「作庭家とつくる庭」住宅事例

『チルチンびと』125号の特集は、「作庭家とつくる庭」。
日本の住まいにとって欠かせない“庭”の存在にあらためて光をあて、建築と庭、そして住まい手の暮らしがどのように響き合い、共に育まれていくのかを探ります。
巻頭では建築史家・森本英裕氏が「日本の民家と庭」について論じ、日本の住宅文化における庭の思想的な背景を読み解きます。続く実例では、古川三盛氏設計による「寂庵つれづれ」や、古民家の再生と共に庭も整えたアトリエキラク×作庭家・菊池好己氏による住まい、また西村直樹氏が手がけた雑木の庭、時を重ねて育つ自邸の庭など、多様な庭づくりのかたちが紹介されます。
草花の世界に親しむ「草花図鑑」では、草苑・菊池好己氏監修のもと、大田黒摩利氏による繊細なイラストとともに、庭に息づく植物たちをやさしく解説。チューリップが春風に揺れるナチュラルガーデン、遊び心を刺激する庭、住まい手の個性がにじむコテージガーデンなど、庭の楽しみ方は千差万別です。
設計と作庭、大工をひとりで担う「SUPERアーキテクトビルダー」安藤洋介氏の仕事、眺めて遊べる庭をテーマにした未来工房の家など、職人と住まい手の対話から生まれた庭のあり方も必見。
“庭”という空間が、暮らしに潤いと時間の深みをもたらす存在であることをあらためて実感できる一冊。季節を感じ、自然とつながりながら生きる喜びを教えてくれる、庭のある暮らしの豊かさをぜひご覧ください。
再生した古民家に寄り添う庭
茨城県 O邸 設計・施工=アトリエキラク㈱ 作庭=菊池好己
築100年を超える古民家を再生し、住まいと調和する庭を整えたO邸。アトリエキラクの再生設計により、二世帯が快適に暮らせる住空間が実現。作庭は〈草苑〉の菊池好己さんが担当し、長年の植栽管理の経験を活かして、四季の移ろいを楽しめる里山風の庭を創出。バードバスや日陰のテラスが設けられ、人と鳥が憩う空間が広がる。歴史ある家に寄り添う庭が、暮らしに彩りとやすらぎをもたらしている。

- 緑陰とテラスがつなぐ視線軸 ― 室内から庭へと視線が自然に抜ける構成。
- 古民家の構造美と呼応する外構 ― 重厚な梁や玄関と連続性を持たせた庭構成。
- 大谷石テラスと水景の対比 ― 硬質素材とやわらかな水面の対比が空間を引き締める。
- 雑木のレイヤーで奥行きを演出 ― 雑木を重ねることで、庭に深みと時間性を加える。
- 回遊性と可変性を持つ庭動線 ― 手入れや季節の変化に応じて移動・視点が変化。
町なかに生まれた雑木の庭
滋賀県彦根市 細田邸 設計=横内敏人 作庭=西村直樹
新興住宅地に佇む細田邸の庭は、建築家・横内敏人氏と作庭家・西村直樹氏の対話から生まれた、建築と一体化した庭空間です。軒下から続く影を受け止めるように植栽されたモミジや、視界を遮らないよう工夫された高木と下草が、居室から庭へと自然につながる広がりを演出。敷地外の街路樹も借景として取り込まれ、暮らしと街並みにやわらかく寄り添います。さらに、飛び石には奥さまの実家から譲り受けた景石を再利用。記憶と風景が調和した、穏やかで洗練された庭です。

- 建築と一体化した庭 ―建物と自然が溶け合うように、室内とつながる庭空間。
- 室内から続く庭の眺め ―リビングの大開口からは四季を映す庭が広がる。
- 借景を活かした庭空間 ―山並みや緑を取り込み、庭の奥行きを感じられる構成に。
- 自然と調和する植栽計画 ―雑木や山野草を中心にした植栽が庭と建築をつなぐ。
- 記憶を紡ぐ景石のある庭 ―あるものを活かし、土地の記憶を受け継ぐ庭を再生。
時と共に育ちゆく自邸の庭
三重県四日市市 西村邸 作庭=西村直樹
築55年の古民家を再生し、自らの手で庭を育てる造園家・西村直樹さんの住まい。土間玄関を持つ田の字型の日本家屋に、前庭と裏庭という2つの小さな庭が寄り添い、自然とのつながりを日々感じられる暮らしを実現しています。既存の庭石や水鉢を生かしつつ、新たに植栽や石積みを施すことで、静けさと温かみが共存する空間に。庭はただ眺めるだけでなく、四季の変化や子どもの成長を見守る大切な場となっています。暮らしに寄り添い、心を整える庭の魅力が詰まった空間です。

