街中の薪ストーブQ&A

街中の薪ストーブ

街中の薪ストーブQ&A

都市部の住宅地での煙やにおい。近隣の目もさることながら火事も不安。
けれども正しい使い方や工夫で、街中で快適に使っているユーザーが多いのも事実。
よく耳にする心配ごとの解決法を薪ストーブ取り扱い店、工務店34社と設計者13人に聞きました。

Q 近所のクレームを避けるには?
A 薪ストーブの適切な使用、そして日頃の人間関係が大事。

薪ストーブを入れたいけれど、煙やにおいでご近所に迷惑をかけたりクレームが心配……、と躊躇される方も多いことでしょう。

ただ適切な使い方に加え、街中ならではのさまざまな工夫をすることでトラブルは回避できます。今回小誌で行ったアンケートで回答者が口を揃えるのは、日頃から近隣とのコミュニケーションがしっかりとれていればトラブルは起こらないということ。薪ストーブに火を入れるのはご近所が洗濯物をしまう夕方からに心がけるというケースも。

逆にいくら正しく使っていても、人間関係が原因でトラブルを呼び寄せてしまうとの声もありました。薪ストーブ導入の際には近隣にきちんと安全性について説明することも大事です。

Q 近所ににおいや煤を出さないためには?
A 薪を完全燃焼させることが大切です。

住宅地における薪ストーブ導入のいちばんのネックは、近隣トラブルを招く煙やにおい。都市部への納入も多いファイヤーワールドの富井忠則さんに話をうかがうと「適切な薪、性能が保証された薪ストーブと煙突を使うことが大事」とのこと。

薪が燃える時に出る煙とは、何でしょう。そもそも薪の成分はほとんどが炭素と酸素。炭素成分が十分燃焼した場合は二酸化炭素に、不完全燃焼の場合は一酸化炭素になって放出されます。その一酸化炭素や二酸化炭素と、元の成分にある酸素、そして煤が煙を構成する物質です。煤とは薪の成分が完全に燃えきらずに残ったもので、その煤が汚れやにおいの原因となるのです。

つまり薪は完全燃焼させることが大切で、そのためにはよく乾燥させたものを燃やすことが大前提。理想的にはふた夏置くとよいと言われます。保存の際にも、雨や露が直接かからないように。均一なサイズにすると、燃焼効率がよくなります。

薪ストーブは、薪が燃えて発生するガスなどをもう一度燃焼させる、クリーンバーン式など2次燃焼以上のシステムを備えたタイプを選ぶとよいでしょう。

煙突も薪の燃焼効率に大きな影響をもたらします。煙突は適切な長さにすることで空気の圧力差により排煙量が多くなり、薪ストーブの吸気口から新鮮な空気がたくさん取り込まれます。煙突は極力曲げずに屋根の棟よりトップを高く出すことが基本。また鋼板1枚ではなく、断熱材入りの二重煙突にすると良好な上昇気流が得られます。煙突内部が外気温度に影響を受けずに暖かさが保たれるからです。

ちなみにアンケートでは近隣の窓や洗濯干し場の位置を確認し、煙がその方向に流れない煙突位置にすることでクレームを回避できるとの声もありました。

Q 街中だと特に火事が心配。
A 定期的な煙突掃除で予防。

薪ストーブが原因の火事に、煙道火災があります。煙道火災は、薪を燃やした煙に含まれるクレオソートという物質が冷えて結露するとタールに変化し、煙突の内部に付着、これに引火するのが原因です。

つまり、きちんと煙突掃除を行っていれば煙道火災は防ぐことができます。掃除の頻度は薪ストーブの種類や使用状況でも異なります。通常では1シーズンに1回の掃除で十分ですが、使用状況によってはもっと頻繁に行ったほうがよい場合も。また最低でも3~4年に一度は専門の業者によるメンテナンスも必要です。煙突掃除の頻度については、薪ストーブ専門店に相談し正しく行いましょう。ちなみに前出の断熱材入り二重煙突にすると煙突掃除の回数を減らすことができます。タールが発生する結露の条件は煙突内部の温度が149℃以下になる時。断熱材入り二重煙突は内部の熱を外に逃がしにくいためこれを防ぎます。

Q 地震の時、火の始末は大丈夫?
A ちょっとやそっとの地震じゃ倒れません。

薪ストーブの内部で薪が燃え盛っている時に地震がきたらどうしようー、また夜間の地震が心配で、熾火にせずに火を消して寝る、という話をよく聞きます。

薪ストーブは重心が低く、たいへん重量のあるものです。ものによっては300キロ近くにもなるほど。箪笥のように容易にはひっくり返らないので、家屋も倒壊するほどの大地震でなければ薪ストーブが倒れることはありません。

