建築家に聞いた“人が集まる家づくり”のABC

建築家に聞いた“人が集まる家づくり”のABC

建築家に聞いた“人が集まる家づくり”のABC

誕生日会、新居のお披露目、気の置けない仲間との食事―。
コンパクトな住宅でふだんの生活は大事にしつつ、
集まるための間取りや家具の工夫を建築家に聞きました。

教えてくれた建築家=伊藤誠康、大野正博、落合雄二、古泉 丞、田中敏溥、
中島祐三、中村聖子、藤井 章、松本直子、水澤 悟、森 博(50音順)

人が集まる
リビング・ダイニング

もてなしの中心の場であるリビング・ダイニング。
居心地の良さをつくるポイントは?
大人も子どもも一緒に楽しめる工夫も教えてもらいました。

1 広がりのある間取りに

ダイニングは開放的に、リビングは落ち着いた空間に―というように、それぞれ違う心地よさをつくるのも住む楽しみがあります。ただ、延床面積30坪程度であれば、それぞれのスペースを独立させず、混ざり合うような間取りにすると、日常生活はもちろん、来客時に重宝します。図1のようにリビングに隣接した和室も一体的に使える間取りであれば、集まり方の幅が広がります。

とはいえ、常に一つの場所に全員が居るというのは、やがて気づまりになることも。階段も腰かけられる場所として活用するなど、居場所があちこちにあれば、少人数での会話を楽しんだり、会話から離れても場の雰囲気を楽しめたりと、長く過ごせることでしょう。

図1 広がりのある間取り

LDKや和室、時にはデッキも一体的に使える間取りだと、大人数にも対応しやすい。

2 外にもはみ出す

外へとつながるデッキをリビングまわりと一体になるように設けると、春や秋の季節には庭を含めた大きな宴会場をつくることができます。巻き取り式の日除けがあれば、雨の日でも活躍します。

腰かけたとき、視線の先に庭の植栽や空が見えているだけでも気持ちよく、初対面の人同士の会話が弾むきっかけになるかもしれません。

3 子どもの時間・大人の時間

大人数でのパーティでは、乳幼児を連れたお客さんが来ることもあるでしょう。そんな時、右のイラストのように引戸で仕切れる和室があれば、おむつ替えや授乳、昼寝などに活用できます。

子どもはおなかが満たされたら、いつまでも席について大人の話を聞いているのは退屈になることも。吹き抜けでつながった2階階段ホールなど、親の目が届かなくとも気配を感じられ、子どもたちで遊べるスペースがあると、それぞれの時間を両立できるでしょう。

大人たちがおしゃべりをしている間、子どもたちが遊べる場や、昼寝ができるスペースがあるイメージ図。(イラスト・中島祐三)

家具の使い方で変幻自在

たくさん人を呼びたいけれど、我が家の椅子の数で足りるかしら―? 
少々人数が増えてもフレキシブルに対応できる、家具の選び方や工夫について紹介します。 

1 一人に一つの椅子より造り付けのベンチ

建築家の多くがおすすめしていたのが造り付けのベンチです。ダイニングの椅子をベンチ形式にすると座れる人数が自由になり、肘掛けや隙間がない分、意外に多く座れる上、食後に少し横になることもできます。

2 椅子座より床座

椅子座よりも床座の方が、一人あたりが省スペースですみ、大人数対応が容易になります(図2)。

図3は、ふだんはダイニングテーブルとして椅子とともに使い、脚の付け替えで座卓に変えられるテーブルです。

ダイニングとリビングのそれぞれにテーブルがある場合、各テーブルの幅寸法を揃えておけば、合体させて大きな宴会用テーブルをつくることができます。

図2 床座を生かした宴席のつくり方

同じ家具でも2通りの置き方ができるように考えられている。

図3 組み立て式テーブル

丁番を閉じれば、使わないときはコンパクトになるテーブル。(図2、図3イラスト・田中敏溥)

3 ダイニングテーブルは大きめのものを

10人くらいの仲間たちと囲める大きさのテーブルだと、夫婦や4人家族でもふだんからゆったりと暮らせるでしょう。ただ、少し余裕がありながらも大きすぎて動線を塞がないよう、空間にあったサイズを選びましょう。

4 皆で輪になる丸テーブル

卓袱台など丸テーブルは実際の大きさ以上に人数の増減に柔軟に対応します。構造は中央1本脚だとぐらつきやすいので、細めの脚4本を中央寄りにすると人が足をぶつけることなく座れます。天板は直径
1600ミリまでであれば中央に鍋を置いた際、皆の箸が届きます(図4)。

図4 掘り炬燵式の丸テーブル


(イラスト・中島祐三)

キッチンも集いの中心になる

お客さんも交えて賑やかに料理をする、あるいはホストとして料理でもてなす。それぞれ使い方の好みに応じたキッチンの形を考えてみましょう。

1 キッチンの型を考える

L 型、アイランド型、コの字。キッチンの形はさまざまです(図5)。アイランド型は四方から手がのばせるので大勢で同時に調理ができます。そのほかの形は、壁に対する設置の仕方によって、動きやすさと食卓との関係が変わってきます。

図5 キッチンの型

2 つくる場と食べる場をつなぐ

つくる場であるキッチンと、食べる場であるダイニング。双方の位置関係は人や物の流れを左右します。手元は見せたくないけれど、テーブルに座る人とも会話がしたいのであれば対面式のキッチンに。料理や片づけも皆でしたい場合は、キッチンの通路幅に余裕を持たせましょう。

アイランド型だとオープンすぎて抵抗がある場合は、低めのカウンターはいかがでしょうか。奥行きが350ミリあれば手元を隠しつつ、カウンターでの作業も可能です。

複数の人がキッチンに立つ場合は回遊動線を持った、通り抜けのできるレイアウトにするのがおすすめ。こうしておくと、家族だけで過ごす日常でも使い勝手もよくなります。

あるいは図6のようにキッチンと座卓が一体化していると、動線もコンパクトになります。

図6 座卓と一体型のキッチン

座卓とキッチンが一体化しているので、食事の支度をしなが
ら子どもを見守ることもできる。(設計・大野正博 イラスト・
たけなみゆうこ)
集まりを楽しくする移動式キッチン
デッキや庭でも活躍する、車輪のついた移動式ミニキッチン。カセットコンロを使用すればどこでも調理可能。訪れた人があっと喜ぶもてなしを。(設計・大野正博 イラスト・大野めぐみ)

豆知識 見落としがちな靴・コート
コートや鞄、雨の日なら傘も10人分ともなればかなりの場所をとるもの。それらをどこに置いてもらうかということもあらかじめ考えておくと玄関まわりで渋滞がおこらず、スムーズに案内できます。
靴の数や一度に皆が到着したときのため、玄関はゆったりとしたつくりにできるといいですが、あまりスペースがとれない場合はデッキを活用しても。外からも出入りできる動線を確保しておくのも一つの手です。

チルチンびと 88号掲載

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