建築家と左官表現-その作例から学ぶ- 泉 幸甫

左官と木・石・鉄・紙が響き合う ─長野県・森の家─

建築家と左官表現-その作例から学ぶ- 泉 幸甫

左官と木・石・鉄・紙が響き合う
─長野県・森の家─

設計=泉 幸甫 写真=輿水 進

「和」と左官

日本のやまと、「大和」という言葉だが、たぶんこの言葉が生まれたきっかけは古代に群雄割拠し戦争ばかりしていた部族間で、大同団結し仲よくしましょうということから、だいわ、つまり大和という国をつくった。そして転じて、和風の「和」はいろんな素材を集めても全体として調和しているスタイル、という意味になった。……と思いたいのだが、おそらくこの説は違っているに違いない。

しかし、そう思いたいほど日本建築の「和」の持っている意味は、「全体を調和させる」という意味を持っているように思う。日本建築の素材である自然素材は木や、土、木、紙などを基本とするが、どんなものを持ってきても不思議とそれらの組み合わせは調和する。自然の素材はお互いに和する力を持っているようだ。

この住宅は一見して和風ではないが、使われている素材は土、石灰を中心とした左官仕事、杉にチークの木材、鉄平石の小端積み、大谷石、漆を塗った和紙、それに錆びた鉄と、多様な自然の素材が使われているにもかかわらず、全体としては難なく仲よく存在している。

それはそれぞれのテクスチャー自体が複雑性を共有することによるが、そのような中でも特に左官仕事は可塑性を持って全体をつなぐ役割をすることができる。

左官仕事は小沼充さんを中心に全国から優秀な職人さんが集まって塗ってくれたものである。
彼らの仕事ぶりをよく見ていると、これもチームワーク、和をもって仕上げたものだった。

リビングルーム。右側の雲のかかった壁は左官仕上げで現代大津の仕上げ、その他の左官壁は黄土入り漆喰の軍手仕上げ。右手前のキャビネットの扉は漆和紙を張ったもの。その他いろいろな素材が使われているが、多くの素材の調和が、単純な仕上げよりよほど和ませる空間をつくる。

(左)玄関室。鉄平石の壁と、小さな藁スサ入りの黒い左官壁。格子をはめた窓から陽が射して左官壁をやさしく照らす。(右)軍手で漆喰を仕上げているところ。

(左)2メートルの長さの人研の洗面台。ところどころにアコヤ貝を散りばめてある。(右)ガラスに左官仕上げをした照明器具。

左側に現代大津磨きの壁。

森の家

所在地長野県
面積敷地 2.920㎡ 延床 323㎡(1階 321㎡ 2階 52㎡)
竣工2009年7月(工期 2008年7月〜2009年7月)
設計泉幸甫建築研究所
施工北野建設
構造形式木造+RC混構造
増築部分主な外部仕上げ屋根/亜鉛鍍金ステンレス板 外壁/鉄平石小端積み、漆喰塗り
増築部分主な内部仕上げ天井/チークおよび杉板張り
壁/チーク板張り、鉄平石小端積み、現代大津仕上げ、黄土入り漆喰軍手仕上げ
床/チーク板張り、深岩石ショットブラスト仕上げ

チルチンびと 別冊34号掲載

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