二つの中庭に誘われて人も猫も憩う平屋

埼玉県川口市 注文住宅 ㈲ますいいリビングカンパニー
埼玉県

二つの中庭に誘われて
人も猫も憩う平屋

アプローチに㆒つ、メインフロアに㆒つ。
㆓つの中庭がもたらす美しい空間に、
センスよく住まう女性を訪ねた。

埼玉県川口市 注文住宅 ますいいリビングカンパニー 増田邸
設計・施工=㈲ますいいリビングカンパニー 写真=西川公朗

都内からのアクセスもよく、ベッドタウンとしても知られる川口市。主要駅から車を走らせること10分ほど、黄色のアバルト595がちょこんと停まる、切妻・大屋根の外観が目に留まる。

まるでSF映画に登場するかのような扉を抜け、見上げる空から、ここが中庭であることに気付く。「増田邸は女性のひとり暮らし。防犯はまず考えました」と、設計を担当したますいいリビングカンパニー代表・増井真也さん。周囲からの視線を遮りながら庭の楽しみも手放したくないと、外壁と同じ高さの外塀でぐるりと囲み、導入として第一の中庭を用意した。

コンパクトな玄関を入り、ワンフロアの室内へ。「ひとりだから、間仕切りはたくさん必要ない」と、住人の増田美奈子さん。納戸、愛猫たちの部屋、浴室のほかに個室はない、シンプルな住まいだ。

間仕切りにかわり、視線をほどよく遮るのは第二の中庭。ふと目をやると、光降り注ぐこの庭に、どこからともなくやってきた子猫たちが遊ぶ。「勝手に入り込んでくつろいでるんです、母猫もほったらかしにしてどこいったんでしょうね」と増田さん。おおらかな様子に、子猫たちも我が物顔だ。

家づくりを決めるまで

「もともとは、両親と祖母と3世代で、築50年以上の古い家に住んでいました。父と祖母に続いて母が亡くなり、家の老朽化もあり、建て直すか引っ越すか迷っていました」と、増田さんは家づくりに至る物語を聞かせてくれた。「母が亡くなって、自分でも驚くほど落ち込んだんです」(増田さん)。当時から現在まで、看護師として忙しく働く増田さん。30代の初め、お母さんに末期の悪性腫瘍が見つかり、自宅での介護のため休職。8ヵ月間の介護の末、お母さんが亡くなり、大きな喪失感に悩まされたという。「母の遺品にもいっさい触れず、仕事も休んでいました」と、当時を振り返る。

そんな折、とあるアドバイスが心を動かした。「近所に住む宮司さんの言葉だったんですけど、家なんか壊しちまえ、って。ハッとしました」と、当時の驚きを語る。借地のため引っ越しも視野に入れていたが、家を取り壊す、という思い切った行動が、思い出の詰まった家に囚われている現状を打破するきっかけになる、と思い直した。さらに、真新しい家をつくり、思いを一新しようと決意したのだ。

寄り添う家づくりを

「増田さんは、不思議なお客さんだったんですよ」と増井さん。設計を相談し始めた当初、増田さんはユーミンの「ジャコビニ彗星の日」のCDと宮沢賢治に関する新聞記事、下半身のない黒い馬の絵を持参した。「これが家のイメージだと言われて。驚いたけど、同時にやる気も湧きました」(増井さん)。設計を任せてくれる姿勢は、つくり手心に火をつけたという。「この黒い馬の絵は、喪失感に悩んでいた頃にアートセラピーの授業を受け、神田日勝の未完の一作を模写したもの。自立できていない心理状態と分析されたのですが、これがまさに当時の心そのもの。それにぴったりの家を、と思ってお見せしたんです。この他は、猫の部屋と庭が欲しいというくらいしか要望はなかったかな」と増田さん。「最初は青空に向かうようなイメージで、螺旋階段に屋上デッキのある塔のような家を描いたんです。だけどなんか違うなあ、と打ち合わせを重ね、平屋に落ち着いてからも紆余曲折あって、結局2ヵ所の中庭のある今のスタイルに」と増井さん。室内にいながら光や自然を生活に取り込む、美しい空間が完成した。

「うちには女性のひとり住まいを求めるお客さんは、結構いるんです」と増井さん。大切なのは、一人ひとりの精神世界に寄り添うことだと語る。「どんな方でも、家を求めるまでの物語がある。そこに耳を澄ませて、ぴったりの家をつくりたいんです」と微笑む。細やかな寄り添いの姿勢は、時に独創的に、住まいへと昇華される。「予算を抑えたいという希望もあったので、ハーフセルフビルドを提案しました」と増井さん。ローコストでありながら建主らしい空間づくりのため、同社ではハーフセルフビルドをすすめることも多い。手順や方法については手厚いサポートがあるため、初心者でも楽しんで取り組める。

「生活に手間を惜しまないのは当たり前のこと」と増田さん。この日も、取材に合わせ建具に柿渋を塗布し、雑草を抜き、家を磨いて出迎えてくれた。「この家は10年ほど前に建てたんですが、大切に住み続けてくれてとても嬉しい」と増井さん。つくり手と住まい手のつながりは、今なお深く続いているようだ。

 

埼玉県川口市 注文住宅 ㈲ますいいリビングカンパニー

 

所在地 埼玉県川口市
家族構成 女性1人+猫5匹
面積 敷地 126.11㎡
延床 61.47㎡
竣工 2012年2月(工期 2011年8月〜2012年2月)
設計・施工 ㈲ますいいリビングカンパニー (設計担当・現場監督:増井真也)
構造形式 在来軸組工法
主な外部仕上げ 屋根=ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き
外壁=モルタル木ゴテ仕上げ
主な内部仕上げ 天井=ラワン合板
壁=タナクリーム
床=無垢フローリング

 

チルチンびと109号掲載
 

有限会社 ますいいリビングカンパニー
〒332-0032 埼玉県川口市中青木3-2-5
 
工務店機能を備えた設計集団です。
家は家族の生活する大切な場所。伝統や既成概念にとらわれることなく、これからの日本の建築をつくっていきたい。
奇をてらうデザインではなく、住まいとしての調和のとれたほどよい空間を作りたいと考えています。

 

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