和ヲ以ッテ果子トナス。

ある年の秋の日、立て続けに数軒のご近所から柚子味噌をいただいた。重なってお裾分けが届いたのが不思議で「今日は婦人会の柚子味噌の日?どうしてみんな同じ日に炊くの?」と尋ねる。「そりゃ、今日が一番柚子が美味しそうやから。」と集落のばあちゃんは笑った。「黄色く照ってきて、前後のお天気も見て。この日!という時に採って炊く。それだけのことや。」そんな当たり前のことに気づけない自分の感覚の鈍さにハッとさせられた。

新物の小豆の中に柚子を埋めて保存すると虫除けになり、柚子の乾燥も防げるという集落のじいちゃんに習った知恵。
新物の小豆の中に柚子を埋めて保存すると虫除けになり、柚子の乾燥も防げるという集落のじいちゃんに習った知恵。

「旬という漠然とした期間よりもっとピンポイントなこの日!がわかるようになりたい。」そんな気持ちで里山の植物に目を向けると、なるほど様々な花が咲いては移り変わっていく。けれど、本当に美しく盛りの時というのは意外と短い。4~5日からせいぜい一週間で次第にしおれて花びらが落ち実が顔を出す。木の実の熟れ時も同じこと。その上鳥やムジナとライバルも多い。人の思い通りにならない天の恵みだからこそ、出会えたことは幸運で、ありがたくいただく。

【猿梨】サルナシ
高い木の上から蔓で下がっているのは甘酸っぱく濃厚な風味を持つキウイの原種サルナシ。山の植林地では厄介者ですぐに刈り払われてしまうので貴重。挿し木で玄関ポーチに緑のカーテンとして茂らせた。一口サイズの大福に。

 

グローバルな世界経済で「いつでも・どこのものでも」手軽に安く手に入るようになった。小豆に似たミャンマー産の豆で炊いた餡のどら焼きを食べても違いをわかる人は少ないだろう。都会のおしゃれなお菓子屋さんの羊羹に使われているドライフルーツやナッツもカリフォルニア産。昔にはない素材や組み合わせで和菓子が新しく、自由になったような気もする。でも一方で「いま・ここにしかない」身近な素材や背景の見えるシンプルな和菓子こそ一番贅沢になってしまったのかもしれない。

価格競争のため海外産の小豆に似た豆で作られる和菓子が増えているという。
価格競争のため海外産の小豆に似た豆で作られる和菓子が増えているという。

 


【海老殻苺】エビガライチゴ
赤い毛に包まれた野生のラズベリー。草刈りで絶えていたものを実生で育てた。鮮やか色を生かして水まんじゅうに。

 

(左)【鬼胡桃】オニグルミ
栽培されている胡桃に比べて小さいが濃厚な味わい。シンプルに干し柿で巻いたり、すりつぶして餡に混ぜたり使い道は多い貴重な国産ナッツ。
(中央)【角榛】ツノハシバミ
海外ではヘーゼルナッツと呼ばれチョコレートや焼き菓子に使われている。なかなか実らない希少なナッツ。
(右)【榧】ガヤ
灰汁ぬきをしてから殻ごと炒ると香ばしい香りのナッツ。神饌として祭りのお供えにも使われる。

 

「和」菓子とは明治時代にヨーロッパなどから入ってきた「洋」菓子に対して日本の伝統的なお菓子という意味で使われるようになった言葉。また四季折々の自然が意匠や菓銘に表されていて「和(なご)やか」や「和(にこ)やか」な気持ちになるから「和」菓子なのだという人もいる。では「菓子」の起源はと調べると古代の人々は野生の果物や木の実を食べていたのが「果」で「子」は種子を意味する。現代のように甘いものがない時代に天然の甘味やカロリーは貴重なものにちがいない。

【衝羽根】ツクバネ
羽子板遊びの羽根の形の木の実は秋の青いうちにとって茹でて冷凍する。お正月のお菓子の彩りに。

 

畔豆を育てることが自分の芯になっている。その合間に里山の恵みが散りばめられて一年が巡る。木の実の色を重ね、花の形を写す。草の香りを匂わせ、渋みや深みもコクとなる。自然の音を銘に聴き、優しい手触りの葉や蔓で包む。この谷にあるものが一つに調和して生まれるような…日本の里山から「のがし」を作りたい。

【上溝桜】ウワミズザクラ
杏仁の香りの花を蜜に漬けて水菓子やシロップとして楽しむ。

 

【夏櫨】ナツハゼ
和のブルーベリーと呼ばれ黒い実は砂糖煮するとコクのある風味になる。白小豆とナツハゼの蒸し羊羹に、オヤマボクチの浮島を重ねた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です