ワイナリーのような

「和菓子作ってどこで売るの?」と聞かれて「自宅です…」と答えると大抵の人は「そんな奥地まで客が来るのか!」と呆れたり、「卸したほうがいいのでは?」と勧められる。他所で誰かに売ってもらっても小豆の栽培のことや自分の想いも伝わりにくい。そもそも卸すほどたくさん作れない。昨年末娘が進学のために上京して、能登での3人の子育てが一段落した。森を切り拓き建てた我が家。夫婦二人で過ごすだけではもったいない。ならばここでcaféを開業しよう。

平面図のブループリントと初めのドローイング。

平面図のブループリントと初めのドローイング。

 

まずはzoningを考える。大きく分けて4つ。一つ目はlabo+factoryで実験室のように、二つ目のshopは民家のように、三つ目のcaféはmuseumのラウンジのように、最後はpantryで蔵のように。


色々な素材を使ってレシピを考えたり、実験したり、素材の加工や菓子を製造するところ。

 

labo+factoryは、もともと物置だったスペースを菓子製造業の加工場にリノベーション。蒸篭や升など古い道具やfood dryer、kitchen aidのミキサーなど今様のマシンが共存する不思議な工場。窓越しに見えるコンポストは、こしあんの小豆の皮や山の落ち葉を堆肥化して畑の土に還す。

お持ち帰り用の菓子の販売スペース。菓子の什器は豆の選別用篩(ふるい)。

 

shopは三和土で、農作物をそのまま運び入れたり仕分けしたりする作業場だったところ。餡を炊く珪藻土の竃や箕など素材感が美しい道具は飾りでなくすべて現役。壁面には落雁などの木型を収納。菓子と農のつながりを感じて欲しい。またデザインで関わらせていただいたものを集めて「勝手に能登のselect shop」も。

caféは自然に解放された空間で菓子を楽しんでいただけるように。

 

吹き抜けのリビングルームを週末カフェに。椅子や家具は暮らしの中で使ってきたもの。美しい植物図鑑や建築やライフスタイルの本を見たり、壁面の豆類のハーバリウムを鑑賞したり。春や秋はデッキで足を伸ばすのも気持ちよい。

一階RC部分は原料の貯蔵スペース。季節の農作物を年間利用できるように保存食を貯える。

 

無農薬自家栽培の豆類は害虫やカビなどから守るため冷蔵庫で保管している。氷温で管理することで糖度と旨味もアップする。味噌樽や漬物、ジャムの瓶詰めなどもストック。

その他に豆を植える畔や畑も私たちの店の重要な一部。小豆も水も空気も風景もすべての調和で菓子になる。そんな心持ちで店の顔になる暖簾を作っていただいた。

手染めや椿姫さんに藍染で仕上げてもらった冬暖簾。制作中の夏暖簾のための型。

 

先日フランス料理店を経営するカップルが遊びに来てくれて、一通りご案内した後ひとこと。「ワイナリーみたいな和菓子屋さんね。」じわっと嬉しい。そして開店準備をするうち気がついた。「和菓子を作って売りたい」がゴールじゃない、目指すのは「小豆のある暮らし」の豊かさをお伝えすること。

※現在営業日は第2・4週の金・土の限定営業としていますが、facebookページ「のがし研究所」にてご確認の上ご来店いただければ幸いです。

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