また強度のある断熱材入り二重煙突にすれば、それがひっかかりとなり、薪ストーブの倒壊を防ぐのに一役買います。

Q 狭い敷地で薪はどこに保管すればいい?
A 風通しと日当たりのよい場所が理想的。

薪ストーブを導入するうえで、薪をストックする専用スペースの確保は欠かせません。ただ郊外のゆったりした土地ならまだしも、街中ではそのスペースの確保も頭が痛いところ。

まず理想は、薪の運搬ができるだけ楽で、風通しと日当たりのよい場所。購入場所から薪置き場まで、さらにそこからストーブまでの薪の搬入経路を考えましょう。

また、地面からできるだけ離して薪が湿気を帯びないように、さらに雨ざらしにならないよう屋根や庇のあるところに。軒下空間を薪置き場として利用してもよいでしょう。

専用の薪棚をつくる場合は、側面は風を通すつくりとします。敷地に余裕がない場合は、薪棚と塀を兼用するという設計者も。ただ、薪の状態や品質によっては虫やシロアリが発生する可能性があるため、状態のよい薪を使いましょう。

薪置き場のスペースは、1シーズン(ひと冬)分がストックできる広さがほしいもの。薪は乾燥に最低でも1シーズンはかかるからです。自分で薪割りをする場合にはさらにスペースに余裕をみておきましょう。

薪はよく乾燥するように保管する。薪
と薪の間に隙間を開けて空気が触れる
ようにすると乾燥しやすい。
薪はよく乾燥するように保管する。薪と薪の間に隙間を開けて空気が触れるようにすると乾燥しやすい。

Q 薪ストーブを2階に置いてもいい?
A 薪を運び上げる手段やストーブの重量を床の積載荷重として初めから計画しておくことです。

暖まった空気は上方に向かうという基本的な性質からいえば、薪ストーブ1台で家中を暖めるならやはり1階がベスト。また薪の持ち運びや、煙突長さを確保しやすいことからも、やっぱり1階に置くことがおすすめです。

ただ街中では、見晴らしや日当たりの良さから、2階にリビングを設ける家が多く、薪ストーブも2階に設置されるケースが増えてきました。

この時注意したいのが、薪ストーブの重量。前出のように薪ストーブは重いものだと300キロ近くになるので、重量に耐えられるよう床の構造を考えておく必要があります。また、ストーブの搬入経路も事前に計画しましょう。

もう一つ見落としがちなのが、薪の扱い。重い薪を薪置き場から毎日2階まで運ぶのは大変です。ベランダなどに専用のスペースや薪棚を設け、数日分をストックできるようにすると、寒い朝や雨天の際に屋外の薪置き場まで取りに行かずに済み、使い勝手がよいでしょう。さらに室内には常に2日分を保管しておくと便利です。

2階のバルコニーに隣り合うリビングに置かれた薪ストーブ。(増岡/陳邸 設計・増岡設計室)
2階のバルコニーに隣り合うリビングに置かれた薪ストーブ。(増岡/陳邸 設計・増岡設計室)
2階の畳敷きリビングに置かれた薪ストーブ。遮熱板が階段の構造材を兼ねている。(U邸 設計・松本直子建築設計事務所)
2階の畳敷きリビングに置かれた薪ストーブ。遮熱板が階段の構造材を兼ねている。(U邸 設計・松本直子建築設計事務所)

2階デッキまで電動ホイストを使い薪を吊り上げる。デッキには薪棚がありすぐに積むことが。薪ストーブはデッキに隣り合うリビングに置かれているので室内への持ち運びも楽。住宅街なので煙突は高めの5m。(I邸 設計・加藤武志建築設計室)

増岡/陳邸写真・川辺明伸 U 邸写真 2 点・輿水 進 I 邸写真 2 点・西川公朗 I 邸図・加藤武志建築設計室

Q 街中だと法律の制限がありますか?
A 街中に限らずインテリアの内装制限がかかります。

消防法や建築基準法……。街や住戸には、火事を防ぐためのさまざまな法律があります。建築の防火に詳しい建築家の安井昇さんに住宅にかかわる法律についてお聞きしました。

薪ストーブの設置自体に法律の制限はありませんが、建築基準法という建築の設備や構造などの基準を定めた法律により、街中・郊外問わず、火元がある場所には内装制限がかかります。ガスコンロのあるキッチンや、薪ストーブの置かれた部屋も火元のある場所(火気使用室)となります。

