裏も表もない、身も蓋もない

Caféを始めようと決めて真っ先にイメージしたのが器。小豆やあんこがシンプルに綺麗見える器って何だろうと思った時、「漆じゃない?」と思い浮かんだ。伝統的な輪島塗は素晴らしいもがあるけれど、「の菓子」の雰囲気に似合う飾らない、普段着のような丈夫な「うるし」。そう思い至って最初に訪ねたのが「輪島キリモト木工所」。本来なら開業にあたって、保健所とか銀行融資などいろんな手続きから始めるべきところ、いつも最終ゴールの絵が頭に浮かび、そこから逆順で初めてしまう悪い癖なのだけれど、あながち間違えではないと思っている。

3年前訪ねた当時の旧工房

輪島塗を作る工程は分業制になっている。「木地」とは塗る前の芯になる木の部分を作る仕事、「下地」は木地に麻布や珪藻土の粉、漆などを何層も塗り重ね丈夫な土台を作る仕事、「上塗り」は仕上げの表面の漆を美しく塗り上げる仕事、「蒔絵・沈金」は金銀などの箔や色漆、貝や卵の殻など使い加飾を施す仕事など大きく4つに分類されている。

中でも「輪島キリモト木工所」は江戸時代末期から漆器製造業を生業とし、朴の木で作る木地を得意としてきた工房。3代目桐本泰一さんは大学でプロダクトデザインを学び、今では輪島に軸足を置きながら東京から全国、世界へと飛び回る。

都内の三越デパートやギャラリーなどで売り場を持つ輪島キリモト。

作るものも器にとどまらず、家具、空間造形など幅広い分野に挑戦する「漆の伝道師」のような存在だ。日夜休むことなく、漆や輪島の可能性に奔走する火の玉のような熱い人。一方で特殊な技術を持つ職人さんを大勢切り盛りしつつ、漆の器に美味しい能登の海山の食材で腕をふるう奥さんの順子さんと二人三脚で築いてきた工房なのだ。

そんな忙しい桐本さんを捕まえて、自家栽培の小豆と甘納豆持参で事務所で打ち合わせをしたのが3年前。「漆器の赤黒は重い!」「小豆の赤はグレーの地色に映える」「うっすら藤色をしたこし餡には黄色が似合う」「the和菓子〜みたいになりたくない」と勝手な要望をお伝えして、塗り見本を貸してもらう。最終的にキリモトの定番商品「布見せプレート」をのがし別注にて白漆と黄色漆で塗り分けにしてオーダーさせてもらった。白漆の布目がざっくりとした風合いのセーターみたいで気取らない菓子も受け止めてくれそうだ。

他にも見せていただいた「アテハコ」というシリーズは身の部分がアテと呼ばれる能登ヒバで作られていて、蓋はキリモトの得意とする朴の木でスライドして開けることができるもの。繊細に溝が彫られて蓋が滑り開くさまは清々しい。拭き漆を施し木目が透けた焦げ茶色い蓋は側面に向かってふっくらとした曲線を描き手になじむ、「蛤」と呼ばれる加工が施されているとか。一見シンプルな工業製品に見える器たちは職人さんの高い技術と選ばれた材料があって初めて成り立つものだという。

アテハコ

蓋がある箱というのはそれを「開ける」という動きが一つ加わるだけで特別な演出ができる。パッとお重箱を開けるときの特別感、アテハコのようにスーッと滑らしてじわじわと中身が現れる焦らし感。そこに生まれるサプライズも味のうち。そこで干菓子、主菓子を仕込む様子を妄想しながらダンボールで模型を作る。「練り切りがぶつかるか、でもあまり高さがあると取り出しにくいかな。」などと独り言を言いながら試行錯誤の末、こちらも別注させていただいた。


あれから3年が経ち今ではcaféの什器として欠かせないものになりつつあるキリモトの器たち。でもなかなか現場で器についてゆっくりお客様に伝える機会が持てないと思っていた矢先、企画したイベントnogashi afternoon teaに桐本さんご夫妻が参加してくださることになった。

2020年新しくオープンした輪島キリモトは工房にショールームが併設されている。

早速新社屋にお伺いしていくつか漆の箱を見せていただく。「千すじ漆箱」と言う高さ4cmほどの浅目の箱は、蓋は千筋という細かい刷毛目が施されており板皿や敷折としても使えるもの。身は蒔地と呼ばれる珪藻土を漆と混ぜて塗り固めたざらっとした風合いのもの。他に試作品として作られた箱をいくつかお預かりした。

漆の箱を並べて「さて、何を入れようか」と出来上がった菓子を盛り込んでいく。すると困ったことに菓子の高さが重箱より少し高く、蓋をすると潰れてしまう。思い切って蓋を板皿のように敷き、身をひっくり返してカバーとして被せてみる。裏も裏に見えないように仕上げられているから、「これもアリ」かもしれない。

「その発想はなかった!」と桐本さんも笑いながら一緒にコーディネートをしてお客様を待つ.

「さぁどうぞ、蓋をお取りください。」と言ってお客様が先ほどの身と蓋反転に置いた
器に手をかけると、違和感を感じられて「え?」となり、次の瞬間に板皿の上に浮き立つ菓子を見て「わ〜」と声が漏れる。

アテハコの蓋を持ち上げようとしたお客様に「左にスライドして」とお伝えする。

時間差攻撃で、少しずつ里山の春の訪れを感じていただく。

しばし「開ける悦び」、「仕組む愉しみ」の時間を共有する。

「蕗の葉が開き、田んぼに水が引かれ、代掻きの風景、畔に咲くたんぽぽ」というストーリーをマットな質感の黒い漆の箱に詰める。自然とすっと菓子に手が伸びる浅さは今の季節にふさわしい。

「山菜取りに出かけるワクワク」を浅い縁のある蓋に並べる。下段のベンガラは別の箱の蓋なのだけれど、モジュールになっていて、サイズも大きいのの半分、そのまた半分と綺麗に重なり違和感がない。

白漆の布みせプレートはガラスのケーキカバーにぴったりで清涼感のある木の芽薯蕷やクロモジの道明寺羹が良く映える。

大きめのベンガラの千すじ漆箱には小さな山桜の蕾のひと枝とコラボレーションの記念にネームカードを配して。蓋を開けると額縁にお花見の風景が広がる。

黒い千すじ漆箱には、とりどりに季節の菓子を並べるとさながら標本箱のよう。

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