粒選りの。

10月の中頃から在来小豆は早生、中生、晩生や大納言とそれぞれ収穫期を迎える。一株にいくつもぶら下がる鞘は同時に茶色くなるのではなくバラバラに熟していく。一つ一つ手摘みで収穫することを能登では「サヤボリ」と呼ぶ。朝、鞘が湿り気を帯びているうちにとれば、はぜて地面にこぼれることもない。手間暇かかるけれど、一番美しい小豆に仕上がる。

毎年秋の晴天の日にパリッとはぜた鞘から、真っ赤な小豆が顔を出す時の鮮やかさといったら他に比べるものはない。
毎年秋の晴天の日にパリッとはぜた鞘から、真っ赤な小豆が顔を出す時の鮮やかさといったら他に比べるものはない。

鞘が一気に熟したり、台風で株ごと倒れたりすると「サヤボリ」では追いつかないので「ハザボシ」をする。茎ごと豆を引き抜き、4本ずつ藁でくくってその先端をねじ込んで束を作ることを「ネソ」という。

干す前に川で小豆の根を洗えば作業途中に豆が汚れないと集落のばあちゃん達が教えてくれた。
干す前に川で小豆の根を洗えば作業途中に豆が汚れないと集落のばあちゃん達が教えてくれた。

束を二股に割って田んぼの中に建てた稲の乾燥用の「ハザ」(稲架)にかけて乾燥させる。日照や熱で乾かすというより空気の流れで干せる。

うちは田んぼがないのでリビングに面したデッキのポリカーボネート屋根の下で干す。

 
カラカラと豆が乾いた音がすれば打つ。シートの上に角材を横倒しにして、その上に豆の束を置く。日本酒の4合瓶で叩くと豆がはぜて飛び出す。

小豆束を角材にねじりつけながら打つと白小豆が脱粒した。
小豆束を角材にねじりつけながら打つと白小豆が脱粒した。

鞘や茎、葉などの粗いゴミを取り除き、「フジミ」藤箕に入れる。馬蹄型の箕で両手で持って、上下にトントンと揺り動かすと軽いゴミや土、葉、虫などが上に浮いたところをさっと手間に引いて落とす。すると綺麗な豆は下のくぼみに残る。重さの違いを利用してより分ける風選の道具だ。初めは屁っ放り腰でも少しやればリズムをつかめる。平面の矢竹と藤で編まれた部分にゴミが引っかかり、すくい取る先端は桜の樹皮が編みこまれている。昔の人の素材を活かす手業には驚かされる。秋の晴れ間に藤箕入った赤い小豆が道端に干されている風景に出会うと幸せな気分になる。氷見の論田の人が古米と物々交換に来て普及したらしく、集落のたいていの家にあるけれど使う人も減ってきている。

<a href="http://www.jtco.or.jp/japanese-culture/?act=detail&id=117&p=0&c=23">論田の藤箕</a>。プラスチック製より使い勝手が良く丈夫で、且つとても美しい。
論田の藤箕。プラスチック製より使い勝手が良く丈夫で、且つとても美しい。

ここまで来て箕の中の豆を見ると無農薬栽培の小豆にはカビの生えた白いもの、腐った黒いもの、虫食いや欠けたもの、小石が混じり合っている。市販の小豆には程遠い。手盆に少量ずつ広げて手でより分ける。

綺麗な豆、欠けたりしているけれど今すぐ煮て食べれば大丈夫な豆(右)、畑に還す豆(左)と3つに分ける。
綺麗な豆、欠けたりしているけれど今すぐ煮て食べれば大丈夫な豆(右)、畑に還す豆(左)と3つに分ける。

気が遠くなるような作業だけれど、北陸の長い冬にコタツに入って、家族や友達と豆を選る。車座でよもやま話に花を咲かせて、時には知恵や工夫が受け継がれていく場にもなったことだろう。

半日がかりの選別作業の末、「五斗袋(たくさん)ほど喋ったわ。」と帰っていくばあちゃん達。(画像は青大豆)
半日がかりの選別作業の末、「五斗袋(たくさん)ほど喋ったわ。」と帰っていくばあちゃん達。(画像は青大豆)

綺麗になった小豆をもう一度ふるいに通す。今度は豆のサイズを小粒と並粒、大粒に分けるためだ。粒を揃えるのは餡を炊くとき、煮え時間のばらつきを無くすためだ。

6mmメッシュのふるい。シンプルな道具だけれどあるとなしでは大違い。
6mmメッシュのふるい。シンプルな道具だけれどあるとなしでは大違い。

調整作業の途中に豆は汚れているので流水で小豆を洗う。水に浸すと虫食いなどで比重の軽くなった豆が浮かんで流れて最後の選別作業、水選も兼ねる。

昔は「ソウケ」という馬蹄形の水切りザルに入れ川下に開いた方を向ければ自然の流れで選ったものだと言う。
昔は「ソウケ」という馬蹄形の水切りザルに入れ川下に開いた方を向ければ自然の流れで選ったものだと言う。

ちょうど薪ストーブに火が入る頃、特等席に小豆が鎮座ましましている。乾いたら採れた日と重量、粒の大きさ、等級を記入した袋に入れる。来年分の種を採り、在庫管理表に書き込みようやくほっとする。

この豆は練り切りに、これは蜜漬けにと思い巡らす。
この豆は練り切りに、これは蜜漬けにと思い巡らす。

この一粒の種子を選ったことはアクション。小さな農の始まりと、そこから暮らしの糧をつくり自分らしく生きることへ通じる道へと。

 

12月ののがし 菓銘 木枯らし

新物の瑞々しい紅白小豆で作った練り切り。もうすぐ初雪が降る頃。
新物の瑞々しい紅白小豆で作った練り切り。もうすぐ初雪が降る頃。

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