注文の多い和菓子店

和菓子屋さんの店先にずらっと並ぶ季節の生菓子。柔らかい練りきりなどが移動中にこわれないように、乾燥しないようにとプラスチックの四角いケースにいれられている。「和生カップ」と呼ばれて製造する側にとっても在庫の菓子の置き場や衛生面など便利な容器なのだが。どうもアレが好きになれない。の菓子販売日のお知らせのSNSの投稿に#器持参といれてみた。

「お弁当箱や空き箱をお持ち下さい。重箱でも、タッパーでも、琺瑯でも。」と呼びかける。すると輪島塗の器を風呂敷に包んで和菓子を求めに来てくださる方もちらほら。

能登では今でも祭で赤飯や煮しめを重箱に入れておすわけする風習も残っているからか、器を持って来て下さいと言うお願いは抵抗なく受入れてもらえた感じがする。それに何より漆には抗菌作用や湿度を調整する機能性も相まって和菓子をいれるにはぴったりの器らしい。

器 手提げ重 大崎漆器店

 

持ってきていただいた器に季節の葉っぱやセロファン(※)を敷いて菓子を詰め「こちらでよろしいでしょうか?」とお見せすると写真を撮られる方が多い。いつの間にかカウンターが流行のphoto boothみたいになっている。居合わせたお客様同士、「お嫁に持って来た」とか「この模様は」と器にまつわる話に耳を傾けながら。

器 八角小重 蔦屋漆器店

器 八角小重 蔦屋漆器店

 

アテの木の葉の沈金の慶塚漆器(K様)

アテの木の葉の沈金の慶塚漆器(K様)

 

一方でインドのステンレス製のお弁当箱も素朴ですてき。アジアっぽい丸い蒸篭みたいな蓋物をお預かりして、サルトリイバラの葉に包んだ麩饅頭を詰めたら蒸したての飲茶みたいで楽しい雰囲気になった。

私が葉っぱを集める余裕がない時は、「笹はあっち、青紅葉はこっち」とお客様にお伝えして好きなのを採っていただくことも。持ち帰られてから「敷き葉は菓子を取り出しやすかった」とか「家の器にあわせてカットして使った」などのフィードバックというおまけもいただけたりする。

器 皿 吉田漆器工房

 

お客様が「思い思いの器を、それぞれのお気に入りの布に包んで、森へ菓子を買いに来られる」という姿がピクニックみたいだし、大人も赤ずきんちゃんみたいにワクワクしてかわいく見える。行きは空だった器を、帰りは大事に抱えて坂道を下る姿を見送ると勝手にピースフルな気持ちになっている。京都老舗の有名店へ縁高の菓子箱で誂えの菓子を. . . なんていう格好良さとは程遠いけれど、「運ぶ」楽しみというのはあるのだなとおもう。今のところ#器持参は十中八九なんらかの器をお持ちいただけている。プラスチックゴミ削減と大声で反対運動をしなくても、案外たのしみながら環境によいことになれば一石二鳥いえ三鳥かも。

Cafeでお茶をお出しすると「このストロー持って帰ってもいいですか?」と聞かれることがある。ライ麦の茎がツヤツヤと金色で美しいので名実共にstrawとして使っている。小豆の畑が連作にならないよう裏作に作ったこと、梅雨前に黴びないように収穫すること、干して切りそろえ煮沸することなどstrawの裏話をお伝えすると「家で子どもにも使わせたい」といって包んで帰られる。今まで気にも留めなかったストローからちょっぴり何かを感じ取っていただけたらうれしい。とはいえ、あんみつや水菓子のプラスチック容器などまだまだ課題はあるけれど。

オープンして程なく巷はレジ袋有料化。そこで「マイバックをお持ちください」もお願いしてみる。持参出来ない方にはリユースの紙袋をご用意。オシャレなブティックやデパートなどのしっかりした紙袋がたまっていたので使わせていただく。(もちろんギフトや特別な日のものは失礼にならないラッピングも賜りますのでお申し付け下さい。)

続けて保冷剤や保冷バックも。車の方も多いのでトランクには釣りに行けそうなくらい立派なクーラーボックスを積んで来て下さる方もいてだんだんアウトドアイベントに来ていただくような感じに。東京じゃこんなお願いはできないだろう。

私はせっせと添加物や保存料などを使わない菓子を作り、包装資材などはミニマムにする。お客様はなるべく大事に持ち帰って、できるだけすぐに食べるという連係プレーがあるからできる事にありがたくおもう。「客」と「店」、「サービスを受ける側」と「提供する側」と言う経済の絡んだ上下や主従の関係というより、そこにあるのは「同じ明日へと向かう共感」とか「巻き込まれることを楽しめるゆとり」なのかもしれない。

さてと、そろそろご注文を伺わなくては。

 

※パルプから製造された透明なフィルム。セルロースとよばれる植物の細胞壁の主成分からなり燃焼による発熱量がすくなく、燃焼ガスによる2次公害はなく土壌中やコンポスト中で速やかに分解され水と二酸化炭素になる。

※現在営業日は第2・4週の金・土の限定営業としていますが、facebookページ「のがし研究所」にてカレンダーをご確認の上ご来店いただければ幸いです。

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