能登は日本海に突き出た半島。私の住んでいる中山間地の集落から20分も車を走らせれば海辺に着く。以前パッケージの仕事で能登の海藻のおし葉を散らした包装紙をデザインさせていただいたことがある。海藻といえばワカメと昆布くらいしか思い浮かばない東京生まれの私にはその色とりどりの姿形に目が釘付けになった。「能登の人はまるで山菜を採るように海藻も季節ごとに味わう」という石川県水産総合センターの池森貴彦さんの言葉や「海産物を通じて海の森の豊かさを伝えたい」と言われる昆布海産物処しら井さんのお話を伺ううち、少しずつ我が家の食卓にも海藻が増えていった。
輪島の海女の青地さんに案内いただいて輪島から船に乗って50km沖にある舳倉島に行ったこともある。舳倉島は対馬海流と大陸棚の影響でアワビ、サザエ、ワカメ、テングサ岩海苔、イシモズクなどが採れる豊かな漁場で「海女の島」としても有名だ。古くから夏季に輪島の海士町や鳳至町から季節移住して暮らされており、家々の前には干し網に様々な海藻が干されていた。
カジメやテングサなど海苔のように簾に広げて干されている光景が続く。
海女採りの海藻は採りすぎず資源を管理しながら環境に配慮している。
農文協刊「聞き書き 石川の食事」の中には昭和のはじめ頃の町野の集落のお盆のご馳走について書かれている。中でも「こころてん」の作り方が独特で再現してみた。
テングサを煮出す時にトンボ草(カタバミ)を酢の代わりに入れるとよく溶ける。
煮出した液をアテ(能登ヒバ)の葉をそうけという竹カゴに敷いたものに流して漉す。
また輪島では新物の小豆を水羊羹にして冬に食べる風習がある。こたつにみかんのように楽しむが、全国的な夏のお中元に水羊羹とは真逆の季節感。他にも仏事の精進料理に刺身の代わりに「スイゼン」と呼ばれる餅粉の入った寒天寄せがある。見た目はイカのお刺身のようで、葛切りみたいに幅広で、流水や菊花のように美しく輪島塗に盛り付けゴマだれを添える。
農耕儀礼アエノコトの時、集落のばあちゃんが作ってくれた水羊羹。
輪島塗の御膳に直接流してあって豪快だ。
輪島海美味工房の新木順子さんたちは郷土食を次世代に伝えたいと、エゴノリという海藻を煮溶かしてよく練って冷やし固めて「えごねり」という商品を販売している。佐渡や福岡のおきゅうとと似ていて酢味噌などのタレをかけて食べる酒の肴。エゴのような紅藻には血糖値の上昇を抑える効果もあり健康維持に役立つことも注目されている。
洗ってエゴノリのゴミを取り除いているところ。
「えごねり」は パックに詰めて農協の直売所などに出荷される。
せっかく山と海の近い能登だから「のがし研究所」でもあんこと海藻を合わせたい。古来羊羹も小豆と寒天でできたものだけど、その組み合わせは温故知新。そこで思いついたのがあんみつ。
左から弾力の強いテングサ、もちもち新食感のエゴ、スイゼンのように米粉の白が彩りを添えた3種の寒天をベースに。
畔で作った無農薬栽培の小豆をこし餡にしたものとお豆腐の白玉。季節の果物や山の木の実を添えて。
左からグミとクワ、ルバーブ、サルナシとあんず
玄関の扉の外にからまるサルナシをシロップ漬けにしたり、農家さんから分けてもらったアンズを干してトッピングに。
一手間かけて季節の果物を長く使えるように保存食に。
赤えんどう豆の塩茹では水道工事に来てくれた集落の人から分けてもらった種をまいて栽培したもの。早春に支柱がいるのでまるやまの林縁のリョウブなどの枝を刈り取り畑に立てると山もきれいにすっきり。足元にいろいろな植物が生えてきてまた森が豊かになる。
普通の赤エンドウ豆より色も味も濃い在来種。
支柱の枝を刈り取ったところの植物はモニタリング中。
杏仁豆腐にタピオカ、モーモーチャーチャーなど話題のasianスィーツは数あれど、「能登のあんみつ」はココロもカラダも地域も三密で。仕上げは多良間島の黒蜜で。