zero emission 〜あんこは続くよどこまでも〜

「年末までに。」と頑張って選別し終わった新豆。新しい年を迎え初心にかえり「小豆を煮るとは?」を考える。加熱して、皮を柔らかく消化を良くし、なめらかな食感で、味はもちろん色や香りもよく美味しくすること。当たり前のことようだけれどこれが中々奥が深くて難しい。炊くたびに、豆の新旧、その日の気温、水質などいろいろな条件が関わり同じようにならないことも多い。

土間の高いところから初詣でいただいた竃の神様が見守ってくれている。
土間の高いところから初詣でいただいた竃の神様が見守ってくれている。

そのためか最近では和菓子屋さんでも製餡所から仕入れて自ら餡を炊かない所が多いと聞く。夜、小豆を投入しておくと、朝おいしい餡になって出てくる無人化された製餡機械もあるらしい。大量に同じ商品を用意しなくてはならないお店ではなくてはならないことだろうけれど、私にはちょっと味気ない。

祭りのごっつぉ作りでばあちゃん達に自慢の味を教えてもらう。
祭りのごっつぉ作りでばあちゃん達に自慢の味を教えてもらう。

「小豆はダラ煮や。」と集落のばあちゃんたち。「ダラって能登の方言で馬鹿とかアホに当たる言葉でしょう?」怪訝な顔をする私に、「昔はだらだらと囲炉裏でゆっくりと煮たもんや。」時間や効率を気にせずにとろ火で煮たという。「渋きりだ、皮が破れる」と神経を使って炊く職人さんの洗練された餡とは違うけれど、ちょっとくらい煮過ぎたって大丈夫という大らかな餡も好き。

能登の珪藻土七輪の上にダッチーオーブンという和洋折衷が我が家の定番スタイル。
能登の珪藻土七輪の上にダッチーオーブンという和洋折衷が我が家の定番スタイル。

アメリカに住んでいた時にBBQの美味しさに目覚めた。都会で育った私達にとって「生の火」は新鮮で、ガスやIHにはない遠赤外線の旨みにハマった。初めは鉄製のグリルに練炭で満足していたけれど、能登へ来て本物の炭と珪藻土の七輪の組み合わせに驚いた。火持ちが3倍くらい良いのだ。植物プランクトンの堆積土である珪藻土は焼くと小さな空孔ができ断熱性に優れている。七輪は火鉢と違って炭を入れる穴の下に空気の通り道があり、暖められた空気が下から上へドラフトすることで煙突のように炭火の熱と遠赤外線を一箇所に集めることができる。輻射熱や余熱がじわじわと来るのもいい塩梅だ。

地中数百mの坑道から切り出した珪藻土の塊を加工する能登燃焼機器の舟場さん。石川県珠洲市。
地中数百mの坑道から切り出した珪藻土の塊を加工する能登燃焼機器の舟場さん。石川県珠洲市。

「自家栽培した小豆で自分で餡を炊く」くらいの量なら炭火と珪藻土でできるかもしれない。でもガスや電気のようにパッと立ち上がって、調節することは難しい。そこで能登半島の先端、珠洲市の大野製炭工場に相談した。茶道用の炭を焼くために大野長一郎さんは里山にクヌギの苗を植林するところから携わっている。8年かけて育てた木は部位ごとに厳選され、熟練の窯焚きで美しい断面の菊炭に焼き上げられる。茶道の炭点前で使われる希少な炭だが焼くことができる職人も減っている。

茶を点てるお湯を沸かすため、様々なサイズの炭を組み合わせてつぐ。大野製炭工場製
炭を焼く際に窯の中に丸太を立ててならべていく大野さん。ドーム状の丸い天井部分には丸太が燃え尽きて灰にならないように小枝が被せられる。
炭を焼く際に窯の中に丸太を立ててならべていく大野さん。ドーム状の丸い天井部分には丸太が燃え尽きて灰にならないように小枝が被せられる。

菊炭をとった後「ワセ」と呼ばれる炭化した小枝が副産物として残る。火付きも良いので餡炊きに使わせてもらったら皮がふわふわに仕上がった。薪と違って鍋の裏が煤で汚れないのもありがたい。

能登の地面から切り出した土の器に、森の木で焼いた炭火を包み、裏山から湧いた水と小豆に無駄なくエネルギーを移して行く。春になれば炭焼きの森の切り株から可愛いひこばえが芽吹くだろう。そしてまた小豆を蒔く。ぐるぐると環るうち、「食べてもなくならない菓子」になるのではとダラなことを考える。

焚付けは豆鞘(ガラ)や家の周りの杉葉(スンバ)、灰は畑に還す。
焚付けは豆鞘(ガラ)や家の周りの杉葉(スンバ)、灰は畑に還す。
能登燃焼機器製
小さい方は3合、大きい方は1升炊きの鍋をかけた珪藻土の竃。地中から切り出したままの角型は古くからの形だそう。燃焼中も外側は手で触れられるほどにしか熱くならないのでワゴンに乗せて可動式に。能登燃焼機器製。

 

1月ののがし 菓銘 お年菓

干支の薯蕷練り切り。ツクバネの実と羽子板に見立てたクマイザサの敷葉を菓子椀に。
干支の薯蕷練り切り。ツクバネの実と羽子板に見立てたクマイザサの敷葉を菓子椀に。

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