アボカドで染めたきっかけは妻。いつもは私の仕事にドライな彼女がやたらと勧めてくるのです。彼女の好きな色のひとつ、コーラルピンク(珊瑚色/少し黄がかったピンク色)を染められると知ったようです。もともと好きでよく食べていたので、皮と種はすぐに貯まってきました。そろそろ染めようかと思っていた頃、親交のあるママレード&焼き菓子工房の杜屋さんと話をしていたら、なんと27年越しでアボガドの種を育て、ついに実の収穫に至ったというのです。それを聞いたとたん、そのアボガドの木に会いたい気持ちが高まり、静岡にいる杜屋さんを訪ねて剪定された枝葉をいただいてきました。

 

杜屋さんとの出会いはそもそも染料植物から。長野で作品展をしていた時に「鬼無里(長野市)の畑にアカネが自生しているのですが染料としていりますか」と声をかけてくださったのです。静岡から長野の畑に通っていることにもびっくりしましたが、私との出会いもそうだったように、一つ一つの縁を大切にされているということがお話を聞くうちにわかり、納得しました。その栽培やお菓子作りの姿勢に触れるにつれ、私が大切にしている「色を育てる感覚」に重なるところが幾つも感じられました。そんな杜屋さんの庭と畑は、魅力溢れる染料の宝庫にも見えてきます。

 

今回、杜屋さんからいただいたアボカドの枝葉を使って染め上げたのはシルクのストール。赤みのある明るめの褐色になりました。紅褐色あるいは日本の伝統色名で例えると蘇芳香(すおうこう)です。媒染は、私の工房近くの椿の灰汁です。今回の染め上がりは妻が教えてくれた色とは異なりましたが、私にとって良い染料と実感できました。コーラルピンクのストールで妻に恩返しできるように、これからもアボカド染めを続けていきます。

 

星名康弘/植物染め 浜五

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている