルミ製のものですが、木製のものは緑とよくなじみます。
また、ネットもビニール製のものでも大丈夫ですが、自然素材の麻製ネットもあります。
ただし、ネットで重要なのは網目のサイズ。
「経験上、10㎝角がベスト」と菊本さんは言います。

土・肥料

質のいい土をたっぷり使うことが緑のカーテン成功のポイントです。
また、ゴーヤの場合、少しアルカリ性の土を好みます。
植物によっては石灰などで土の状態を整えましょう。


物干し台を使って

物干し台は使いやすい高さまでしか竿持ちが上がらないつくりのものが多いですが、上下逆にして使えば、台の上端まで竿持ちが上がります。また、竿持ちの穴にロープを通し、そこに横材を吊るしておけば、大風の時、ロープを緩めることで容易にカーテンを下ろすこともできて便利です。

自宅で堆肥づくり

庭があるなら、家庭の生ゴミから自宅で肥料づくりをしてみては。水分が多いと虫が発生しやすいので、水をよく切って土と混ぜましょう。


Step.3 苗を植え付ける

準備が整ったらいよいよ植え付けです。ゴーヤの場合、4月末から5月頃が植え頃。一つのプランターにたくさんの苗を植えず、大きめのプランターでも2株までが目安。苗が小さい頃は朝晩2回、たっぷりと水をあげ、割り箸を土に刺して、箸に土がつくぐらいの湿り気をキープ。乾燥防止には敷き藁などのマルチングも有効です。

隙間無く緑で覆うため、二つ以上の種類の植物を育てる「合わせ技」も。ゴーヤは育ってくると根元に近い葉が枯れて隙間ができます。隙間を埋めるためアサガオやオキナワスズメウリを植えるテクニックもあります(下図)。

隙間を埋めるためアサガオやオキナワスズメウリを植えるテクニック

植物の生長速度や特性に合わせて植えることで、密度の高い緑のカーテンができる。このとき、違う種類のものは別のプランターに植えること。植物の相性もあるので注意が必要です。菊本さんの家ではブドウとゴーヤ、オキナワスズメウリを植えている。

Step.4 カーテン状に育てる

カーテン状に育てる

苗が伸びてきたら、ネットを使ってつるをカーテン状に広げていきます。親づる(いちばん先のつる)は、上に伸びる特性があり、そのままにしておくと横には広がりません。ネットいっぱいに広げるには「摘心」という作業が必要になります。苗が100センチほ心です。すると、葉の付け根から子づる・孫づるが育ち始めます。この子づる・孫づるを横方向に誘引してあげましょう。

ゴーヤのように巻きひげでネットにつかまるものは、イラスト下のように巻きひげをネットに巻きつけて固定。アサガオなど、つる自体がネットに絡むものは、つるを解いて右のようにジグザグに巻きなおすとよいでしょう。

Step.5 花も実もしっかり育てる

雄花を摘んで雌花に。花の付け
根に小さい実があるのが雌花。

植え付けの時に入れた肥料はひと月ほどで使い果たされます。育ちが悪くなったと思ったら肥料を追加します。また、枯れた葉は病気の原因になるので摘み取りましょう。

花が咲いた頃にはハチや蝶が飛んできて花粉を運び、実が膨らんできます。虫の来ない高層マンションなどでは、雄花(付け根に実がない)を摘んで、雌花につけてあげましょう(上イラスト参照)。葉を傷めるナメクジ、アブラムシなどの害虫は、病気の原因になるので、見つけたらすぐに取り除くこと。虫除けには、木酢液を霧吹きで葉にかけるのも効果的です。しっかり育てるためには「愛情をもって毎
日話しかけてあげることですよ」と菊本さん。日々、気を配ってあげることで育ちや葉の状態に気づいてあげることが大切だということです。

こうして、実が大きく育ち、収穫できる頃には緑のカーテンも完成し、ネット一面に葉を茂らせていることでしょう。きっとその涼しさも気持ちよさも体感できます。

菊本さんご自宅のベランダ。見事な緑のカーテンができている。(写真提供/菊本るり子さん)

Step.6 カーテンの片付け

ゴーヤは一年草で、10月ぐらいになると葉が枯れ落ちます。落ち葉は飛んで近隣の迷惑になるので、暑さが和らいだ頃につるを切り、片付けをしなければなりません。でも、ゴーヤからは種が採れます。また来年、緑のカーテンをつくりましょう。

[種の採り方]
①実をオレンジ色になるまで完熟させて割り、種を採る。
②ぬめりをよく洗う(水に浮く種はうまく育たないので取り除く)。
③よく陰干しして、紙袋に入れて冷暗所で保管する。→翌年4月頃、また発芽させましょう。

チルチンびと 73号掲載

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