- 三和土と庭石で継ぐ記憶 ―古材や庭石を再活用し、この土地の記憶を引き継いだ。
- 植物の成長に寄り添う庭 ―自然の流れに任せて整えられた庭は、四季の移ろいを映し出す。
- 既存素材を見立て直す構成 ―その場にある素材を多角的に捉え直し、再生された庭。
- 庭と建築が共鳴する住まい ―玄関や土間の構成にも庭との調和を意識、空間に一体感を生む。
- 文脈と時間を繋ぐ庭づくり ―時間をかけて育つ庭は、敷地に息づく文化や環境の継承へと繋がる。
暮らしに寄り添う庭
三重県 I邸 設計・施工=棲栖舎 桂 作庭=西村直樹
住宅地の一角、周囲を家に囲まれた敷地に生まれた「内にひらく庭」。借景が望めないという制約を活かし、暮らしの内側に豊かさを育む庭を目指しました。朝陽が差す場所にはモミジやシロヤマブキ、夕暮れには美しい影を落とす常緑樹を配し、時間の移ろいとともに表情を変える設計に。風や光、影の動きに調和した庭は、住む人の心に静かな季節の気配をもたらします。生活に寄り添い、感覚を研ぎ澄ませるような庭の在り方がここにあります。

- 木陰に包まれた寛ぎの庭 ―自然な木立に囲まれ、心落ち着く時間を提供する。
- 小道が誘う雑木の庭 ―緩やかな曲線のアプローチが、自然との対話へと誘う。
- 暮らしに寄り添う庭 ―窓の外に広がる緑が、日々の生活に潤いをもたらす。
- 四季の変化が楽しめる庭 ―草花や樹木の移ろいが、暮らしに彩りを添える。
- 家と共に育つ庭の景色 ―住まいと共鳴する植栽計画で、時を重ねて美しさが増す。
チューリップがゆれるナチュラルガーデン
京都府 A邸 設計=高橋 勝
L字型の建物に囲まれた庭は、チューリップや山野草が四季を彩るナチュラルガーデン。設計の髙橋勝さんが提案したのは、敷地奥の南西に庭を配置し、水田や山の風景が望める開放的なプラン。朝日が差し込む東側には平屋棟を設け、室内からも庭の緑を楽しめる。奥さまは観葉植物の育ちやすさにも喜び、ご主人は花がら摘みをしながら植物と向き合う日々を大切にしている。庭は美しさだけでなく、日々の暮らしに潤いと季節の移ろいを届けてくれる。自然とつながる庭のある暮らしがここにはある。

- 深い庇の庭テラス ―雨天でも使えるテラスから庭全体を一望。
- 季節を映すオランダ式の庭 ―チューリップを中心に、春の彩りが広がる。
- 枕木の小道が続く庭 ―デッキから西側へ伸びる動線が庭を導。
- 花の配置が楽しむ庭 ―球根をランダムに撒くことで、毎年異なる開花風景が楽しめる。
- 山と田んぼの風景と調和 ―自然の借景を生かし、四季折々の変化を楽しめる設計。
好奇心をくすぐる雑木の庭
愛知県 松川邸 設計・施工=㈱エコ建築考房 作庭=酒井隆博(SAKAI farm)
雑木に囲まれた松川邸は、大開口と縁側で庭とつながる自然素材の家。季節の草木に彩られた庭は、お子さんの情操教育の場でもあり、ご主人の手入れの時間が家族の会話を生むひとときに。雨の日も快適な室内環境や、どこにいても家族の気配が感じられる設計が、子育て世代にぴったり。ジューンベリーや山法師など、実のなる木々が楽しめる庭づくりは、暮らしに喜びと発見をもたらしている。家族の成長に寄り添う庭のある住まい。

