山々の緑がどんどん色濃くなり、工房のまわりの緑も競うように伸び続け、キジやウサギなどの格好の隠れ家になっています。今回はその中のひとつ、ヨモギを染料としました。ヨモギは新潟県の代表的な和菓子として知られている笹団子の原料でもあり、昔は各家庭でも作られていて、私も祖母の手伝いでよく採取にいったものです。私の地域ではヨモギのことを「モチクサ」と呼んでいて、正式な名前を知ったのは大人になってからと記憶しています。
団子づくりの材料としては4月、5月の若く柔らかい時期のものが良いとされ、6月は柔らかい部分が少ない晩期のヨモギ。団子づくりに近い感じで染色したいと思い、染色に使った部位は、少ないながらも団子づくりと同じく柔らかめの葉や新芽を選んで採取。鼻がスーッと通るような心地よい香りを楽しみながら染料を抽出し、明礬(みょうばん)媒染で染まった色はタンポポ色。同じキク科の花の色によく似た、見ていると明るくて元気が出そうな色が染まりました。
古代では、ヨモギ灰で紙の原料を煮熟してアク抜きをしていたそうで、和紙づくりとも関わりの深い植物のヨモギ。灰にしたものを煮て濾して、その煮濾した液体の上澄みのみを使用するため、大変な手間がかかるそうですが、いつかヨモギ灰で煮た古代の紙をつくってみたいと思っています。
田中雄士/紙工房 泉
わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている
- ◯第1回
- 鮮やかな檸檬色 -- ネムノキ
- ◯第2回
- 柔和な黄緑色 -- シソ
- ◯第3回
- 混じりっけのない素鼠色--クリ
- ◯第4回
- 蒸かしたサツマイモのような黄色--コウゾ
- ◯第5回
- 母性の薄紅色--ガマズミ
- ◯第6回
- 凛とした浅葱色--ヒサカキ
- ◯第7回
- 柔らかな光を感じる黄金色--イチゴ
- ◯第8回
- 朝焼けのような桜色--カスミザクラ
- ◯第9回
- 鮮やかな檸檬色、再び--フジ
- ◯第10回
- 力感溢れる冴えた墨色--モミジバフウ
- ◯第11回
- 澄んだ黒--サルスベリ
- ◯第12回
- 夏空を思わせる浅縹色--タデアイ
- ◯第13回
- 渋めの黄緑色--サワフタギ
- ◯第14回
- ハチミツのような淡めの黄色--ノリウツギ
- ◯第15回
- 淡い黄茶色と濃い鼠色--サツキ
- ◯第16回
- 控え目な檸檬色--キンカン
- ◯第17回
- 灰みの薄桃色--モモ
- ◯第18回
- 柔らか味のある薄鼠色--タラノキ
- ◯第19回
- 橙色がかかった桃色--オオバボダイジュ
- ◯第20回
- 落ち着いた洒落柿色--シャクナゲ
- ◯第21回
- 秋の日差しのような香色--イチジク
- ◯第22回
- 清澄な翡翠色--クサギ
- ◯第23回
- くすみ白(しら)んだ黄緑色--シュロ
- ◯第24回
- 赤みのさした薄茶色--ハス
- ◯第25回
- 鮮やかな赤紫色--ベニバナ
- ◯第26回
- 温もりのある曙色--日本茜
- ◯第27回
- 赤みのある明るめの褐色--アボカド
- ◯第28回
- 明るいタンポポ色--ヨモギ