人が集まる小さなウッドデッキ
人が集まる
小さなウッドデッキ
小さくても集まりに活躍するデッキ。
ただ、人が集まって居心地よい場所にするには仕掛けとルールが必要です。
デッキづくりに定評のある建築家・加藤武志さんに最新ノウハウを聞きました。
監修=加藤武志 イラスト=鈴木 聡(TRON/OFFice)
小さいデッキの良さは?
庭に続くデッキ【1階リビングの場合】
空に続くデッキ【2階リビングの場合】
長持ちさせるには?
小は大を兼ねる
憧れのウッドデッキ。でも、「我が家は狭いから……」と諦めていませんか? 広々としたデッキも魅力的ですが、実は小さなデッキのほうが、人が集まる時に活躍するのです。約30年間デッキのある家を設計してきた加藤さんも、経験から広いデッキは意外と人が集まらなかったとのこと。またメンテナンスも大がかりになり、劣化が進み、さらに使いづらくなる悪循環に陥ることも。かえってこぢんまりとして、ベンチやパーゴラで“外のリビング”のような仕掛けをしたデッキのほうが居心地もよく、メンテナンスも楽になります。
拠り所になる
居場所のデザイン
さて、集まって立ちっぱなしではつらいので、デッキでも家具が必要になります。方法は組み立て式か、造り付けの二つ。
組み立て式やその都度家具を運び入れるのであれば、雨ざらしにならない分、家具が長持ちするメリットが。ただ、重さ・収納場所・出し入れのしにくさがネックになるでしょう。
一方、造作して据え置くと、出し入れする手間が省ける良さがあります。雨ざらしになり家具は傷みやすくなりますが、それはつくり方で解決できます。ベンチを置く場合、座って家や庭がきれいに見える場所だと眺める楽しさが生まれるので、周辺の環境にあわせて検討することが大事です。パーゴラで囲うのも一つの手で、外でありながら部屋のようになり、違った楽しみ方ができます。人を誘い、拠り所となる仕掛けがあってこそ、外に出ていきたくなるのです。
自然素材で
足触りのよいデッキを
集いの時、自然と室内から外に出て、もう一つの輪ができる―。デッキを外のリビングとして使うには足触りの良さは必須。素足で出て、足触りを楽しめるデッキであれば、室内の延長のような感覚でふだんから重宝することでしょう。そして体に安心な素材となると、室内同様に国産の無垢材で揃えたいところです。
熱帯雨林に分布する広葉樹は単位体積あたりの密度が高く、硬くて丈夫ですが、それに比べると、国産の針葉樹は水に弱いというデメリットが。今回はその克服方法も紹介します。
省メンテナンスで
長持ちさせる秘訣
ウッドデッキを使う上で特に気になるのは、メンテナンス。1年〜数年に一度メンテナンスをするとしても、苔など汚れを落とし、やすりを全体にかけ、塗り直していくのはかなりの重労働。傷んでいる材があれば取り換える必要が出てくるかもしれません。
コンパクトなデッキでできるだけその負担を減らしつつ、傷みを極力減らすには、つくりをできるだけシンプルにすることと、水がたまらないための工夫が鍵になります。そして「いつかは朽ちるもの」として、不具合があった場所は取り換えやすいつくりにしましょう。
リビングの延長として、また庭との距離を近づけてくれる1階のデッキ。
木漏れ日をつくる植栽計画や、眺めのよい場所のベンチが大切。
地面からの湿気を防ぐなど、1階ならではの注意点も図で紹介します。
イラスト=石井まゆみ
デッキ材の樹種の決め手は足触り
裸足で出たくなるデッキにするには、
国産のやわらかい木を選ぼう
加藤さん曰く、樹種の決め手は硬さ・やわらかさ。なぜなら、硬いと足の裏が落ち着かず、長居しづらくなってしまうからです。国産で比較的手に入りやすい針葉樹を紹介します。
主な樹種の気乾密度
気乾密度:大気中の湿度と平衡状態になった時の木材の密度のこと。含水率は15% 程度。気乾密度が高いほど木材は硬くなる。
小さな庭にこそ
デッキを
庭のスペースが限られている場合、あえてデッキを広げてしまうのも手です。樹木でデッキを囲うように配置すれば、外に出ていきやすくなるとともに、室内にも広がりが生まれます。
木陰をつくろう
1階のデッキは木陰をつくり、直射日光が当たらないようにするのも居心地をよくするポイント。常緑樹:落葉樹=1:2の割合だと、冬は日向ぼっこができ、夏は日よけになります。
また、レモンやベリー類など実のなる樹があれば、デッキから収穫ができる位置に植えてみましょう。外の楽しみが手に届く距離になります。実があると鳥や虫が集まり、巣箱を置くとさらに楽しみが増えることでしょう。
ただ、「植物を近くに置きたい」とデッキの中心に木を植えるのは、要注意。雨で濡れた落ち葉で乾きにくい部分が増え、そこから傷みが進むので避けたほうがよいでしょう。
2階リビングの場合も、部屋の延長でもあり庭にもなるデッキを。
建て方は外の柱で支える「柱建て」と屋根の上に載せる「屋根置き」とがあります。
イラスト=石井まゆみ
屋根置きデッキ
防水上は柱建てがよいものの、プランによっては屋根に置く形でデッキを設ける場合もあります。この時大事なのは、載せる屋根の勾配をできるだけ緩くすること。そうしないと室内との段差が大きくなってしまいます。
パーゴラで
ほどよい籠り感を
2階デッキの場合はなかなか大きな樹を植えづらいので、ほどよく日差しを遮るパーゴラがおすすめ。外部なのに部屋のような感覚をもたらします。また、プランターやランプなど、小物をしつらえるのにも役立つので、使い方の幅が広がります。
2階でも緑を
楽しむコツ
植木鉢を置く場合、注意しないと鉢の下に水が溜まり、そこから傷みが始まります。加藤さんの場合、樹木用のステンレス製の箱を掘り込んでつくっています。地面に排水できるよう、あらかじめドレーンをつくっておきましょう。植える木は落葉樹だと一気に葉が落ちて掃除が大変なので、常緑樹がベターです。
施工の極意
木裏と木表、どちらを上にするか?
木材は必ず反るもの。年輪の中心側を「木裏」、外側のことを「木表」と呼び、木裏側に膨らむように歪みが生じます。どちらに揃えるかは一長一短で、木裏使いであれば水はけはよいものの、ぼこぼことするので足触りはいまいち。木表使いだと水はけが悪くなるが歩きやすい、という違いがあります。加藤さんとしては木表がおすすめですが、厳密に気にしなくてもよいそうです。(イラスト=加藤武志)
目透かしはどれくらい開ける?
デッキ材同士の隙間のことを「 目透かし」 と呼びます。加藤さんの場合は9 ~12㎜を基準に設計しています。水はけと風通しをよくするには広めのほうがよいものの、12㎜あると子どもが指を挟んだり、物を落とすことがあるので、9㎜程度がおすすめです。(写真=西川公朗)
釘やネジ頭は神経質にならずに
ビスを留める時に加藤さんが気をつけているのは、ネジ頭が板表面と水平になること。インパクトドライバーで勢いよく固定してしまうと、ネジ頭に水が溜まる原因に。そこから傷みが始まる恐れがあるので、最後は手作業で仕上げるそうです。傷んだ時に取り外しがしやすいよう、あまり複雑な技術は使わず、一般の人でも手を入れられる簡単なつくりが望ましいとのこと。(写真=西川公朗)
材を張る方向を、室内と揃える
室内とデッキで、可能であれば材を張る方向を揃えましょう。一体的になり、室内に
奥行き感が生まれ、実際より広がりのある印象になります。ただ、張り方が構造的な強度に影響することもあるので、その場合は印象よりも強度を優先させましょう。(イラスト=加藤武志)
協力=本橋健司(芝浦工業大学建築工学科教授)
木はなぜ腐る?
木材の細胞をつくっている主成分はセルロース、ヘミセルロース、リグニンという化学成分です(図1)。三つの成分の合計は樹種にかかわらず全体の90%を占めます。
木の年輪を見ると、中心部が赤く、樹皮側は白くなっていることがわかります。赤い中心部を「心材」、その外側を「辺材」と呼びます。辺材部分は細胞が生きていますが、心材部分は死んだ細胞で、人間でいう髪や爪のような部分。色が濃いのはリグニンを多く含むためであり、心材のほうが耐久性が高く、辺材はデッキ材に適しません。
腐るメカニズム
木が「腐る」というのは木材腐朽菌が繁殖すること。木材腐朽菌とはキノコのことで、ふだん私たちが食べているシイタケなども含みます。木材腐朽菌には、セルロースを分解し木材を褐色に変色させる「褐色腐朽菌」と、リグニンを分解し木材を白く変色させる「白色腐朽菌」があります。キノコは胞子を出し、その胞子は空気中を漂います。その胞子が木部に定着し菌糸を伸ばすとそこから腐朽していくのです(図2)。
腐るために必要な条件は、栄養、胞子、水、酸素、温度。栄養はこの場合は木材のことで、木材腐朽
菌は温度が20~30℃のやや暖かい環境を好みます。
木材に被膜をつくる塗料を施工し、水を完全に防ぐ方法もありますが、これらの塗料は概して自然素材ではない上、ひび割れから水が浸入することもありえます。水分が留まり内部で腐るリスクを考えると、水が出入りできる浸透性のある塗料のほうがおすすめです。
日々のメンテナンス
雨が降った後がメンテナンスのチャンス。晴れの日よりも表面全体がやわらかくなり、汚れを落としやすくなります。表面に緑色の苔があると傷んでくるので落とします。デッキブラシを用意し、ゴシゴシ磨いて落としましょう。
腐らないデッキはこう建てる
木が腐りやすい場所
❶水分を吸収しやすく、腐りに弱い木口
❷水分が浸入したら抜けずに乾かない木の接触部分
❸地面からの防湿とデッキの通気が悪い箇所
加藤さんが、これまでつくってきたデッキの経年変化を見て、改良した最新の施工方法が右図です。大事なのは、木が腐りやすい場所をふまえて、【水はけをよくする・水を溜めない・部材同士が接しない】構法を徹底するという結論に至ったそうです。
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