の菓子圖絵

2023年卯年、明けましておめでとうございます。今年も季節や天気を追いかけながら、草木の気持ちで、虫鳥の目で、の菓子を手のひらから生み出せたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

昨年末に菓子のイラストを描いてみた。奥能登の農耕儀礼アエノコトに合わせてnogashi trailにお出しするもの3種。茶席の和菓子というよりは、赤飯やおはぎという田の神様へのお供えという素朴なもの。けれどもプリミティブな神饌こそ「菓子のはじまり」なのではないかと筆を取った。

老舗の和菓子屋さんには四季折々に作られた菓子見本帳があって、その美しさにため息が出る。江戸時代には当然タブレットもペンも紙もないので、和紙に筆で墨や顔料で描かれたり、浮世絵のように木版画で表現されている。職人さんの覚書のスケッチのようなラフなものから、保存版として絵師に描かせた清書的なものまで多様な見本帳がある。

菓子を考えるとき、その素材や季節や、風景、背景となる物事などをもとに簡単なスケッチを描く。と言っても饅頭なら丸、羊羹なら長方形という簡単なもの。ケーキなどに比べて、和菓子は素材も構成もシンプルだし、伝統的なパターンなど決まったものもある。絵というよりは図に近い。

中山圭子氏の『江戸時代の和菓子デザイン―Edo Period Japanese Confection Designs』の徳川家御用達の美しい菓子のデザイン画を参考に自分の菓子も図に置き換えてみたらどうなるだろう。

アエノコトの神饌の「おはぎ」は○、練り切りの「依代」は△、「赤飯」を□に見立ててスケッチする。

「おはぎ」の○は高さは建築の平面図のように出さずに、小豆の粒と青大豆のきな粉という2種のテクスチャの対比がデフォルメされるように表現する。

「依代」の△は白い和紙に包まれた依代の松と栗を際立たせたいのと、百合根、鬼胡桃、角榛といった餡玉の「山の恵み]を包み上げる様子を感じられる側面を描く。

「赤飯」の□は枡に盛り付けられた赤飯に見えるように、少し角度をつけて立体に見えるように。

集落の紙漉き場仁行和紙の遠見さんの雁皮紙に、胡粉と呼ばれる貝殻の白い粉で下地を作って、先の細い面相筆や白玉と呼ばれる点を描く筆などで塗っていく。

水干絵の具というまるで和菓子材料の白玉粉のような粒感のある顔料も、全て画材の素材感が和菓子を表現するのにしっくりとくる。小豆色の絵の具などうっかり晒し餡と見紛うばかりだ。

美しい絵を描こうとするのと違って、デフォルメしたり、省略することによって伝えたいことを描き出すことができる。携帯のカメラが手軽になって以来、写真が表現方法の大半を占めていたけれど、この手法は古くて新しいのかもしれない。

ならば、ふと月替わりの、の菓子圖絵をカレンダーにまとめておこうと思いたつ。

一つの画面に3つの菓子とルールを決めて選び出す。モチーフの大小、生菓子、干菓子や色形などメリハリをつけて選ぶ。

水彩や油絵など建築の学生時代から苦手。でも、今回、自分で生地を伸ばしたり丸めたり、綴じたり、筋を入れたり、手に記憶のあるものを題材としているからか、上手くはないけれど迷いがない。まるで手のひらがスキャナーになっているみたいな不思議な感覚。

今年も皆様にとって良い一年となられますようお祈りいたします。