インテリアはメイクアップの如く立体感・色彩を

インテリアはメイクアップの如く 立体感・色彩を

インテリアはメイクアップの如く
立体感・色彩を

暮らしに安らぎをもたらしてくれる、アンティーク家具を
より魅力的に見せる、空間づくりについて解説。
その立役者となるのは、ドアや窓などの建具、
家具を演出する照明、そして金物などのディテールです。

談=塩見和彦

心をなごませる、古きものたち

このところ、アンティークに対する関心が高まっています。理由の一つに、古いものは、人の心に落ち着きをもたらすことが挙げられます。精神科医や小児科医から、診療所を古い家具や建具で揃えたいという依頼がありました。そのほうが、患者や子どもたちが緊張せず、リラックスできると言うのです。

もう一つは皆さんが、現在流通しているデザインに、魅力を感じなくなっているからではないでしょうか。作家が新奇性ばかりを狙い、自己主張が前面に出たデザイン。つくり手が利益だけのために製造コストを抑えた、大量生産のチープなデザイン。いずれも使う立場にある我々を置き去りにして、使い勝手を軽視している。そうしたものを使っていては、私たちが満足できないのも当然でしょう。

アンティークの良さは、時代を超えて生き残ってきた必然性にあります。長い間、捨てられず、使われ続けてきたのには理由があるのです。美しくバランスのとれた造形、使いやすいすぐれたデザイン、目的にあった贅沢な素材。そして何より一緒に暮らしていきたいと思わせる、魅力に溢れているのです。

つくる論理と、使い勝手

ただ、せっかく手に入れたアンティーク家具をいざ置いてみても、「何かが違う」という物足りなさを感じたことはありませんか? 取って付けたような違和感を感じる。使い勝手が悪い。それは、家具の器となるべき現代住宅が、つくり手の都合で形になっているからです。だからアンティークのような、使い手の都合を考えた製品をもってくると、辻褄があわない。

たとえば家具。数十年の時を経て艶を放っているのに、背景となるべき壁が、コストと手間を抑えたチープなクロスでは映えませんよね。シャンデリアのような大きな吊り下げ照明を付けたくても、天井の下地が薄い石膏ボードでは照明の重みに負けてしまう。建具も然り、アンティークのドアを取り付けようにも、大量生産のフラッシュ扉を付ける薄い壁では物理的に齟齬が生じる。確かにフラッシュ扉を薄い壁にフラットにつければ、工事は簡単だし室内の面積もかせげます。けれども、それに何の意味があるのでしょう。好きなものを美しく納めた空間のほうが、住んでいて快適なはずです。

何も僕は、アンティークの家具や建具のために家を建て直せ、と言っているわけではないのです。ただ、日本人が長きにわたって育んだ住生活は、西洋文化と折衷するうちに大きく変化しました。さらに住宅生産のシステムがつくり手の論理で動いている今、住まい手である皆さんが思い描くインテリアを実現しようとするためには、その勝手な論理を打ち砕くくらいの強い意志を持ってほしいと思うのです。

残念ながら多くの建築家はオリジナルデザインは追求したがっても、古い家具や建具、照明―とりわけ西洋のアンティーク―を生かす術を知ろうとしません。インテリアプランナーと呼ばれている人たちも然り。実際にデザインを形にする工務店も、リスクを恐れ、経験のないことはやりたがりません。デザイナー、そして工務店ができないのなら、誰がするか。

それは、あなた自身です。建築の専門知識に精通する必要はありません。アンティーク家具を置いた時、どんな違和感を感じているか、そのためにはどこをどうしたいかを、信頼できる工務店に伝えられればいいのです。そのためには日頃から目を養うことが肝要です。海外の写真集や洋画のインテリアを見たり、洋館をまわって気になった部分を写真に撮るのも手です。眺めているうちに、アンティークが映える仕掛けが見えてくるはずです。

ドア、窓、照明。
アンティーク家具を魅せる空間のディテール。
ささやかな工夫が積み重なり、インテリアが変わっていく。

化粧をするように
インテリアを考えよう

先に、アンティークの家具を入れた時の違和感について述べました。そのもう一つの大きな理由が、「家具に対して、空間に立体感がない」ことです。

72号では、家具に凹おう凸とつをつくるモールディングやコーニスの造形について述べました。凹凸があることで陰影ができ、奥行きを感じさせるということです。そうした家具に対し、背景となる壁がつるんと味気ないのは、建具と照明のデザインがおざなりだからです。

立体感を生む大事な要素が、窓・ドアなどの建具です。アンティークの場合、建具そのものが立体的です。モールディングが幾重にも施されているだけでなく、建具を取り付ける枠とは、日本だとフラットに揃えるところ、段差を設けて取り付けられています。

この違いは日本と西洋の美意識の差、そして家の成り立ちまで顧みなければなりません。絵画で言えば空間を平面に押し込めることで美を追求した日本、遠近法を使い奥行きと立体の表現に美を見出した西洋。直線的な針葉樹を卓越した技術で組み上げ、壁も薄く軽やかで線画を思わせる日本の家と、曲がりくねった広葉樹を短く継ぎ、石や漆喰で補強した壁の厚い西洋の家。

ドアや窓の存在だけで、壁にぐっと見違えるほどの立体感が生まれます。そして壁そのもののデザイン。同じく72号で、僕は「壁に絵を掛けるように、家具をレイアウトしてみてほしい」とも述べました。絵を掛けるには、額縁が必要です。それはすなわち、壁と天井が交差する部分に取り付ける、回り縁にほかなりません。

そして照明。家具を絵に見立てれば、より効果的に見えるよう、灯りが欲しくなるものです。灯りは、明るさの濃淡をつくり、空間に奥行きを与えます。

けれども、やはり素人には敷居が高い? 気後れすることは、ありません。これは結局のところ、女性の化粧と同じなのです。皆さんがファンデーションを塗り、頬紅や口紅を差しアイシャドウで彩り、時には鼻筋にさっとハイライトを入れる目的は、ひとえに自分を美しく見せるためでしょう。それはすなわち欠点を隠し、立体感を生むプロセスにほかなりません。小さい目を大きく見せるのも、大きな口を小さく見せるのも化粧次第。家具が大きすぎたと思えば、照明を低く、小さく絞ってみる。そうするとまわりが気にならなくなり、空間がぐっとよくなります。

目的は、古いものにこだわることではなく、あくまで心地よい暮らし、そしてものとのつきあい方。頭をやわらかくして、あなたならではのインテリアをつくりあげてみてください。

塩見和彦(しおみ・かずひこ)
1960年、東京都生まれ。東急ハンズを経て、1995年八王子に「西洋古道具ガスリーズ・ハウス」を開店。渡欧を重ね習得した、伝統的な家具修復手法で注目を浴びる。現在は、ディーラー、修復家として、また空間設計においてアンティークにかかわる。

チルチンびと 76号掲載

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