福を招く

のがし研究所

あけましておめでとうございます。今年もまた能登の山からお伝えする「のがし研究所だより」をどうぞよろしくお願いいたします。

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最近だんだん見かけなくなってきましたが、数年前まで暮れになると目にした光景。集落のばあちゃんが歳神様迎えと言って榊や松、ユズリハの枝を山から担いで来ます。松は神様の依代に、ユズリハは若葉が出た後に、それを譲るように前の葉が落葉することから、親が子に代を譲る様にたとえられ、家が代々続いていくように縁起のよい木として正月の飾りなどに使われます。

玄関先の正月飾り、swag,ウィリアムスバーグ

集落の家々の玄関先の正月飾りは、山から採ってきた松、ユズリハ、庭のナンテンなど様々な吉祥植物を雪囲いの横桟に挿してあります。今時流行りのswagのようでもあり、買ってくる花とは違う素朴な佇まいが雪国の風情にしっくりきます。雪の降る前にどこで何をとってくるのか生えているところも知っていなければ集めることができません。

我が家では鏡餅の飾りにするウラジロというシダ植物を取りに裏山に上がります。ウラジロは葉柄の先端に葉が左右向き合って出るため夫婦和合や、白い葉裏は、ともに白髪になるまでの縁起とする説もあります。

春先のゼンマイ採りの時に新芽を見つけ場所を確認したのですが、雪深い中では遠く感じられます。高齢化で山の手入れをする人が減り、荒れて進みにくくなっています。イノシシと遭遇しないかも気にしながら「来年は来れるのかなぁ」と、恵みを得るだけではダメだなと思いつつ進みます。

雪を被るウラジロの葉を痛めないように起こします。鏡餅の大きさをイメージしてちょうど良さそうな大きさのだけを選んで、親兄弟などお餅を送る数だけいただきます。どこにでもありそうでいて、なかなか希少な植物なので採りすぎないように気を配っています。

ウラジロは買ってくる方が時短なのにわざわざとってくるのは、なんとなく静かで清らかな雪の山の空気を吸って一年がリセットされるようで気持ちがいいから。しめ縄はスーパーで買うので特段信心深いというわけでもありません。義務感で続けるのは大変ですが、何より菓子の原点でもある餅と季節の植物の取り合わせは、謂れや習俗を超えて美しいものだなと思います。お金で買うという以外の選択肢があるというのは「実はすごい価値」とも感じます。

お正月の和菓子といえば、健康や長寿を願って鶴亀や干支などをかたどった練りきりや花びら餅などが店頭に並びます。石川県では金沢を中心に福梅という梅の形の紅白の最中が定番です。その他に落雁の老舗諸江屋さんなどに並ぶ招福菓子として「福徳」という小槌などの形の最中皮の中に土人形や金華糖の入った玩具菓子もあります。中から何かでてくるというのは子供でなくても楽しいもの。いつまでも食器棚の隅に置いて愛でています。

そしてもう一つ「中から出てくる」シリーズで忘れてはいけないのが辻占。花のような形に包んだ皮におみくじのような言葉が書かれた小さな和紙が入っています。お菓子屋さんによって皮の素材も米粉や最中種、姿やおみくじも異なります。辻占の起源は、江戸時代や万葉集にも登場するというほど古く、茶屋街の多い金沢では明治時代には年中辻売りがいたそうです。最近では年末能登のスーパーでも見かけます。

コロナ禍のもやもやした気持ちから、今年はちょっと見通しが利くような言葉で歳迎えができたらとオリジナル辻占を作ってみることにしました。寒梅粉と粉砂糖の生地に紅麹と苺を加えてピンク色、炭と黒ごまのグレー、能登の海藻アオサ入りの薄緑の3色。生地を伸ばして三角に切り、丸めた紙片を包みます。

鮮やかな原色も占いっぽくて魅かれるけれど自然の色もまたかわいい。搗き上がったお餅と一緒に乾かします。

うちにも長靴をはいた猫、マカロン、きのこのフェーヴが。
うちにも長靴をはいた猫、マカロン、きのこのフェーヴが。

アメリカに住んでいた頃よく行くChinese レストランで食後に伝票と一緒に出てくるのがfortune cookie。瓦せんべいのような二つ折りの生地に細長いテープ状の占いの紙が入っていました。金沢の辻占はこれの真似かと思っていたらどうやら逆で日本のものがルーツという説があるらしいのでした。

新しい年の運だめしは洋の東西を問わずあるもので、フランスの「中から出てくる」シリーズのお菓子はガレット・デ・ロワ。フランスの伝統菓子でアーモンドクリームが入ったパイ菓子で、中にフェーヴと呼ばれる陶器製の小さな人形が一つ入っています。1/6の公現節に家族で切り分けて食べ、フェーヴが当たった人は王冠を被り、祝福を受け、幸運が1年間継続するといわれています。

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ガレットデロワのフィリングを餡にしたものを作ってみました。フェーブとはソラマメを中に入れて焼いたのが語源といいます。そこでオーブン用の粘土でソラマメの箸置きを作って餡に埋め込みパイ生地で包みました。

飾りにも豆の形の抜き型で模様を入れて焼いたら、和のガレットデロワができました。アタリの人はどんなご利益があるのでしょうか。

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2021年が皆様にとって良い年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。