キッチンは女の書斎

キッチンは女の書斎

キッチンは女の書斎

新築でも改修でも、理想のキッチンを考えるのは楽しいもの。
使って楽しく、そして便利なキッチンのABCを、
山形・米沢でさまざまなオリジナルキッチンの設計を手がけてきた
佐藤敬介さんに教わりました。

監修=佐藤敬介 写真=五十嵐秀幸

よいキッチンって、何だろう?

これまでいろいろなタイプのキッチンをつくって感じることは、よいキッチンは決して使い勝手の良し悪しだけで決まるのではない、ということです。最近ハウスメーカーも自由設計を謳っていますが、きめ細かい個別設計だからよいというわけでもありません。だからあまり料理が好きでない人だったら、キッチンにお金をかけなくていいというのも、一つの考え方かもしれません。

大切なのは使う人が楽しく居られるか、幸せな時間が過ごせる空間であるかということ。料理に限らず、ちょっとお酒を注ぎながら家族の気配が感じられるとか、何げない幸せを生む場所でありたい。むやみにお金をかければよいというわけでもありません。もちろんはっきりした目的があれば、予算をけちっていてはよいキッチンはできません。惜しんだその10万円で劇的に変わることもあるのです。いずれにせよ、台所に求める目的、もっている道具、ライフスタイルなどにぴったり合ってこそ、よいキッチンは生まれるのです。

台所道具は、書斎における
万年筆のようなもの。愛着があり、
手になじんだものを使うところから、
キッチンを発想する。

過剰に道具となった
システムキッチン

現在、キッチンの大部分はハウスメーカーと設備機器会社によって世に出されているのが実状です。本来キッチンは生活をサポートすべきもの。しかし、メーカーのつくるいわゆるシステムキッチンは、平均化した大多数の声に基づいて、つくる側の論理や見栄えが優先されてきました。

キッチンそのものが過剰に道具となってしまっています。本来キッチンは、押し付けられたルールに縛られず自分の好きな調理道具を使って料理をする、そんな楽しさがある「場所」のはず。調理道具だってキッチンを考える上で大切な要素です。鍋一つとってもホウロウとフッ素加工、アルミでは風味まで違ってくることもあるし、好きな道具を自由に使えなければキッチンに立つこと自体、つまらなくなってしまいませんか?

私はそんな楽しみのあるキッチンを「女の書斎」のようなものと考えています。楽しみの詰まった自分だけの書斎、キッチンはそんな空間であってほしい。もちろんキッチンは女性限定のものではありません。要はキッチンを書斎のような愛着ある親密な場所に見立ててつくる、そんなことを大事にしています。

台所道具もキッチンの設計の上で大切な要素。お気に入りの道具を賢く使いたい。
台所道具もキッチンの設計の上で大切な要素。お気に入りの道具を賢く使いたい。

キッチンは作業だけの場所ではない。
書斎で豊かな時間を過ごす如く、
楽しんでキッチンに立っていたい。

ダイニング・キッチンから
オープンキッチンへ

私が最近提唱しているのが、オープンキッチン。それは対面キッチンの上部が開けているとか、オープンな空間にあるというものではありません。キッチンの一部に食卓を置いて食べる、というダイニング・キッチンではなく、部屋の大きなスペースの一部をキッチンにしてそこで料理をする。キッチンで食事をするのと、スペースの中で料理をする、という主従の逆転の違いがあるのです。

そんなキッチンづくりのパートナーとなる建築家・工務店・デザイナーには、臆せず要望を出しましょう。ただ必ず何をしたいか交通整理する。うまく伝えられなければ自己流でも絵に描いてみては。100人いれば、100通りのキッチンがあるのです。

楽しいキッチンづくりの9箇条

【1】キッチンの目利きになろう

実際に細部の寸法を決めるのは、建築家や工務店かもしれませんが、大切なのは自分がどんなキッチンを欲しいかです。そのためには、キッチンの目利きになりましょう。ショールームを回るより、まずは自分が使う台所道具、用具、収納、ゴミなど諸々の現況を調査・整理してみるのが第一歩です。

【2】欲しいのはどんなキッチン?

棚の上に置かれて使いにくい電子レンジ、洗濯後にふきんをキッチンで乾かしている、掃除が行き届かないレンジフード、流しの前や隅にごちゃごちゃ置かれている鍋や雑多なもの……こんなことがよくあります。欲しいのは、ゼロから始める新しいキッチンなのか、現状の反省点を踏まえたものなのかを、まず見極めましょう。

【3】台所で過ごす時間はどれくらい?

一般的には朝から晩まで計2時間程度でしょうか。では、1日2時間しかいない場所にどれほどのお金をかけるのか。「20分で晩ごはん」をテーマにした料理もあるように、短時間なら簡易なキッチンですます考えがあってもいいでしょう。大きな魚を捌いたり、パンや蕎麦など粉ものを調理する時は、もっと長い時間を過ごすことになります。

【4】何をどう調理してどう食べるか

食材はどのような状態でキッチンへ運び込まれるか—。あらかじめ加工された食品か、加工前のものか。さらにキッチンで加工して保存・貯蔵するかどうか。その場所をどう確保するかを考えます。

【5】誰が使うか

キッチンを使うのは、男性か、女性か、大人か。単身者か既婚者か、高齢者か、車椅子を使っているか。子どもも必ずキッチンを使います。背伸びをして蛇口をひねり水を飲んだり、冷蔵庫を開けたり……。一般的にはキッチンの打ち合わせは、その家の奥さんとだけで行われがちですが、家族皆で話をするのが大切です。

【6】台所道具を整理しよう

楽しいキッチンの秘訣は自分の好きな台所道具を使うこと。なので、自分のもっている台所道具を機能別に整理することが大事。キッチンのデザインを先に決め道具を押し込めていくのではなく、道具からキッチンを発想します。

台所道具を整理しよう

【7】吸排気、防火と安全

効率的な吸排気はキッチンの天井や壁の汚れ防止に大切です。換気扇の選び方や取り付け位置などは、工務店やデザイナー、建築家などのプロの手を上手に借りましょう。また火を使う以上、法律面から仕上げや素材は影響を受けます。ちなみにガスコンロとIHヒーターでは防火のための内装などの規制が異なる場合もあります。

吸排気、防火と安全

【8】収納は柔軟に

見せるもの見せないもの、物の居場所のルールづくりができる収納を。ラップ類など悪目立ちするので隠したいけれどもよく使うもの、見せたいけれどもあまり使わないものなど、物の性格を整理します。またキッチンだけで収納を完結させると、柔軟性に欠ける上、コストもかかります。パントリーを設けるのも一案。工夫次第でローコスト・省スペースでつくれます。

【9】ゴミ処理

これが理想、絶対という形はありません。自治体はもちろん、その人の性格や習慣によって千差万別です。ダストボックスまで欲しいという人もいれば、スーパーのレジ袋で十分という人も。自分の流儀や習慣にあわせて、合理的な方法でゴミの処理を計画することが必要です。

チルチンびと 83号掲載

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