犬の話(5)
いかげん、犬と縁がないという話は止めてくれという声が聞こえてくる。ご心配なく、これが最後です。さすがに僕も飼い犬とは縁がないのだと気がついたが、その最後通牒のような犬は、血統書付きのシェパードだった。瞳が国立に引っ越してきて、しばらく経った頃、まだ家は賃貸で安普請の木造二階建てだった。これを後に買い取り、さらに数年後に新築して変奇館と名づけたのだった。
それはともかくとして、シェパードの件だ。瞳は当時、野球の観戦記事を書くことが多かった。また、キャンプを訪れるというような連載も持っていた。スポーツ紙Hの担当者のNさんは、ご自宅も多摩地区で国立から近く、個人的にも親しくしていた。
そのNさんは、当時としては珍しかったのではないかと思うが、趣味で犬のブリーダーをしていた。それも、山間の新興住宅地の広い庭を利用してシェパードの繁殖をしていたのだ。一度、一家でお邪魔したことがあるのだが、玄関先では大きなフクロウが飼われていて、生物が好きな僕は、すっかり魅了されてしまった。そんな僕を見て、子犬が生まれたら差し上げますよ、ということになってしまった。これまでの経緯をみれば、お断りするのが順当だったのだが、Nさんと父の間で、そんなことになってしまったのだった。…