日本の古材

日本の古材

日本の古材

今では採れない希少な材を手仕事で磨く

協力=島村葭商店 写真=西川公朗 作図=鈴木聡(TRON/OFFice)

梁・柱・板材まで再利用

梁・柱・板材まで再利用

古民家の状態がよければ、通常は土台まわり以外は再利用できる。
ただ、外がきれいでも中が虫にやられていることもあるので、
古材の業者など専門家の立ち会いのもと、必ず現状を確認するのがおすすめ。

ていねいな手仕事で
古材が今に蘇る

そもそも、古材とは何か? 
現状では古材を扱う業者により、築50年の材を言ったり70年で古材と言ったり、その定義はさまざまです。明治35年創業の琵琶湖畔の老舗「島村葭商店」では、おおよそ120年以上の材を、古材として扱っています。四代目・島村義典さんによれば古材の良さは、手鉋などではつられた跡や、先人が囲炉裏や竈を使った時の煙が、長い時を経て梁や柱・床板や家具に染み込んで生まれる飴色の輝きなどの表情もさることながら、純粋に木材としての性能・希少性にあります。現在の流通材は戦後、計画的に植えた木を30〜50年ほどで伐採、そして人工的に短期間で乾燥するのが主流。対して古材は、元が天然の山で育った良質な材で、しかも時間をかけ、水分・油分が落ちていくので、材としての安定性も増します。

ただ、こうした古材を住まい手に届けるには根気のいる手仕事が求められます。解体の際、重機によってついた傷、長い間埃を被っていたことによる煤けや虫害を、1本1本状態をチェックした上で手鉋などで調整。さらにささくれた箇所をはつって丸みをもたせたり、繊細にペーパーをかけ、元の表情をいかに蘇らせるかに腐心します。

形を整えた後は、汚れを払って木目を引き出し、艶出しや古色仕上げを施すプロセスへ。油を乾かすだけでも1週間という、とかく手間のかかる仕事ですが、「ここまできっちり手をかけないと、古材に申し訳がない」と島村さん。使うのは、亜麻仁油と松煙、ベンガラと、昔ながらの色づけに使われていた素材。「黒光りする古材の色は、数百年かけて生まれたオリジナル。市販の塗料では再現できません」。調合は、住まい手の好みや使う古材の雰囲気によりその都度変えています。最近の傾向としては濃い古色を施すことなく、亜麻仁油を塗り込めた後乾拭きをして、古材本来の色艶や木目を磨き仕上げすることで浮き立たせた、比較的明るめの状態を好む方も多いそうです。

解体材を蘇らせる職人の手仕事

長い間眠っていた古民家の材は、汚れや傷などもあり、そのまま使えるわけではない。島村葭商店では1本1本状態を見極め、へこんだ傷を自然にならし、表面を削ることで木目を浮き立たせる。さらに油や顔料による古色仕上げを施して完成。

全体にホイルサンダーをかける

①古民家は人力で解体するが、やむをえず重機を使うことも。傷は、手鉋などで自然に見えるよう調整する。 ②全体にホイルサンダーをかけ、埃に隠れていた木目を浮き上がらせる。染み付いた煤が飛んでしまうので、要望がなければ水洗いは行わない。

亜麻仁油を塗り込め艶を出す。

③亜麻仁油を塗り込め艶を出す。乾拭きで留める場合もあれば、④のように、古色を塗ることも。

蘇った古材。
写真は木下龍一さんが設計した島村さんの自邸。

⑤蘇った古材。写真は木下龍一さんが設計した島村さんの自邸。

古材にさらなる美を与える、塗りの技

古くから日本で建材の保護のために使われてきた、
ベンガラ・松煙、そして亜麻仁油。
油で溶いた顔料を塗っていく仕事は、まるで美術品の修復のよう。
汚れの下に眠っていた木目を引き立たせ、
さらにこれから紡がれる時間を美しく受け止めるプロセス。

亜麻仁油

亜麻仁油

この油により、時間が経つと材は自然な古色を帯びていく。
好みや状態により、古色仕上げはせず、艶出しに留めることも。

松煙

松煙

松を不完全燃焼させた煤。
木材に、最も自然な深みを与える顔料の一つ。

ベンガラ

古来より使われてきた酸化鉄。
松煙と混ぜて使うことで、防虫・防腐効果も。
(塗料素材写真・浦川一憲)

何が違うか、古材と新材

古色仕上げの濃度を変えた新材と、古材を比較するとやはり表情が異なる。古材が味わい深いのは、色味もさることながら、夏目(色が薄い層)が痩せて冬目(色が濃い層)が立体的に浮き出ることも理由の一つ。

古色仕上げで新材にも味を

古色仕上げで新材にも味を

古材が傷んで部分的に新材を使う場合に、古色仕上げの技術が問われる。色は、古材の色にあわせてゼロから調合している。また住まい手の好みで上写真のような濃淡も。最近は、あっさりとした仕上げが求められる傾向があるとか。

古い梁・柱からとびきりの板材を

古い梁・柱からとびきりの板材を
一見傷んでいても表面を削れば、現在ではなかなか手に入らない、
素晴らしい赤身材がその下に眠っています。
柱や梁として使えなくても、板材や框として、最後まで繰り回す。
製材所で挽いてもらうために、
1本1本、人の手で釘を抜く手仕事がなされます。

構造材から挽いたテーブル天板。表面は手鉋仕上げ。

時間が磨いた材を
すみずみまで生かす

最近、島村さんが力を入れているのが、柱梁などの構造材を板材として再生させること。表面が傷んでいたり虫にやられていても、一皮剥けば、中には現在ではなかなか入手できない目の詰まった美しい材が眠っています。「昔は、良材に恵まれていてなお、樹皮に近く虫のつきやすい〝白太〟をわざと腐らせて、耐久性があり美しい色艶の〝赤身〟という部分だけを使っていたのです」。

確かに挽いてしまえば、古材特有の煤は落ちてしまいますが、これほどの良材、使わない手はないとのこと。それに水分・油分が抜けた内部は、新材と同じように古色仕上げを施しても、油や塗料のノリも違い、挽いた後の狂いも少なく安定しているとか。

古材の購入に際しては「ネットの情報だけで判断せず、必ず実物を見てほしい」と言う島村さん。古民家の移築再生を考えている人には、可能な限り解体前の現場まで足を運んでもらい、古民家や材の来歴を説明します。「時が磨き抜いた古材は、現在の技術ではつくれないもの。本物の良さをぜひ暮らしに取り入れてほしいですね」。

島村葭商店 喫茶 古良慕+ギャラリー

島村葭商店
〒520-1501 滋賀県高島市新旭町旭8番地
TEL:0740-25-4370
営業:9:00〜17:00(不定休)
喫茶 古良慕+ギャラリー
〒520-1501 滋賀県高島市新旭町旭460
TEL:080-9758-3780
営業:11:30〜17:00(水・木曜日定休)※HP参照

チルチンびと 80号掲載

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

Optionally add an image (JPEG only)