- 四季を楽しむ雑木の庭 ―春の新緑、秋の紅葉、冬の枝ぶりまで楽しめる自然派ガーデン。
- 虫や鳥が集う庭づくり ―生きものの気配を感じる、命が巡るナチュラルガーデン。
- 家庭菜園に適した庭 ―将来の家庭菜園を見据えた土壌づくりと配置計画。
- 日差しを活かす庭設計 ―植物の性質に合わせた光と影の工夫で植物が元気に育つ。
- 自然素材と調和する庭 ―ナチュラルな住まいと一体となった風景のような庭空間。
SUPERアーキテクトビルダー 安藤洋介
岡山県岡山市 妹尾崎の平屋 設計・施工=㈱安藤工務店
岡山市の丘陵地に佇む自然素材の平屋住宅。大工修業を経て棟梁として独立した建築家・安藤洋介が、自ら設計・施工・作庭までを手がけた一邸です。伝統工法「折置組」による小屋組みが美しい室内は、吉野杉の上小節材を用いた手刻みによって生まれた上質な空間。軒深く光と風を招く開口部と、田園や斜面の緑を望む開放的な居間が、豊かな自然とつながります。庭は季節の樹木や苔、石を配した丁寧な作庭。暮らしの中に自然が息づく、職人の手仕事が光る注文住宅です。

- 季節の彩りを楽しむ庭 ―春の花や秋の紅葉など、四季折々の景色を感じられる設計。
- 吉野杉の軒先と庭の調和 ―深い軒と庭木の組み合わせがつくる陰影の美。
- 大開口から眺める雑木の庭 ―居間と食堂から連続する開放的な庭空間。
- 石敷のアプローチと和の植栽 ―鉄平石と姫沙羅や小羽団扇楓が織りなす和の趣。
- 作庭家が手がけた自然庭園 ―丁寧に配置された下草や景石が息づく庭。
眺めて遊べる庭のある暮らし
福岡県みやま市 O邸 設計・施工=㈱未来工房
築8年の住まいを手放し、本物の木の家と自然素材にこだわった暮らしを選んだOさん夫妻。熊本産の球磨杉や檜、八女杉の無垢材を用い、漆喰・羊毛断熱材など自然素材をふんだんに採用した未来工房の家は、薪ストーブのある平屋で、四季を感じられる庭とともに家族の成長を見守る空間です。ジューンベリーやイロハモミジが植えられた庭は、火山岩のテラスや小道が配され、眺めて、遊べる設計。自然素材の家と雑木の庭が織りなす、心地よく豊かな暮らしがここにあります。

- 山採りの雑木庭 ―野趣あふれる枝ぶりが暮らしに潤いを与える。
- 苔と石の小道 ―表情豊かな足元が季節の変化をやさしく映す。
- 遊べるテラス庭 ―火山岩テラスで自然とふれあう心地よい時間。
- 和洋が融合する庭 ―線と面の調和が奥行きある空間を生み出す。
- 川辺の開放庭園 ―川沿いの風景と庭が一体となる贅沢な眺め。
暮らしを彩るコテージガーデン
栃木県宇都宮市 T邸 設計・施工=㈱響屋
築60年の実家を建て替え、Tさんが選んだのは自然素材でつくる木の家。地元・栃木の工務店「響屋」との家づくりでは、森林認証材や自社開発の漆喰など、素材選びからこだわりました。薪ストーブのやわらかな暖かさと、英国風コテージガーデンが彩る庭のある暮らしは、家族や来客にも癒しを与えます。無垢材の床や調湿性に優れた壁が、季節を通して快適な住環境を実現。自然と調和した心地よい暮らしがここから始まります。

- 英国風コテージガーデン ―非対称な配置と草花の密植が魅力
- 宿根草の彩り ―季節ごとに咲く草花が庭を彩る
- 半円形の芝庭 ―柔らかな曲線が庭全体に調和をもたらす
- 花と野菜の共演 ―観賞用と食用を混植した英国式ガーデン
- 庭の入口のアーチ ―芝庭と草花をバランスよく配置
9月11日(木)発売

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