室内で火災が起きた際、熱は天井に溜まります(冷たい空気を巻き込みながら、上昇気流が起こるため、逆に床は冷やされます)。もしも天井や壁が熱に弱い素材だと着火し、一気に燃え広がります。内装制限はそれを防ぐための法律です。

以前は部屋ごと〝準不燃材料〟(石膏ボード、木毛セメント板など)とする必要がありましたが、平成
21年の告示で追加されました。火元周辺の壁・天井を〝特定不燃材料〟(モルタルや漆喰など)とすればその他の壁・天井を〝木材等〟にできるようになったのです。〝特定不燃材料〟にする必要のある火元周辺の面積は算定式で求めます。

さらにこの火元周辺に〝特定不燃材料〟の遮熱板を取り付ければ、〝特定不燃材料〟としなくてはいけない範囲を小さくできます。加えて遮熱板の裏や天井を〝木材等〟とすることもできます。この遮熱板の大きさも算定式で求めます。これらの規制は住宅の場合、平屋建てと2階建て以上の最上階にはかかりません。

一方床は、熱されにくく、燃えにくいことから、素材についての規制はありません。だからといってどんな内装でもいいというわけではなく、もちろん火事の危険性があることを忘れないようにしましょう。

薪ストーブ直下の床にはレンガや鋼板などの不燃材料のストーブ台を設置するのが一般的です。木材など焦げができる床材の場合は、火の粉が落ちるのを防ぐため防炎用のマットを敷くとよいでしょう。石やタイルなど汚れを取りやすい床材にすると、掃除も楽になります。

一戸建て住宅の内装制限の概念

一戸建て住宅の内装制限の概念

ストーブ等の可燃物燃焼部分

ストーブ等の可燃物燃焼部分

図提供・安井 昇

薪ストーブの背後に遮熱板が設置された例(左写真・川辺明伸)と設置されていない例(右写真・西川公朗)。右写真のように最上階であれば薪ストーブ周辺の壁・天井の素材に規制はない。もちろん安全のため、置く場所や周辺の素材に配慮は必要。

薪ストーブ周辺の素材

ストーブ台や遮熱板をレンガや石など蓄熱効果の高い素材にすると暖房効果も高まる。

作図・鈴木 聡(TRON/OFFice)

内装制限にかかわる素材の例

不燃材料コンクリート、レンガ、瓦、陶磁器質タイル、繊維強化セメント板、ガラス繊維混入セメント板(厚 3㎜以上)、繊維混入ケイ酸カルシウム板(厚 5㎜以上)、鉄鋼、アルミニウム、金属板、 ガラス、モルタル、漆喰、石、石膏ボード(厚 12㎜以上。ボード用原紙が厚 0.6㎜以下のものに限る)、ロックウール、グラスウール
準不燃材料木毛セメント板、石膏ボード
特定不燃材料不燃材料のうち、アルミニウムとガラスを除いたもの
木材等木材(無垢材)、合板、構造用パネル、パーティクルボード、繊維板

天井材を不燃材料と可燃材料にした場合の燃え方の違い
(早稲田大学らの火災実験による)

天井材を不燃材料と可燃材料にした場合の燃え方の違い

写真・早稲田大学

【協力者一覧】
【工務店】㈱アーキネット、㈱安土建築工房、㈱アネシス ホームパーティ事業部、阿部建設㈱、家造、㈱加藤組、無垢杢工房㈱イケダ、㈱エコ建築考房、㈱オオガネホーム、㈱加賀妻工務店、㈲金子典生工房、㈱木楽工房/久慈棟梁会、くくのち㈱井上工務店 京都支店、㈱彩工房、木ごころ ㈱坂田工務店、㈱ダイコク、㈱西渕工務店、㈲響屋、ARCHITECT OFFICE ㈲ヒロ設計室、㈱堀井工務店、松浪建設㈱、㈱未来工房、住工房 森の音 ㈲美建工業、㈱山口工務店、ヤマニ建設㈱、㈲倭人の家建築
【建築家】泉 幸甫、伊藤誠康、大野正博、加藤武志、神家昭雄、川島千晶、古泉 丞、独楽蔵/長崎昭人、増岡 徹+陳 雅琳、松本直子、水澤 悟、安井 昇
【ストーブ取扱店】AMA 工房㈲ アマ、グランビル九州、㈲太陽ホーム ノーム事業部、ダッチウエストジャパン㈱、㈲日本煖炉、ファイヤーライフ京都、ファイヤーワールド㈱永和、㈱メトス、夢木香㈱

チルチンびと 82号掲載

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