毎年、三井町市の坂集落の春のお祭りに、お宮の下の川沿いの道に出店を出したら楽しいなと思っている。30年ほど前までは、ちょっとした縁日みたいに数軒の屋台が出たそう。今では少子高齢化で、伝統芸能の獅子舞の存続も危ぶまれていた上、地震で鳥居も狛犬も未だ倒壊したままだ。
そんな中、今年の2月22日・23日と「青山ファーマーズマーケット」へ出店することとなった。いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)と石川県の里山里海振興室の支援を受けて、東京青山の国連大学前広場へ能登の3事業者が物販と地震前後の能登の話をしに伺うことになった。


地震以降、さまざまなイベントや物販をしてくださるというオファーをいただいたものの、ものを売ってお金を得るのは大事なこと、「買って応援」はありがたいのだけれど、「想いや背景がどこまで伝わるのか」どこか違和感があって、地震があってもなくても「好きだから」「共感するから」と求めていただく関係性が私には性に合っていると感じていた。被災者と冠がついた途端、「支援してあげると受ける」の上下ではないのかもしれないけれど、今までのフラットな時より少し傾いたような感じにモヤッとしていた。でも青山マーケットに集う人々はそんな話もざっくばらんにできそうな匂いがするので出かけてみることに。地震の被害で「可哀想」より、なんだか「可愛いそう」と店先でお客様と出会えるような工夫ができたら…


短い期間の中で出店まで一人で準備してこなすには段取りが大事。ラストスパートは菓子作りや梱包などバタバタするに違いないので、今のうちにできることを。羊羹のパッケージやしおり、pop、値札など先に準備しなければ。シルクスクリーンで紙箱の内側に手刷りする。今回はクラフトペーパーに白インクをのせて…こんな作業は楽しくて効率とか自分の人件費とか考えずに楽しがることが大事。ついでにパーカーにもプリントして当日着用することに。


何はともあれまずは餡炊きだ。大野製炭工場さんの炭を熾して、能登燃焼機器さんの珪藻土かまどに入れる。神棚から榊を下ろしてお焚き上げ。「おいしいあんこになりますように。」とおまじない。


立春は過ぎたもののまだまだ積雪が多い。冷たい山清水を銅鍋にたっぷり満たして洗った能登大納言を火にかける。


雪景色にもうもうと白い蒸気が上がり、小豆のコクのある香が冷たい澄んだ空気と混じり合って山に吸い込まれていく光景が好きだ。

ふわっと茹で上がった小豆は何もつけないでどれだけでも食べていられる。本当は粒あんにして置きたかったくらいだけれどこし餡も必要なので通しで濾す。晒し袋に入れて水気を搾り生餡となる。そこへ甜菜糖を加えて煉り粗熱を取ったらこし餡のできあがり。




同じように自家栽培の白小豆で白こし餡を。


また別に茹でた能登大納言を蜜につけ、琺瑯のポットに入れて雪の中一晩置く。また蜜を煮詰めて小豆を浸し一晩雪の中へ。これを三日三晩すると蜜漬けが出来上がる。あっさりとした蜜を含ませ豆そのものの香りや旨みを閉じ込めている。


しっかり密閉したらまた雪の中に埋めて急冷して一晩。マイナス1度で氷温効果もあって色も美しいまま美味しさもアップする。



瓶が乾く間にラベルの文字を書く。オニグルミのインクにアテ(能登ヒバ)のお箸を浸して「こしあん」「つぶあん」

ラベルを貼ったらひとまずホッとする。種を蒔いてから収穫、加工して、今瓶に閉じ込めたから一安心。

次は山で拾ってきたオニグルミを殻を割って実をほじくり出す。西洋クルミより殻が硬くて実も小さいけれどコクがあって美味しい。国産のナッツってとても貴重なもの。多良間黒糖の煉羊羹に加えて流し込む。



殻は鉢植えのマルチに敷き込むとかわいい。

ラベルを貼ってシルクスクリーンプリントした紙箱で包む。小豆BEANから竿物BARになるまでのストーリーや風景を楽しんでいただけたら。


あんこの瓶詰めもTOTEに入れたらかわいいかも、と追加で袋にシルクスクリーンを。

そうこうしているうちに田の神様まつり・アエノコトの季節。塩漬けの蕨ぜんまいを餡炊きの銅鍋で戻すと青々となる。一升枡に山盛りの赤飯に栗の箸。今年も溢れんばかりの豊作になりますようにと、田の神様を田んぼにお送りした。


さてと、次は琥珀糖botani菓の支度を。
自家栽培のイチジクと葉っぱ、ハイビスカス・ローゼルなど夏の間に収穫したものや、



冬の能登の海で穫れるアカモクという海藻と、白藤酒造の地酒白菊の酒粕など


10種の植物の自然の色や風味が表れる。缶と袋に詰めてようやく品物がそろった。

青山に到着したらブースのテーブルや什器をお借りしてセッティング。組み立て式の棚や木箱が使い込まれていい味出していて全体の雰囲気に統一感も出ている。



県の里山振興室のみなさんが本当に親身になって動いてくださり心強い。能登の世界農業遺産認定から十数年、金沢大学や国連大学などと共に、みんなで一丸となって「能登の価値」作り上げてきたので、地震よりずっと前からの結びつきの強さもある。なんとなくこのテントの下はHOMEという空気が流れていた気がする。



初日の午後からは復興支援企画「能登里山里海トーク」が国連大学の中で開催された。出展者の七尾市の能登やまびこの稲葉清弘さん、鳥居醤油店の鳥居正子さんと共にお話する。

いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)さんと以前一緒に取り組ませていただいた絵本の紹介もあり、商品と一緒にブースで展示もしていてお声掛けくださるお客様には紹介させていただいた。

「いつもSNS見てます」と訪ねてくださったみなさま、当日ふらりと立ち寄ってくださったお客様、学生時代の友人や、能登地震をきっかけに東京暮らしになった友人、以前から気になっていた出展者の方々と思いがけずたくさんの出会いをいただいた。





オンラインや通販と便利な世の中になったけれど、「マーケット」という人がわざわざ足を運び、直に話し、モノを介してココロを通わせる場には、単にカネとモノの交換という効率化されたところにはないナニカが満ちているなと思う。