炎と音楽と1/fゆらぎ

炎と音楽と1/f ゆらぎ

内灘海岸で沈む夕日を見ている。太陽から水素の裸の原子H+(プロトン)が飛んできて、地球の磁場に捕えられて地上に落ちてくる。そのとき電磁波が出てくるのでそれを電波望遠鏡で捕捉し、可聴周波数に変換すると、小鳥が“ぴよぴよ” とさえずる音が聞こえる。波は “1/fゆらぎ”の法則にしたがって、大波・小波としてやってくる。私はその浜辺で妻と流木に腰掛けながら、赤い夕陽が “ジュッ” といって波間に沈んでいくのを耳を澄まして聴いている。

炎と音楽と1/fゆらぎ

沈む夕日、波の音、薪の炎――
私たちが心地よく感じる自然のゆらぎには、共通する法則があるという。
それが「1/fゆらぎ」。
風のそよぎ、小川のせせらぎ、炎の揺れ、
そして人の鼓動までもが、この規則の中に息づいている。
科学と感性のあいだを行き来しながら、
自然と調和する心地よさを追い求めた刈本博保氏が語る、
“1/fゆらぎ”がもたらす癒しの世界。

文=刈本博保(1/fゆらぎ研究会代表幹事)

〝1/fゆらぎ〟とは

 風や小川のせせらぎや潮騒や薪ストーブの炎を見ていると、なぜか心が穏やかになる。自然の風は風速の変化や物を揺らすことで、私たちは肌で感じたり見たりすることができる。一見すると無造作に吹いているように見える自然の風も、風速や風の音の変動の中にどのような周波数をもった成分が、どのくらいの割合で含まれているかを解析してみると、その奥に法則性があることがわかる。ゆったりした変動(周波数が小さい)は変動の幅が大きく、せわしい変動(周波数が大きい)は変動の幅が小さいというパターンの〝1/f(エフぶんのいち)ゆらぎ〟が存在している。すなわち〝1/fゆらぎ〟とは、パワースペクトルが周波数 f に反比例する揺らぎのことであるが、自然の中ではろうそくの炎の揺れ方、海岸に打ち寄せる波、小川のせせらぎの音、さらに人の心拍の間隔の中にも発見されている。

 松下電器産業在社時に、私たちは〝1/fゆらぎ〟の気泡を持つ〝あわ太郎〟という湯冷めがしにくい風呂を製作した。また冬の縁側で太陽が出ている時はぽかぽかと温かく、雲が覆うと涼しくなる日向ぼっこをするような〝こたつぼっこ〟という〝1/fゆらぎ〟のこたつも製作した。衛星放送で宣伝した時、最初に〝1/fゆらぎのこたつ〟の音楽が流された。

〝1/fゆらぎ〟の音

 私たちの研究会は絵画や風のパターンから抽出したデータに基づき、〝1/fゆらぎ〟の音楽「GAIA」「風
オアシス」というCDを製作した。1990年に大阪で開催された「花と緑の博覧会」では、「松下館」の中で〝1/fゆらぎ〟の音楽「GAIA」が流された。この音楽は自然の優しさを感じさせると同時に、何度聞いてもメロディが記憶に残らない不思議な音楽であるので、ホールのBGMや環境音楽として最適だといわれている。さらに、この音楽を聴きながら脳波を測定すると、リラックスする時によく見られるα波が発生することが観測された。

 また私たちは、〝1/fゆらぎ〟の音楽を35 KHz以上の高周波に変換して音楽を製作した。この音楽は耳には聞こえないが、この音楽が流されている部屋に入るとα波が発生することも確認された。私たちが聞いている通常のCDは20KHz以下の可聴周波数であるが、リラックスして聴いていただこうと、15
KHz ~20KHzのところに別の曲が挿入されている音楽も製作した。さらに、自然環境音(小川のせせらぎや海岸に打ち寄せる波の音など)を聴きながらクラシックのCDを聴くことができる、インテリアオーディオも製作した。

 〝1/fゆらぎ〟の音楽を聴きながら、妻がコーヒーをカップに注ぐ、ブラックのまま舌の上で転がし、苦みと香りに安らぎを感じる。少し砂糖を入れてスプーンでかき混ぜると、砂糖がコーヒーの中でランダムに混ざる。ここでエントロピーが増大している宇宙の話をする。さらに、ミルクをカップに注ぐ。薄いミルクの場合は台風の渦のように、濃い場合は渦巻銀河がカップの中に形成される。そしてカップの中の宇宙をゆっくり飲む。太陽の恵みがぎゅーと詰まった薪ストーブの暖炉の〝1/fゆらぎ〟の炎を見ながら、私も自然の一員として生かされていることに感謝する。

刈本博保 1/fゆらぎ研究会代表幹事
石川県金沢市出身。金沢大学大学院工学研究科修了後、松下電器産業㈱(現㈱パナソニック)入社。
1989年から技術本部本部室にて1/fゆらぎ研究・商品化推進に携わる。2002年、㈱こんてんつを設立し、代表取締役に就任。

チルチンびと 102号掲載

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