今年は小雪との予報でしたが、工房周りの積雪は例年と変わりはなく、一面の銀世界。雪に閉ざされている状態ですので染料を採取するにも苦労します。こういう時は、雪の少ない地域からいただける染料植物が特にありがたいものです。今回はハスを使って染めました。

 

これまでハスというと、白や桃色の美しい花やみずみずしくて生命力を強く感じる葉にしか目がいかなかったこともあり、縁あって枯れ落ちたハスをいただけることになっても色が染まるイメージが想像し辛く、染められるかどうか疑問に思いながら沼へ採取に向かいました。
目指す部位は花托(かたく)。落ちないように注意しながら、枯れた茎が無造作に突き出している沼に漂う花托を魚網で拾い上げ、水ですすいで綺麗にしたものを使いました。その後、乾燥させた花托を煮出して取り出した色は、少し赤みのさした薄茶色。沼水に長らく浸っていた花托から染料が取り出せるものか心配していましたが、しっかりと色が出てきてくれました。
 

今度は生の花托や地下茎でも染めてみたくなりました。機会をうかがって、是非試してみたいと思います。

 

田中雄士/紙工房 泉

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている