デッキ・縁側 、外へと誘う空間 〜子どもの育ちとの関係から

デッキ・縁側 、外へと誘う空間

設計=松本直子 写真=西川公朗

デッキ・縁側 、外へと誘う空間
〜子どもの育ちとの関係から

縁側やウッドデッキは、光や風と触れ合い、
庭を楽しみ、外へと誘う空間です。
好奇心を刺激する中間領域の歴史、そしてその働きを、
子どもの成長という視点から述べてもらいました。

文=高木真人(京都工芸繊維大学)

現在の日本の住宅がどんなに進化しても、あるいは西洋化しても、ほとんどの家では玄関で靴を脱ぐ・履くというスタイルだけは変わっていません。つまり、外に出るには、玄関までわざわざ行って、靴を履かないといけないのです。当たり前のことなのですが、そのため、何か目的がないとなかなか外に出なくなってはいませんか。

しかし、縁側という空間があったらどうなるでしょうか(図1)。室内から特に用もなく何となく縁側に出て、外の景色を眺めたり、気分転換に外の空気を吸ったりする。あるいは室内でもできることなのに、わざわざ縁側で本を読んだり昼寝したりする。気候の変化も感じることができ、庭の花が咲いていることや美しい蝶や鳥が遊びにきていることに気づいたりするかもしれません。そして、外に関心を持つ機会が増えていき、自然と外に出て行くことが増えていくのではないでしょうか。

図1 「母屋—庇—縁側」という日本の伝統的・基本的空間構成。
図1 「母屋—庇—縁側」という日本の伝統的・基本的空間構成。

「縁側」とは?

【縁側の歴史・機能】

日本の伝統的な住宅にはかなり古くから縁側があり、橘夫人邸と呼ばれる8世紀中頃の住宅にすでにあったそうです。そして、平安時代の貴族住宅、すなわち寝殿造りの住宅は、まさに縁側だらけでした。複数の建物が廊で結ばれ、それらを縁取るように縁側が巡っています(図2)。古典文学や絵巻物をみると、縁側がどのように使われていたのかもよくわかります。

図2 『春日権現験記』より。座り込んで話したり、部下に命令したり、さまざまな様子が見られる。(国立国会図書館所蔵)
図2 『春日権現験記』より。座り込んで話したり、部下に命令したり、さまざまな様子が見られる。(国立国会図書館所蔵)
図2 『春日権現験記』より。座り込んで話したり、部下に命令したり、さまざまな様子が見られる。(国立国会図書館所蔵)

たとえば、廊下代わりの空間として縁側伝いに歩くことも多かったのですが、一方で縁側を介して内と外を出入りすることも多く、いわば「歩行・出入り」の空間でした。縁側での人の流れが多くなれば、必然的に縁側は「コミュニケーション」の空間ともなりました。縁側での対面、手紙の受け渡し、主人から家来への命令・指図など、さまざまな交流が行われていたのです。たとえば、『源氏物語』においても、思いを寄せる女性の部屋を訪れて、男性が縁側で待つというシーンが描かれています(図3)。

図3 『源氏物語絵巻』より。思いを寄せる女性を訪ねる。(国立国会図書館所蔵)
図3 『源氏物語絵巻』より。思いを寄せる女性を訪ねる。(国立国会図書館所蔵)

そして、外に接する空間であるということから、縁側にいながら外を見るという行為も多く、月見をしたり、庭や景色を見たり、あるいは庭でのイベント等を観賞する場ともなっていました。また、子どもから大人まで縁側で遊ぶということも多かったようです。楽器を演奏したり、碁を打ったり、歌を詠んだり、室内でもできそうな遊びを縁側に出て行うのです。あるいは雪玉をつくって縁側に置くというような室内ではできない遊びが見られるのも、縁側ならではといえます。

【縁側の衰退】

このように多様な使い方ができる縁側は、もともと貴族の住宅を中心に見られるものでしたが、次第に座敷をもつようになった一般庶民の住宅にも広がっていきます。そして、いつしか日本の住宅にとって縁側は切り離せないものとなり、つい昭和中期頃までは、ほとんどの住宅において縁側があったのです。子どもたちは、虫かごを置いたり、工作をしたり、スイカを食べたり、縁側は室内では行いにくいことをするにも、うってつけの空間でした。

しかし、昭和後期以降、住宅から縁側が激減してしまいました(図4)。理由としてはさまざまなことが考えられます。住宅や生活スタイルの西洋化、つまり中廊下型の住宅の普及、和室や座敷の減少がまず理由として考えられます。そして、庭の狭小化、縁側によってつなぎたくなるような外部環境の喪失なども影響しているかもしれません。そして、住宅の高気密化が進む中、内と外を曖昧につなぐ中間領域としての縁側は失われ、内と外は完全に区切られ、目的がなければなかなか外に出なくなってしまったのです。

図4 縁側のある住宅の変遷
図4 縁側のある住宅の変遷

【縁側に類する空間】

縁側は日本にしかない空間だと思われがちですが、実は韓国にも縁側のような空間があります。韓国の伝統的な住宅では、マルと呼ばれる開放的な板敷きの空間がありますが、部屋と庭の間に位置する細長い板敷きの空間はトェンマルと呼ばれ、日本の縁側そのものです。ただ、日本とは異なって、縁側に接する部屋の建具が引き違いではありません。それから、東南アジアのタイの伝統的住宅にも縁側的な空間はあります。こちらはどちらかというとウッドデッキのバルコニーのような感じです。

こうして見てくると、室内で靴を脱ぐという環境において、室内から靴を履かずにそのまま外部に出られる板敷きの空間というのは、本来は必要不可欠な空間なのかもしれません。そうした意味からも、純粋な和風建築でなくても、縁側の〈外へと誘う〉という機能的な部分だけ継承して、現代の建築にもあうデッキのような空間をつくることを考えてみてもいいのではないかと思います。

保育園での調査から見た
縁側が子どもに与える影響

【よく遊ばれる縁側】

縁側があれば、室内にいる子どもたちの意識も自然に外へと向くと考えられますが、ただ現在は縁側のある住宅がほとんどないので実証しようがありません。しかし、保育園や幼稚園などの子どものための施設では、現在でも比較的縁側が多く継承されています。そこで、私は縁側のある保育園において、縁側がどのように使われているのかを調査してきました。

まず、前提として、縁側と室内を自由に行ったり来たりしながら遊んでよいという状況が必要です。この同じ状況においても、子どもたちがたくさん遊んでいる縁側とあまり遊んでいない縁側があります。よく遊ばれている縁側というのは、自由に出入りがしやすいように建具が引き違いになっていて、建具を開放すれば保育室と縁側が広くつながるタイプのものです。なかには、建具をすべて戸袋に収納して、保育室と縁側が完全につながるような保育園もありました。そして、幅も1間(約1.8メートル)以上あると、子どもたちも遊びやすいようです。

これは、縁側に小さなテーブルを置いて3、4人集まってお絵描きなどをしていても、その横を両側から来た子どもたちがすれ違うことができるというスケールに相当します。

私の調査した保育園では、保育室面積が基準ぎりぎりの狭い保育園でも、基準の1.4倍はある保育室面積がゆったりした保育園でも、いずれも4割以上の子どもたちが縁側で遊んでいました。保育室が狭いから縁側に押し出されるというのではなく、自ら縁側で遊びたくて縁側に出てきているのです。

【外遊びを活性化する縁側】

縁側で行っている遊びのうち、お絵描きや絵本を読むことなどは保育室内でやっていることと同じことを縁側でやっています。

その一方で、縁側ならではの活発な動的な遊びが見られるときもあります。複数の保育室や遊戯室などが縁側ですべてつなげられていれば、廊下の代わりとして、縁側に沿って歩き回ったり、走り回ったりする子どもたちも出てきます。特に縁側の端部に遊戯室など拠点となるような空間があると、保育室と拠点を頻繁に行ったり来たりする子どもたちが増えます。あるいは、保育室同士がつながり直接行き来できる、保育室の表と裏の両方に縁側がついているなど、平面構成に回遊性があると、鬼ごっこのような遊びが発生しやすいです。

こうした動的な遊びが発生し、二人並んで歩いている子どもたちを別の子どもが追い越すという状況を考えると、やはり1.8メートル程度の幅が必要になるでしょう。

また、テーブルなども置いたままにしておくならば、もう少し幅が必要になってくるでしょう。調査をしていると、こうして走り回っている子どもたちは、ときおり庭の方へ裸足のまま飛び出していくこともあります(図5)。

図5 保育園における子どもの動線
図5 保育園における子どもの動線

その保育園では縁側と園庭の間に人工芝のゾーンがあったため、ちょっとくらい外に出ても足の裏があまり汚れないので飛び出しやすかったのでしょう。もし、縁側のところに下駄箱があり靴を履いてすぐ外に出られるような環境になっていれば、やはりそのまま外遊びに展開することもあるでしょう。

このように、縁側で過ごす時間が増えて、縁側を通る機会が増えれば、外の環境に興味を持つ機会は自ずと増えてきます。そこでさらに外(園庭)に子どもたちの興味を引くような自然、遊具、たくさんのお友だちなどがいて、すぐに靴を履くことができるような環境が整っていれば外遊びに展開しやすくなるでしょう。

これからの住宅における縁側
〜庭へ、空へとつなげよう

今後、住宅において縁側はどのように再生していけるでしょうか。

日本の伝統的空間である縁側だからといって、和室に付く空間と考える必要はありません。縁側の〝外へと誘う〟という機能的な良さを見直すことを念頭に、リビングや子ども部屋などみんなが集まるところに、裸足のままで出られるウッドデッキとして計画すればよいのではないでしょうか。もし庭が狭いとか魅力的な外部空間がないという場合には、坪庭のようにするとか、庭というよりも空に向かってつなげるという感覚を持つのもいいかもしれません。

【参考文献】
1) 高木真人・仙田 満、「古典文学にみられる廊的空間に関する研究 廊・渡殿・縁における行為を中心として」、日本建築学会計画系論文集、第514 号、pp.263-268、1998
2) 高木真人・小川一人・仙田 満、「昭和期住宅の廊的空間における機能に関する研究 縁側・廊下におけるこどものあそび行為の変遷を中心として」、日本建築学会計画系論文集、第507 号、pp.95-101、1998
3) 高木真人・永田恵子、「内あそび時の保育園での縁側空間における行動特性 こどもの外遊びを活性化させる空間としての縁側の可能性 その3」、日本建築学会大会学術講演梗概集E、pp.301-303、2013

高木真人(たかぎ まさと)
京都工芸繊維大学建築学部門准教授。
工学博士。廊的空間、縁側などの研究、子どもの遊び環境に関する研究が専門。

チルチンびと 80号掲載

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