木育ってなあに?

木育ってなあに?

木育ってなあに?

感性豊かな大人へと成長してほしい……
だから今、子どもたちのために
親が知るべきこと

文=田口浩継(熊本大学)

木に親しみ、
木のよさ森の
大切さを知ること

木育とは

木育は、平成16年度に北海道で生まれた言葉です。その理念は、「子どもをはじめとするすべての人が木を身近に使っていくことを通じて、人と木や森とのかかわりを主体的に考えられる豊かな心を育むこと」とし、木育を通して心や人間を育てるとしています。平成19年度には、林野庁の「木づかい運動」の中に木育が加えられ、木材利用に関する教育活動としています。

木育のすすめ

木育の活動として、木や森について知る、木や森に触れる、木などを素材にしたものづくりなどがあります。それらの活動から、木に親しみ、木のよさ、森の大切さを伝えます。現代は、テレビやインターネット、スマートフォンが普及し、子どもたちは時間を持て余すことはありませんが、その反面、自然に対する直接的な体験活動(原体験)が減少しています。子どもが五感を通したさまざまな体験をすることは、判断力や表現力、感性を養うことに繋がります。豊かな原体験は、自己の形成や将来への学習の基盤となり、子どもたちの生きる力を育むといわれています。

木育の原体験として、木のおもちゃで遊ぶ、木のにおいを嗅ぐ、木登りをする、落ち葉や枝で遊ぶ、ものづくりをするなどたくさんあります。乳幼児期のガラガラ、積み木や木琴、木の車などで遊ぶことから始まり、本格的な積み木やはめこみブロック、ままごと道具での遊びで、子どもたちの手先の発達や形の認識、集中力・記憶力・創造力・忍耐力等の発達に至ります。さらに、小学校ではカッターやのこぎりを使った木工でも多様な能力を育成できます。

木育と国産材の利用拡大

国産材の利用推進のためには、四つの要素(カネ・モノ・ヒト・クラシ)があります。よいモノ(木材の品質、木材の付加価値)をつくり、それを安く提供すること(木材の生産・加工・流通コストの削減)で、購入者は増えると考えられます。しかし、住居環境の変化、生活様式・構造の変化、木材に代わるプラスチックや金属製品などの代替物の出現などにより、木や森林と人間との関係が遠のいてしまいました。そのため、木材のよさや価値を知らないヒトが増え、その品質・価値であれば提示された価格は適正と理解できるのですが、それが難しい状況になってきています。また、国産材を利用すること(木造の住宅や家具を購入すること)で、私たちの身近なクラシがどのように変化し、地域がどう変化するかにるのが木育といえます。木や森に関する原体験の中からこれらの視点は獲得され、国産材の利用拡大にも繋がります。

田口先生が行っている
「ものづくりフェア」で
製作する教材の例いろいろ。
田口先生が行っている
「ものづくりフェア」で
製作する教材の例いろいろ。

田口先生が行っている「ものづくりフェア」で製作する教材の例いろいろ。

木育の実践

全国各地に木のおもちゃで遊んだり、ものづくりができたり、森を散策できる施設もできてきました。熊本県では、無料でものづくりが楽しめるものづくりフェアを毎年5地域で実施しています。また、木造住宅にこだわるハウスメーカーと協同で木育体験も提供しています。この木育体験では、最初に木の魅力・木の不思議について説明します(※詳しくは令和3年度木づかいセミナー・木育授業編 をご覧ください。)。また、木製・金属製・プラスチック製のスプーンを、目を閉じて触って当てていただく体験をしてもらいます。触って温かいのが木製、冷たいのが金属製ですが、触る前にその表面温度を測るとすべて同じ温度(室温)なのに、なぜ、その違いがでるかというと、熱の伝導率の違いによります。伝導率の低い木材は、保温効果もあります。次に、三つのスプーンに息を吹きかけると木製はサラサラですが、他の二つは曇り、触るとベタベタします。木には調湿効果があることが実感できます。これらの性質は、木造住宅の優れた性質となります。その後、木を素材にしたものづくり体験を行います。木を切ったり削ったり、組み立てたり、磨いたりするなかで、自然と木のよさ(木の香り、ぬくもり、肌触りのよさ)を実感することができます。既に木の住宅を建てられた方は「建ててよかった」、現在検討されている方は「木にこだわってみたい」という思いに至った方も多く見られました。

ものづくりフェア

木育の役割

地球温暖化による異常気象が世界各地で見られます。温室効果ガスといわれる二酸化炭素の削減に多くの国が取り組んでいます。森林の面積を増やしたり、間伐などにより森林の機能を高めることで、二酸化炭素の吸収量を増やすことができます。また、一度伐採した木材には二酸化炭素が炭素という形で蓄積されています。木材を燃やしたり腐らせたりしない限り、この炭素は空気中にもどりません。木造住宅や木製の家具を購入したら、できるだけ長く木材という形で残す(使い続ける)ことが、地球温暖化防止のためには重要となります。

田口浩継 たぐち・ひろつぐ
熊本大学大学院教育学研究科教授。副学部長。
幼児から高齢者を対象に全国各地で木育の出前授業・講演会やものづくり活動の場を提供。木育推進員養成講座の講師も務め、木育の指導員を養成する。著書に『森林親和運動としての木育――ものづくりの復権と森林化社会の実現』(九州大学出版会)など。

田口浩継

チルチンびと 115号掲載

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