徹底的に磨いた技巧で古民家が快適に蘇る

徹底的に磨いた技巧で
古民家が快適に蘇る
奥さんの実家である築80年の古民家を改修。
豊富な知識と実績を持つ工務店が手腕を発揮し、大切に引き継がれる古いものを残しつつ、
快適さを増した念願の住まいが完成した。
愛知県安城市 古民家再生 勇建工業 齋藤邸
設計・施工=㈲勇建工業 写真=畑 拓
- 遊び心を散りばめた玄関。古い蔵戸、ステンドグラスを飾り、手すりはムロの変木に。
腕の確かな工務店に
実家の改修を一任
古い家、新しい家が混在する、愛知県安城市の住宅街。街並みの中で、土佐漆喰と黒い焼き杉の外壁がひときわ重厚な雰囲気を漂わせる家が、今年6月に完成した齋藤邸だ。
齋藤邸は、奥さんの実家である築80年の民家を改修した建物。5年前に、老朽化が気になり、改修を考えた。当時、夫妻は隣家に、ここにはお母さんが住んでいた。家づくりの途中でお母さんは亡くなったため、現在は夫妻が家を引き継ぎ、暮らしている。
改修は、愛知県を拠点とする地域工務店・勇建工業に依頼。全国でも有数の左官職人である加村義信社長がリードする同社は、高度な左官技術を生かし、新築のみならず、古民家の改修にも20年以上取り組んできた実績を持つ。近年では、構造材の耐力データの測定実験なども精力的に行い、古民家改修事業にいっそうの評価を得ている。「愛知県内の工務店を探す中で、『チルチンびと』を見て、勇建さんを知りました。古いものを生かして……という内容の記事で、私たちの想いと重なりました。勇建さんなら相談にのってもらえそうだと感じ、電話で問い合わせました」と奥さんが振り返る。
齋藤夫妻が伝えた要望は、使えるものはなるべく壊さずに生かすこと。そのほかの要素は同社におまかせで家づくりを開始した。
- 天井を吹き抜けに変更した主屋・和室。
- 庭側から見た和室。テーブルの材は吉野檜。
技術とアイデアが
行きわたる家づくり
齋藤邸の家づくりについて改修設計を手がけた加村さんにうかがった。
構造面の大きな変更は「まず台風対策で、屋根を入母屋型から切妻型に架け変えました。切妻に変更することで空間を明るく広くする狙いもあります。またリビング・ダイニングは、以前に増改築をした跡があり、柱梁が弱っていたので、新たな柱を追加。梁が出るので、下がり壁のついたしつらえとなりました。和室は18メートルの本ツガの梁を建具の上部に移動させています」(加村さん)。
間取りについては、庭を臨む位置は既存を尊重した2間の和室、西側にLDK。また、「長屋門を壊してご主人のための車庫棟をつくりました。バイクや外国車はオイルが垂れやすいので、床は耐油の塗料を塗って仕上げています」と、加村さん。離れには、奥さんのためのセカンドリビングや書斎を配するなど、夫妻が個々の時間を楽しむスペースも提案した。
また細部にも、加村さんのアイデアが多く取り入れられている。たとえば、玄関。来客を迎えるように飾られた古い蔵戸やステンドグラスは、加村社長がストックしていたものを夫妻にすすめた。加村さんは「蔵戸は、新潟の古民家改修現場で不要になったものです。綺麗だったので持ってきました。蔵の寸法に倣っしつらえています。ステンドグラスは、ファンタジオナゴヤさんのもので、ナメクジ面の左官で仕上げました」と話す。
- キッチンからリビング・ダイニングを見る。
こだわりの土壁
心地よさに感激
奥さんのお気に入りの場所は吹き抜け天井の和室だという。「先代までに何度か増改築を重ね、仏間と庭以外の箇所は都度変化してきたのですが、いずれのときも暗い印象でした。今回の改修で吹き抜けとなり、見違えるほど明るくなりました。この和室から庭を眺めると懐かしい気持ちになります」(奥さん)。
ご主人は「部屋が広く感じますね。建具は高さが低く、頭をぶつけてしまいそうだったのですが、床を下げて高くしてもらいました」と微笑む。また、木摺り下地を施した土壁の心地よさに感激したと奥さん。「土壁は涼しくて、驚きました。以前はクーラーをめいっぱいつけていないと過ごせないほど熱気がこもって暑かったのですが、不要なくらい快適になりました」。
- 2階・洋間。大黒柱は綺麗な1本に見せるため、上部を漆喰で盛った。
「土壁の下は、木摺り、空気層、荒壁、断熱材などの層を、断熱性能の計算結果に基づいて重ねています」(加村さん)。断熱材が土壁に接する構造とすることで、結露や過度の乾燥を起こしづらいつくりになっているという。高度な技術が必要とされ、できる職人が限られる木摺り下地を施した上で、さらなる工夫を探求する……家づくりに対する同社の徹底ぶりに感服した。
構造、意匠から仕上げまで、確かな技に裏付けられた安心と快適のある住まいで、齋藤さん夫妻の生活はいっそう豊かなものになることだろう。
所在地 | 愛知県安城市 |
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家族構成 | 夫婦+猫数匹 |
面積 | 敷地 763㎡ 延床 216.92㎡(1階132.49㎡ 2階84.43㎡) |
竣工 | 2020年6月(工期2019年11月〜2020年6月) |
設計・施工 | ㈲勇建工業(担当:加村義信) |
構造形式 | 木造伝統工法 |
主な外部仕上げ | 屋根=三州瓦 外壁=焼き杉、土佐漆喰 軒天井=杉板 |
主な内部仕上げ | 天井=杉板 壁=本漆喰、土佐漆喰 床=檜、松 |
有限会社 勇建工業
〒465-0065 愛知県名古屋市名東区梅森坂1-222
「職人が建てる美しい壁のある家、目利きの選んだ素材と、確かな技術が織り成す、本物の心地よさ」
土壁と漆喰にこだわった注文住宅をつくる工務店です。
安心できる素材で断熱性能が高く耐震性の高い新築や
古民家再生・再築・マンションリフォームを設計施工しています。
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