先人の知恵を守り継ぐ-森野旧薬園と大宇陀を訪ねて

薬園を守り伝えるために
植物を想い、心を通わす
「薬草好きになった原体験は、祖父の農業の手伝いでしょうなあ」。目を細めて懐かしそうに語る原野さん。子どもの頃、父の病気のため、吉野に暮らす母方の祖父宅に一時期過ごした頃、祖父の農林の仕事をいつも手伝い、薬草の使い方も祖父を見て覚えたという。「ゲンノショウコ、ドクダミ、カキドオシは、花の時期にとって乾燥させ、保存しておきました」。病弱だった原野さんは成人してからも、仕事の合間に薬草研究に励み、病を克服。さまざまな山に入っては薬草を採取してきたという。「車で山道を運転していても、薬草が目に飛び込んでくるんですわ。直感で見つけた薬草もあります」。寝ても覚めても薬草を想い、夢に薬草が出てくることもあった。

薬草の性質は多種多様で、人が栽培していいものもあれば、自生のままおいておくほうがいいものもある。山で自生する薬草の環境に近づけるため、適度な木陰を保ったり、外来種の草を抜いたりして、少しだけ手をかける。一方で、自生のままにしておくと株が絶えてしまうものは、数年おきに植え替える。極度に連作を嫌うものは、何年か先の植え替えのローテーションを考え、隣り合う薬草にも心をかける。土の準備は、最低1年前から。毎朝、一通り薬園をまわって必要な作業を確認し、帰りは、天気を見て翌日の作業を考える。雨の日は休むが、途中で晴れてきたら自宅で播種や苗の世話をする。万が一、園で種が途絶えたときのことを想定して、自宅でも種を保管しているのだ。一応文献も参考にするが、実際に成功するとは限らない。毎年が勝負だと原野さんは言う。「長らく継承されてきた薬草を自分の代で途絶えさすわけにはいきません。薬園の管理で大切なことは、行動力、体力、興味、記憶力……、それと植物と心を通わせることですかなあ。自分はまだまだ勉強中です」。



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