「明けましておめでとう」という言葉がふさわしくないような…お正月は命日のような日になった。 ただ目の前のことをこなすというのは、前から同じようだがなんだか少し違う一年だった。2024年の小豆栽培のことを振り返ってみる。
6月、裏山のまるやまでお米を作っていた農家さんが能登を離れ、いつもなら田植えが終わって早苗がそよぐ風景がじわじわと雑草に包まれていった。
我が家の山清水のタンクが隆起すると同時にコンクリートの蓋が持ち上がり、中に落ちていた。集落の方が重機で引っ張り出してくださった。濾過器があるとはいえ、梅雨に向けて水が汚れず安心する。
地震で小豆を保管していた氷温庫の扉が開き、こぼれた小豆を拾って寄せてあったものを種子にしてセルトレイに蒔く。能登大納言小豆と集落の在来種、白小豆と毎年自家採取したものを使っている。直に蒔くとキジや山鳩などに食べられてしまうことが多いので苗を作ってから定植する。
里山の道には栗の花、エゴの花が落ちているなと思うと
次は、ネムの花。「小豆はネムの花が咲く頃、三粒ずつ蒔け。一粒目は鳥が啄んでも、二粒目は虫がかじっても、三粒目は人の口に入るように。」と集落のばあちゃんの教え通りに季節は巡ってくる。が、そのばあちゃんの家は全壊してもう人影はない。
家のまえの畑が連作が続いていたこともあり、能登を離れた農家さんの耕作放棄地をお借りすることになった。十年以上使ってない土地だったので雑草が蔓延っていた。大型の耕運機で耕してもらった後、夫が小型のもので二度ほど耕す。ススキの根が酷いが取り除くには多すぎてギブアップ。
軽トラで畑まで運んで用水路で水に浸して植えていく。
天気が崩れて植えどきをすぎて苗が徒長してしまったが仕方ない。倒し気味にして土をかけて押さえ込む。
時折手を休めるとヤブカンゾウのオレンジ色の花が荒れた田んぼの脇に揺れている。なんだかな…
輪島の町中で長い間和菓子屋さんをされていたご主人が店を畳まれるからと、水羊羹の木の折や道具や材料など譲ってくださる。ずっと欲しくて探していたものだけど、なんだかな…
ひょろっとしていた苗もどうにか根付いたようだ。新しく開墾した土地なので土壌環境がいいのかスクスク育っている。
お盆を迎え真夏の日差しの下畝間を草刈りの日々.
9月に入りちらほらと黄色い小豆の花が咲いてきた。
豪雨で河田川の水位が上がり、畑の小豆は猛暑のせいで蔓化しており大雨に打たれて倒れているものも多かった。上流のこの辺りは大したことはなかったものの、市内は地震に追い打ちをかけるように甚大な被害をもたらした。後ろ髪を引かれる思いでヨーロッパに出かける。
11月に入り、ようやく葉が黄変して、鞘が茶色く照ってきたものから手で摘む「鞘ぼり」。手間ひまかかるようだがクオリティの揃った上質なものにするにはこれがベストな方法。
株をかき分けるとシマヘビの脱皮したものや、モクズガニの殻が落ちていた。海から20キロもある里山まで、あの地震や水害のあとなのに遡上してきたことに驚く。そしてこの畑で土に還っていったのだと思うと、本当にいのちの環でつながっている。
晩秋の里山で無心に収穫。ひとつひとつ鞘をとって手押し車がいっぱいになる頃陽が落ちる。
よく乾いた鞘の中からは輝くような真っ赤な能登大納言がこぼれ落ちる。紅葉に包まれながら細かなゴミや土を唐箕で風邪を起こして吹き飛ばす。ゴロンゴロンと木製の機械音は優しいがしっかり不純物を取り除く優れもの。
白小豆は小粒なので余計に手間がかかる。よく乾いた鞘はメラメラと燃え薪ストーブの焚き付けにちょうど良い。
小豆の根を見ると窒素を固定する根粒菌がついているのが見える。無肥料なのによく育ってくれてありがたい。
一粒万倍という言葉があるけれど、本当にお金を銀行に預けるより絶対分がいいと思うのですが…この時期サツマイモ、芋の子など収穫が重なって豊かな気持ちになる。
虫食いや皺のある豆をより分ける。割れや色が悪いB級のものは味見に餡をたいて試食に。新物の柔らかな皮の食感と香りが立ってこれが一番美味しいかもしれないと毎回思う濃厚な豆らしい味。
大きな変化が続いた一年で、それはまだまだ終わりも答えも見えなくて、手探りで、気がつくと「なんだかなぁ」って口をついて出てしまうけれど、季節に背中を押されて「育てる」ことに「生かされて」いた気がする一年。今はそんな豆たちと雪の里山に冬ごもり。
春のなったら、豆たちと青山のファーマーズマーケットへ出かけます。久々のpop up storeで東京の皆さんにお会いできたら嬉しいです。
2/22(土)23(日) @国連大学
https://farmersmarkets.jp/concept
の菓子物販のほか里山の活動などについてトークイベントも予定されています。